機械仕掛けと世紀末潜入捜査員 その八 行動予測
視覚情報が共有される。一体はホテルで何度か見かけた翼の生えたエビみたいな、けど知的菌類らしい異世界の宇宙生物。同じ種族は何体かいたが、彼だけいないはずの個体らしい。
俺でも見分けがつかないうえに目もなければ触角や尻尾など、思考を読み取りやすい部位もない。そもそも人間基準で見た感情を持っているかも疑問だ。
もう一人は勇者よりも爬虫類成分の強い種族だ。二足歩行だが全身を鱗が覆い、蛇のような瞳と尾が特徴的だった。一瞥すると僅かに尾を揺らすが、野生動物的な眼はどこを見ているかをハッキリとさせない。
最後の一人は人間か、人間に近い生物だった。カノンみたいに整った顔をしているけど機械じゃない。宗教的な黒いフード付きローブを纏った艶やかな女性で、背は高く、両目はベルトで作られた眼帯によって閉じられている。
(まずいな。……わからない)
(あんな豪語しておいてそれは、常人なら恥ずかしさで悶死するところですが治安維持隊長様は訓練でもされたのですか? 恥ずかしいこと言って平然としていられるような。――――謝罪マニュアルのデータを念話で送ります)
カノンは底冷えた一瞥をくれると俺の脳内に彼らの世界で使われる謝罪の仕草。言葉遣いのデータを送ってくる。ああ邪魔臭い。考えてるんだ。謝るのはやらかした後だ。
『――――告白します。我は罪深き者です。宴にて、光あるものを爆破します。狂気で心が疼きます。全員殺します』
思い返す予告状。予告通りなら何もしなかったら手遅れになる。刺激するのも悪手だが放置は最悪だ。だから賭けに出たのに、今この場にいる誰一人として殺気の類はない。……考えろ。何かがずっと脳に引っかかっている。違和感はなくす必要がある。
確かに予告状は第五世界の文字だった。今この混乱を起こしてるのはシュトラフとユリシス。彼らも第五世界から来ていて、最初に会ったときから何かしでかす気満々な眼をしていたバカップル。
――――『ああ、私も一つ聞きたいことがあったところだ。このホテルで今日、創立記念パーティの一環として文字通り世界中から宝石や武具を集めた展覧会があるそうじゃないか。何時から、どこで行われるか分かるかね?』
――――(そうそうその意気だよ。パーティは絶対成功させなくてはならない。宝石のほうはもう並べたかな?)
思い出していく。思い返していく。……彼らが本当にあの予告状を送ったのか? 確かに宴のときに照明が落ちた。同時にこの事件が展開された。けど殺す? 最初の予告状の犯人と同一なら爆破しないといけない。……どうやって?
それに――彼らと最初に会った時点で俺は確信できていたはずだ。
「彼らの目的は――――パーティに展示されている宝石です。これらの石は世界によって価値を持つものだと推測できます。安定した世界では綺麗だという理由のみであらゆる便利な道具よりも価値を持つことがあります」
推測で適当なことを言った。もう少し考える時間が欲しかったから。これ以上沈黙を貫くのはまずかったから。散らばり掛けたお客様の意識をこちらに引き戻す。絨毯を踏みしめて意味深げに左右に歩き回る。いつの間にか照明の灯りを減らし、俺にスポットライトが当たっていた。
……思い出せ。彼らはどんな目をしていた。あの三人のお客様から一人でも犯人を選べればいい。変身する対象も無作為ではないはずだ。ランダムな数字を選ぼうとしてゾロ目を避けるように法則があるはずだ。敵は人間だ。無意識を選ぶことはできない。
――――あいつらは犯罪者の目をしていた。純粋な少年のような物欲と享楽を求める危険な目。琥珀色の双眸。少女の瞳は色に濡れていた。ぴょんぴょんと跳ねる仕草。身長差。男のほうは彼女が肌を露出させるのを好んでいなかった。
しかし最初に警戒しすぎたのは悪手だった。明らかに対策を取られている。三人とも視線の先が見えない。特に空飛ぶ菌類と眼帯の女性。だから断言はできない。だが、だが……。
一歩二歩と詰め寄る。眼帯の女性に。彼女は毅然とした態度を取り続けていた。動揺もない。
「あなたがユリシス・メディム・アボリジナル様ですね。レディ、よろしければ抵抗せずにお縄ついてもらえますか?」
女性の手を握った。彼女に最初見たときのあどけない仕草はない。むしろ正反対だ。体格も、艶やかで快活な雰囲気は妖艶で大人びた色を帯びている。
「あら……? なぜ私がその……ユリシスさんだと思うのかしら」
視線は見えない。薄い半透明の布が顔を隠しているせいで表情だって読み取りにくい。けどこれで容疑は確信に至った。
「お客様、翻訳機をお使いですが、我々ホテルマンにはどの世界のどの国の言葉か見えております。第五世界からチェックインしていただいたお客様は…………限られているのですよ」
そしておそらくシュトラフは――――。今までの行動から予測した対象に、異界の空飛ぶ菌類に俺は拳銃を突き付ける。
「あなたがシュトラフ・トリスタン様ですね。会場は既に包囲しております。諦めてください」
緊張の糸が張り詰めた。ごく一部のお客様を覗いて全員がことの結末を眺めている。カノンがゆっくりと彼の背後に回った。金銀の絢爛なスポットライトなか、鈍色の銃身が武骨に煌めく。
「……ホテルを爆破しないなら止めないのではなかったのかね?」
黒翼を仰ぐ菌類は芝居掛かったシュトラフの声を身体全体から響かせた。




