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異次元ホテルへようこそ!  作者: 終乃スェーシャ(N号)
三章:パーティが終わるまでに
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機械仕掛けと世紀末潜入捜査員 その八 犯人はこの中に

 大衆騙しの推理ごっこをするための場を作り上げた。事実、彼らはまだいるはずだ。お客様の数は記憶している。


 視線が向かった。困惑していたお客様も、勇者との闘いを眺めていたお客様も。同じ顔がいくつも並んでるのは生理的に気持ち悪かったが感情は幸い読み取れる。


(バロン、何のつもりですか?)


 カノンは華やかな笑顔をお客様に見せながら、ほんの一瞬俺の顔を覗いて睥睨してくる。苦虫を噛み潰して咀嚼させられたみたいな表情だった。機械に思えないが俺以外に見られたら不安視されかねない気がする。


(こういうことは余計な説明をするくらいなら娯楽にしたほうがいい。反逆者の処理と同じだ。内密に殺すより広間で公開処刑のほうが見せしめになるし、コソ泥は男女平等に縛り上げて裸にして見世物にするに尽きる)


(最低な比較対象ですね。……殺す必要も裸にする必要もありませんからね?)


 変身したお客様とそうでないお客様を分けて、さらに追加の飲み物だの料理だの、バルコニーに出て怪しい薬やタバコを吸っていた方にも協力して戻って貰った。


 カノンがカツカツと靴音を立てて俺のとこに来る。緊張で表情が厳しくなっていた。


「大丈夫なのですよね。探偵ごっこは構いませんが誤ったとき、お客様の名誉とホテルの尊厳を貶めることになるのですよ? それに不用意に犯人を刺激するのは危険です」


「大丈夫。見せしめのときに店が出る地域もあるぞ。俺のとこじゃサソリとサボテンの串焼きが定番だった。あれはチープだけど旨い」


(話を理解していますか? ワタシが言っているのは――――いえ、すみません。理解してないわけないですよね。……緊張を紛らわす手段としては分かりにくいと思いますが)


 大きく息を吸う動作をしてカノンは胸を押さえた。憂いげに蒼い光が揺れる。少し見惚れそうになって咄嗟に顔を背けた。


(不安です。信頼はしていますが、胃が痛い)


「……ないだろ胃」


 ぼやきながら俺は変身してないお客様の方へ歩いた。敵は準備してきている。部屋が包囲もとい厳戒態勢に入るのは想定内のはずだ。まだ強行突破を行っていないところから察するに、悠々とこの場を抜けられると考えている。


「これから行うのは推理です。もし犯人が的中していた場合は盛大な拍手をしてくださると幸いです」


 ポーカーフェイスを整えた。余裕のあるフリをすると高鳴る心臓が落ち着いていく。周囲のどよめきに期待が加わるのが分かった。……最初から理解していたつもりだったが、こんな世界に来れる時点でお客様も大概ただ者ではない。


 だが治安維持隊隊長として彼らがクリーチャーだろうが神様だろうが異界人だろうが安全は保つ。そのうえでホテルマンとして暇はさせない。不安は抱かせない。エンターテイメントとして犯人を処理する。


「このたびの犯行に及んだのは第五世界の人間種。現在半数以上のお客様が変身している少女と男性のワンペアです」


 幸いろくでもない存在ばかりで、ほとんどの者に危機感がない。パニックやヒステリーを起こさないのは素晴らしい。偉大なる父の民にも見習ってほしいものだ。


 それに、こうしてお客様に一か所に集まってもらうとよく分かる。特に人型。そして視線がどこを見ているか分かる種族。そうでなくても集まったなかでどの位置に立っているかを見るだけでも犯人はほぼ限定できる。


「犯人はミスディレクションを誘発しようとしました。停電、変身による工作。……いえ、本当に混乱に乗じて逃げるつもりだったのかもしれません。しかしお客様の冷静な対応に感謝致します。混乱は最小限のものでした。他のお客様が暴れてしまった際もとても助かりました」


「悪かったわね……!」


 勇者は座り込んだ状態で呟く。赤らんだ頬、小刻みに震える竜尾。恥ずかしかったらしい。だが騒ぎでパニックになっていたら逃げられていたかもしれないのだ。


 このホテルじゃなきゃきっとダメだった。深々と感謝の一礼。帰還したら礼の数だけ偉大なる父に懺悔しよう。だが今は――――。


 表情を見ろ。反応を見ろ。この世界のなかで俺は力なんてない。けどカノンにも分からない違いが分かる。俺の才能だ。俺の経験だ。今生かすべきだ。


 人型じゃなければ他の動きを観察しろ。触手、長い耳、砂漠狼みたいな尻尾。筋肉の緊張。どちらの目が大きく開いているか。呼吸の頻度。


「犯人は変身したお客様のなかにはいらっしゃいません」


 断定はできない。だが琥珀色の双眸の、奥底にある色彩は特徴的だった。見た目が同じでも隠せない狂った恋情と享楽を求める光が誰にも灯っていない。


「彼ら二人はお客様を自身らの姿に変えたあと、さらに変身、はたまた変装をしたのでしょう。彼らにとって予想外なことは世界の差異です。今からこのなかにいる犯人を当てて見せましょう」


(カノン、会場に入って来たお客様のログを見返してくれ。あいつらが変身してたら、記録にないやつがいるはずなんだ)


(ワタシらしい役目をどうも。すでに行いました。変身によってあの二人の姿になっていないお客様のなかで、会場に入った記録がないのは…………三体)

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