救助(1)
「へぇ~。あの方法で、本当にたどり着けちゃったよぉ。君たち、人間やめてるんじゃなぁい?」
ユイナート様がわたしの頭を撫で、それを見て不快そうな顔をしているセシリオ様に挟まれていた時、今までに聞いたことがない声が聞こえてきた。目だけを動かして見ると、ユイナート様たちと同じように空間の裂け目から一人の男性がいることに気が付いた。緑色の髪に、紫色の瞳をしている。かなり毒々しい見た目だ。
「エルロ、お前がなんでこんな場所を知っているんだよ」
「んん~? 知っていたわけじゃあないよ。ぼくがこっそりと首領のこと調べてたんだぁ。そしたらぁ、別の空間にいるんじゃないかって気づいてねぇ。ぼくの力じゃ確かめることもできなかったんだよぉ」
セシリオ様とこの男の人は、知り合いなようだ。エルロと呼ばれた彼は、興味深そうにあたりを見回して、そしてわたしに目を向けた。
「君が姫さまかぁ。初めましてぇ~。ぼくはエルロだよぉ。さっそくだけどぉ、君の魔力をもらってもいいかなぁ」
……わたしの魔力を? 彼の意図が読めずに首を傾げていると、セシリオ様が氷点下の目で彼を睨みつけながらわたしと彼の間に立った。
「シェルミカに手は出させない。お前はその辺を適当に見てきたら? かみさまの力に満ちているこの空間、お前にとっては最高の場所じゃないの?」
「そうなんだよぉ。さっきからわくわくが止まらなくてさぁ。ああでもぉ、ぼくを置いて帰らないでよねぇ。案内してあげたのぼくなんだからぁ。この煩い番犬くんがいないときに、またゆっくり話そうねぇ、姫さま」
エルロ様はひらりと手を振ると、ふらふらと御所の中を歩き始める。初対面で失礼かもしれないけれど、彼は変わった人なのかもしれない。彼の背中を見ていたセシリオ様は、首を振って大きな息をついた。
「はぁ……。あいつの相手をしていると調子が崩れるよ。ごめんねシェルミカ」
「い、いえ……。それよりも、セシリオ様たちはどうしてこちらへ……」
「どうしてって、君を助けに来たんだよ。変なことされてない?」
セシリオ様は、当然のことのように話す。彼の言葉を聞いていると、胸がぽかぽかと温かくなった。わたしには、助けに来てくれる強い味方がいる。けれどわたしは助けられるばかりで、何かを返せているのだろうか。
「わたしは大丈夫です」
「本当に? 頬が紅潮しています。それに、唇に液の後が残っていますよ。誰かに口づけをされたのですか? それも、軽いものではなく深いものを」
特に怪我を負わされたわけでもないので大丈夫だと答えたが、ユイナート様はわたしの唇をなぞりながら首を傾げた。端麗な彼の微笑みを間近で見ると、喉の奥が締まるような圧を感じる。この感覚も久しぶりな気がする。
「不愉快ですね。今すぐにでも上書きをしたいです」
彼はにこりと笑みを深め、わたしの顎に手を添えた。彼の目は全く笑っていない。どうやら彼は、とても怒っているようだ。このまま流れに身を任せるよりも、何があったのか自分の口で説明した方が良い気がする。
「……実は先ほどまで、この場所に男神様がいらっしゃったのです」
ユイナート様の唇が触れる前に、何とか口に出せた。すぐ目の前の彼は、紅い瞳を丸くしている。
「神がいたのですか?」
「かみさまがいたの?」
ユイナート様とセシリオ様が同時にそう言った。彼らは互いを睨むように顔を合わせたが、同時に顔を背ける。なんだか、喧嘩をしている兄弟のようだ。前までの殺伐とした雰囲気はなくなっていて、安心である。
「ならばこの空間も神の監視下にある可能性が高いですね。というよりも、ほぼ確実にそうだと思われます。高密度の神力で満ちていますから」
「ボスが僕との約束を破って、シェルミカをかみさまに捧げようとしたんだ。でもボスは失敗したんだね。良かった、君がかみさまにとられなくて」
彼らの考えは的確だ。そういえば今ユイナート様は、この場所は神様の力で満ちていると仰ったけれど……。彼は痛みを感じていないだろうか。高密度の神力は、彼にとって毒になるのではなかったか。
「ユイナート様。お身体は平気ですか?」
「……? ああ、神力のことですか。先の世界で神力を吸収したからか、耐性がより強くなったようでして、何の問題もありませんよ。僕の心配をしてくださったのですか? 貴女はとても優しいですね」
ユイナート様はにこにこと微笑みながら、わたしの頭を撫でた。彼が痛みを感じていないのなら良いのだけれど、こうやって優しく頭を撫でられると恥ずかしくなる。




