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異次元ホテルへようこそ!  作者: 終乃スェーシャ(N号)
二章:パーティが始まる前に
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機械仕掛けと世紀末潜入捜査員 その四 不器用な抱擁

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 赤い絨毯の廊下が伸びていた。壁に掛けられた異世界の絵画を節目に、連絡をくれたバーの近くまで駆け付けたらすぐにエルフィを見つけることが出来た。


 金髪碧眼の少女はあどけない白いワンピースをふわりと揺らして、華奢な手で拳銃を握り締めていた。彼女は唇に指を当てて恍惚としていたが、俺に見られていることに気がつくとすぐに無邪気な笑顔を浮かべて、垣間見えた獰猛な牙のような感情を隠した。


「ねぇ、ホテルマンさん。わたしの大切な人が見当たらなくなっちゃったの。赤い髪のドラゴンみたいな女の子が連れ去っちゃったかもしれなくて」


 ぞくりと鳥肌が立った。なぜ怖がる。彼女は銃を持っているがそれだけだ。非力で幼い少女でしかないはずだ。なのに俺には彼女の底が見えなかった。声が震えそうになるのを押し殺す。


「コヅカハルト様でしたらただ今エントランスのほうにいらっしゃいます。よろしければご案内させてください」


 ――――お客様がいかなる種族でも、いかなる宗教や食性を持っていても緊張を見せてはいけない。恐怖してはいけない。その感情は決して隠すことはできないものだ。謙遜の心は大事だが、己を矮小化してはいけない。


 『異次元ホテル行動基準――さすが異次元ホテルと言われるために』に書かれていた一文を思い出し、俺はホテルマンとして最善の対応を取る。


 エルフィはしばし沈黙を置いた。酷く悩むように熟考した末に、天真爛漫な笑顔を咲かせる。


「……分かりました! 案内してください」


 読めない。彼女の瞳を見ても見えてくるには余りにも重過ぎる愛。愛。愛。それに独占欲。バーテンダーが警告してくれたのは正解だった。彼女はあまりにも危険だ。


「ではこちらへ。しかしその前に、他のお客様のご迷惑になりますので銃器の類は見えない場所にしまってください。もしよろしければホテルのロッカーなどもご利用いただけますのでお預かり致しましょうか」


 エルフィは小さく首を振って拳銃を鞄に入れた。


「これはわたしの宝物なの。わたしのハルトもね、開発に関わった最高の市販品。だからずっと肌身離さないようにしてるの」


「かしこまりました。ではご案内致します」


 慣れてしまうと敬語への躊躇いもいつのまにか消えていた。俺はエントランスへ足を進める。案内という名目で彼女に干渉する不審者がいないか、エルフィ自身が不審な行動を取らないかを警戒し続けた。


「ハルト!」


「エルフィ!?」


 エントランスに出てすぐにコヅカハルトの姿を見つけたのか、彼女は嬉々として彼のもとにまで駆け出した。勢いのまま攻撃に出る様子もなく、二人は愛し合う夫婦のように抱き合う。コヅカハルトは膝を地面につけ、エルフィは脚が震えるくらい背伸びをしていた。


『戻って来ましたね。エルフィは何か不審な行動をしておりましたか?』


 受付にいるカノンは客に微笑みながら、無線を使って俺に尋ねた。……眼で判断出来ることを抜きにしてもエルフィはなにか黒い要素を持っているだろう。


「拳銃を持って歩いてた。慣れてる手つきだった。引き金に指は入れてないし銃口は床に向けてる。あの子まだ十三歳だろ? 俺の世界ならわりと普通のことだが、第……二だっけ。向こうの世界では普通のことなのか?」


『まさか。そんな世紀末な世界はあなたのとこと第一世界ぐらいなものです』


 カノンは小さく首を横に振りながら一蹴する。俺は改めて二人を注視した。傍から見ると仲睦まじい父親と娘のような夫婦はいまだに抱き締め合って、エルフィが彼の胸元に頬擦りし始めたところだ。甘えているだけにも見えるし、もっと深い感情の現れにも見える。


 二人のハグは長かった。数分かもしれないが棒立ちして待っている身としてはとても長く感じれた。俺とカノンのことをようやく思い出してくれたのか、コヅカハルトはハッとして目を見開き、エルフィと適正な距離を取ると恥ずかしそうに頭を掻いた。


「あっ……! すみません。てっきり誘拐されたと思っていたばかりに……」


「いいえ。お力になれて何よりです。お客様の幸せがワタシ達にとって何よりも嬉しいものですから。ところで、連絡を取り合うための機械等はお持ちですか? もしお持ちでなければ当ホテルにいる間のみ携帯電話または連絡魔水晶等の貸出も行っておりますよ」


「あ、いえ、機械自体は所持しています。ただエルフィの物が部屋に置きっぱなしになっていたもので。……どこ行ってたんだ? 本当に心配したんだぞ」


 優しく窘めるような声だった。コヅカハルトはエルフィの両肩を掴んで目と目で向き合う。少女は碧の双眸を潤ませて、涙を隠すように顔を俯けた。


「ごめん……慌ててたから」


「いや、とにかく無事で本当に良かった」


 コヅカハルトは嘘偽りのない言葉を発した。目を見ずとも分かる。彼は純粋にエルフィのことを想っている。だから俺には彼が浮気をしていたなんて情報も、壁ドンをして勇者をどこかに連れていった事実も、ハッキリ言って信じられない。


 詮索をする必要がある。何が嘘偽りかを見極めるためにも。それに彼がもし爆破犯に脅されていたりすればきっとヒントを混ぜてくれるだろう。俺は事態を見極めるために彼に疑問を投げ付ける決意をした。


「……お二人が再開できて我々も嬉しい次第です。しかし、もしよろしければ今後のホテルのサービス向上のために、なぜエルフィ様が誘拐されたと思われたのかをお聞きしたいのですが構いませんか?」

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