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救助(2)


 俯いてユイナート様の顔を見ないようにしていると、彼が笑い声をこぼした。


「ふふ。顔を赤くして、どうしたのですか? 思い返してみると、僕と貴女がこうして傍にいるのは久しぶりですね。戻ったら、ちゃんと可愛がってあげますから」

「戻ってからの話をするのは戻ってからにしろ。いいから、シェルミカを連れて帰るよ。ボスに見つかる前にここから離れないと」

「分かっていますよ。この力が馴染んでいない今、あの男を相手にするのは容易ではないですから」


 セシリオ様の言葉に、ユイナート様はそっとわたしから手を離した。わたしが彼の手を目で追ってしまったのがばれていたのか、彼はわたしを見て柔らかく微笑んだ。


「今すぐにでも口づけて、貴女を抱きたい僕の気持ちも考えてください。そんなに物欲しそうな顔をされると、抗い難くなります」


 いつものユイナート様だ。少し懐かしい気持ちになる。彼と出会って突然閉じ込められた時には恐怖ばかり抱いていたけれど、彼のことを知っていったから、今では親しみも感じるのだろうか。勿論、恐怖は残っているけれど。囚われの生活には戻りたいとは思わないけれど。


 セシリオ様の言う通り、戻った時のことは、戻ってから考えないと。最優先は、この場所から離れることだから。教皇様が近くにいることは間違いない。それなのに彼が現れないのは、何か理由があるのだろう。彼がいない今が一番のチャンスだ。


 ユイナート様に促され、立ち上がる。さっきは影が力を貸してくれていたからか身体を自由に動かせたけれど、今ではまったくだ。力が入らない。なので必然的に、ユイナート様に全体重を預けるように抱き着く形になってしまう。恥ずかしい。子ども姿になっていた時はあまり感じなかった羞恥が復活したようだ。


 にこにこと微笑むユイナート様を睨みつけて、セシリオ様は大きな息を吐いた。その後、彼の身体からは膨大な力が溢れ出す。


「……さっきと同じように魔力を出したら、シェルミカが苦しいんじゃない?」

「大丈夫ですよ。僕が抱きしめて、衝撃を減らします。それに今回は帰り道が分かっているので、空間魔法に慣れていた貴方は調整しやすいでしょう?」

「僕だってシェルミカを抱きたい……」

「何か言いましたか?」


 彼らは帰る手筈を整えてくれるようだ。ユイナート様の言葉通り、わたしは彼に抱きしめられている。頭の後ろに手を添えられていて、彼の胸元から顔を動かすことができない。彼の鼓動は穏やかだけど力強い。そういえば今まで、彼の心臓の音に意識を向けたこともなかった。わたしの心臓の音は、彼に聞こえていないだろうか。自分ではよく分かる。うるさいほどにドキドキしている。


 これは、あれだ。偽物のユイナート様に触れられてきたから、本物のユイナート様に触れられると緊張してしまうんだ。それと、変な力を注ぎ込まれたせいで、媚薬を飲んだ時みたいに人肌を求めてしまっているんだ。


「エルロ。何か気になるのはあった? もう帰るよ」

「気になるのばかりだよぉ。ここってぇ多分、神さまの御所でしょ~? 試料をたくさんもらえてうれしいよぉ。この先に神さまがいるって思うとぉ、どきどきするねぇ。なんでぼくたちは見逃してもらえてるんだろうねぇ。神さまがその気になれば、ぼくたちなんてすぐ壊されちゃうだろうからぁ。首領もいないし~。何考えているんだろぉ」

「もうボスのことなんか知らない。僕との大切な約束を破って、シェルミカをかみさまのものにしようとしたんだ。許せないよ」

「ふふん~その調子だよぉ。君と首領が喧嘩したらぁ、面白いものが見られそうだものねぇ。洗脳魔法と精神力、どっちが勝つのかなぁ」


 ユイナート様の身体に意識が向かないように、セシリオ様とエルロ様の会話に耳をそばだてた。二人は仲良しではなさそうだけれど、長い付き合いなのだと思われる。それよりも、セシリオ様の精神魔法が解けたのは素晴らしいことだ。だから、ユイナート様との関係も改善されているのかもしれない。


 ぎゅっと、わたしの身体に回されている腕に力が込められた。苦しくはないけれど、距離が近くて落ち着かない。


「そろそろですね。神の妨害が入らないよう祈っておきましょう。神ではなく、自分自身を信じて」


 彼の声が振動して伝わってくる。全身がぞくりと妙に泡立った。わたしの身体はどうしてしまったのだろう。もしかしたら男神様に口づけをされた時に僅かながら変な力を注がれていたのだろうか。


「いいこと言うねぇ王太子さま。神さまのことは信じないほうがいいよぉ。ぼく、神さまのこと大きらいだからねぇ~」


 エルロ様がのんびりとした口調でそう言った。ここは神様の御所なのに神様の悪口を言うなんて、度胸があるというべきか。セシリオ様の知り合いということから、彼は教皇様に付いている使徒の一人だと思っていたのだけれど、神様への信仰心が一切感じられないので違ったのだろうか。

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