選択
「シェルミカ。君は、どうした方がいいと思う? 僕は君の傍にいたい。正直、すべてを放り投げてでも君と一緒にいたいんだ。アルテアラのことは嫌いだけど、君がいるのならそこに行きたい。シェルミカ、僕は君から離れたくない」
セシリオ様の紅い瞳がわたしを見据える。真剣な瞳。わたしの胸は、ぎゅっと締め付けられたかのように苦しくなった。
わたしも、セシリオ様から離れたくない。洗脳されていた日々のせいもあるかもしれないけれど、わたしは彼のことを大切に思っている。彼の弱さに触れ、彼の温かさに触れ、彼の愛に触れてきた。彼はわたしを求めてくれているのに、わたしが何も返さないのは自分でも許せない。
「……わたし、は。セシリオ様と離れるのは、嫌です」
「シェルミカ……」
正直に口にした。わたしの言葉に、セシリオ様は目を丸くする。そして、微笑んだ。綺麗な微笑みだけど、今にも泣き出しそうな悲しい色を含んでいる。
「嬉しい。僕と君は両想いだね」
セシリオ様は手を伸ばして、わたしの頬に触れる。わたしを抱きしめているユイナート様の身体がぴくりと動いたけれど、セシリオ様の手を払おうとはしなかった。以前までの彼なら、問答無用で手を払っていただろうに。
「僕がいなくても問題がなくなるまではここにいるよ。空間魔法で好きな時に会いにいけるから、大丈夫。全部片付いた後には結婚しよう。そして、一緒に過ごすんだ」
……? 今、衝撃的な言葉が聞こえたような気がする。
「誰が、誰と結婚すると?」
わたしが衝撃を受けている時、腰に回されていたユイナート様の腕に力が込められた。周囲の空気が数度下がったような気がする。彼が冷気を出しているのだ。
「僕とシェルミカだよ。夫婦になるんだ。そうすれば、僕とシェルミカの繋がりが深まって、これからもずっと一緒にいられる」
「ふざけたことを言う口ですね。今すぐ氷漬けにして差し上げましょう」
「その前にお前を燃やしてやる」
セシリオ様とユイナート様が睨み合う。彼らはもう、仲良しだと言っていいのではないだろうか。
肌がピリピリするので睨み合うのはやめてほしい。しかしわたしが身を捩らせると、それを封じるかのようにユイナート様の腕が動く。彼に抱き着いた姿勢のまま、自由に動くことはできないのだ。
この場を何とかしてくれないかと、エルロ様に目を向ける。彼はわたしの視線の意図に気付いてくださったのか、片目を瞑ってセシリオ様に向き合った。
「セシリオと姫さまが結婚するのかぁ。愛姫と祝福を受けているセシリオの子どもはもっとすごい力を持っているかもねぇ。興味深いなぁ」
「ふふ。死にたいのなら遠慮なく言ってくださればよかったのに」
逆効果だ。角度的にユイナート様の顔を見ることはできないのだけれど、なんとなくどんな顔をしていらっしゃるのかは分かる。それはそれは美しい微笑みが浮かんでいるのだろう。
「そうかっかしないでぇ。姫さまに嫌われちゃうよぉ。とりあえず~、ここで喧嘩するのはやめたらぁ。姫さま、自力で立てないのでしょ~。休ませてあげないとぉ倒れちゃうよぉ」
エルロ様は両手をひらひらと揺らしながらそう言った。とても助かる。正直に言うと、ユイナート様にしがみつきながら立つのですら辛いくらいなのだ。眠気なのか疲れなのか分からないけれど、気を抜けば意識も飛んでいきそうである。
「ごめんなさい、シェルミカ。貴女に負担をかけてしまいましたね」
ユイナート様はわたしの肩に優しく手を置いた。そのまま背中が撫でられたかと思うと、ふわりとわたしの身体が宙に浮く。突然の浮遊感に、思わず悲鳴が漏れた。
横抱きにされたのだ。慌ててユイナート様の首に手を回す。落とされることはないと分かっていても、怖いものは怖い。彼はわたしを見て微笑んでいるけれど、まだ怒っていらっしゃるのだろうか。
「僕は出ます。セシリオ、貴方は?」
「……ボスが帰ってきたら、連絡する。シェルミカ、すぐに会いに行くから」
セシリオ様はわたしの頬を優しく撫で、顔を近づける。その直後に額に柔らかな感触があった。




