勇者と魔王の最終決戦 その八 魔王の嘲笑
【勇者と魔王の最終決戦 その八】
最初に攻撃に転じたのはホテルマンの男だった。我が世界にある銃や弩よりもはるかに高性能なものを武器に連射。轟く発砲。相手は誰かの変身魔法……否、魔力を使わぬ別世界の力でもって姿を変えられており、我が姿と同様の少女となっていた。
身を翻して靡く白髪。華奢な手足だが根本の身体性能は変わらないらしい。瞬時に聖剣を空間より抜刀。弾を全て斬り伏せる。嵐のごとき刀風と衝撃が絨毯をズタズタに切り裂き、依然として暗闇のなかに落ちたこの部屋によりもドス黒い一閃を描く。
「魔王様。彼女は――――」
平和ボケしていた我が右腕ですら彼女の正体に気づいたようだった。目を見開いて死闘を見据える。
「彼女はとても才能がありますね。あれは勇者の聖剣と同じ性質の武器でしょうか。しかし黒い。なんて黒檀だ。殺意しかない。天武の才です。勇者の盲信に染まって正義とは違います。なぜホテルマンと敵対しているか知りませんがスカウトすべきかと」
正体に気づいているかと思ったが相変わらず変なところが抜けていた。だがその言葉のほとんどが真実だ。殺意。殺意。聖剣は用途と心情に作用されて形、切れ味をも変える。
ホテルマン達が劣勢だった。男のホテルマンはナイフを構えて滑り込む。少女の健を撫で斬ろうとすれば鞘で殴り飛ばす。剣閃。刃すらないのに男の服は裂けてとめどなく血が溢れる。
血相を変えた機械人形が地面を蹴り放って跳躍した。音はない。空気の抵抗を殺して余興で見せた白刃を少女の背に振り下ろす。だが刃が触れるよりも速く、身体を捻って渾身の回し蹴りを撃ち込まれる。
「お客様」
死闘を観ているとホテルマンの巨大なピンク色の猿が声をかけてきた。ウホッ、などという鳴き声が瞬時に我が世界の言語に変換される。
「魔王ディスト・デッド・ブラッド・エンド様と凍刻のクロノディアス様ですね。おめでとうございます。お二人は抽選のもと特別なツアーに当選致しました。よろしければ今すぐ案内させていただきますが」
嗚呼、そういうことか。彼女は我々を殺そうとしているのか。なるほど、最高のパーティだ。戦争に正義を掲げた象徴の末路があれか。彼女の精神は壊れかけている。信じる拠り所を失って殺意しかなくなったのか。
「ホテルマンよ。悪いが特別なツアーよりもこれを見届けさせろ。これほど面白いものはない。我々の最終決戦だ。貴様らは精々守ってみせろ。お客様は神様ではないかもしれんが、貴様らにとって我々がルールだろう?」
幼い声でこんなセリフを吐くのは魔族としてのプライドが逆撫でたがもはや気にならぬ。今更になって疼痛を起こす折れた角。我は最大限に嘲笑した。勇者の成れ果てを傍観して、僅かばかりに魔力を纏う。
「魔王オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォ!!」
少女が張り裂けんばかりの声をあげた。紛れもない竜の【咆哮】。視覚すら歪む音の爆弾。鼓膜を震わせる魔力が彼女に纏っていた呪いをも吹き飛ばした。少女の姿が一転して、真紅の竜女へと変わる。獰猛な牙。黄金の双眸。怒髪冠を衝きあげる形相。
「勇者!? ま、魔王様。いえ、私は最初から彼女の正体はわかっていましたが――」
「良い。許そう。だが命令する。一切手出しをするな。我と共に見届けよ」
我が右腕が跪く。我々が剣を向けないことがよほど逆鱗に触れたらしい。彼女は声にならない叫びを轟かせると一層、鋭い剣筋を見せた。
漆黒の刃が機械少女の白い光が交わる。衝撃のたびに突風が乱れ魔力の波が黒い波動となって広がる。勇者にさせられた少女の慟哭を見届けさせんとばかりにホテルの照明が復旧していった。
金銀の絢爛の輝きのなか血潮と剣撃がぶつかり合う。客の多くがそれが余興ではないと理解しているはずだが、我々は魅せられていた。




