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異次元ホテルへようこそ!  作者: 終乃スェーシャ(N号)
二章:パーティが始まる前に
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機械仕掛けと世紀末潜入捜査員 その四 仮面の応接

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 非常事態で猫の手も借りたいからって許しすぎたかもしれない。けどバロンはホテルマンとしての仕事もこなすと宣言してくれたし、ガキでもできるなんて発言も撤回してくれた。


(彼ら皆が寛げる時間を提供するために行かせてください)


 メモりに保存した動画ファイルを再生すると思わず笑ってしまいたくなる。数時間前の彼とはまるで別人で、瞳が熱く燃える姿も、ビシッと整ったスーツに立ち振る舞いを見ていると自分のことみたいに嬉しく思える。認めたくはないけど。


「ふふふ……まぁワタシが上司ですから当然ですね」


 いけない。つい浮かれてしまう。今は緊急事態なのに。ワタシは自分の頬を軽く叩いて気を取り直す。


 今までもこうした事件が無かったわけではない。この世界の資源に目をつけた大国を滅ぼしたり、このホテルで集団自殺をしようとしたカルト宗教を元の世界に送り返したり。けど複数の事件が絡み合うのは初めてだ。慎重に対応して事件を紐解かなくてはならない。


 数分ほど待つとワタシよりも最新的で黒一色のパワードスーツを身を包んだ民間軍事会社の兵士達を引き連れてコヅカハルトがエントランスまで降りてきた。


「すみません。さきほど電話したコヅカです」


 電話のときより口調は落ち着いていたけど、脚を貧乏揺すりさせ、苛立つように髪をわしゃわしゃと掻いていた。


「コヅカハルト様ですね。どうぞそちらの椅子にお掛けになってください。エルフィ様でしたら既に居場所は把握できております。ただいま現場に人を向かわせているので少しお待ちいただければ幸いです。よろしければお飲み物を用意致しましょうか」


「そ、そうですか……。ならよかったです。飲み物は今はいいです」


 コヅカハルトは安堵の溜め息をついて苛立ちを鎮める。穏やかで哀愁のある笑みをワタシに浮かべた。二人に何かが起きたことは間違いない。お客様の気分をこれ以上損ねないように、けれども情報を聞き出さなければ他のお客様に害が及ぶ可能性がある。


 けれど言葉は選ばなければ。彼は激昂するタイプの人間ではないけれど、本当に浮気をしていたのだとしたら下手な言及は問題を悪化させかねない。


 彼のいた世界では浮気はあまりにも重罪で、愛を裏切ることは時には強盗よりも重い罰が下るからだ。財閥の一人息子がそんなことになればどんな揉み消しをするかも分からない。


 ……苦情コンプレインは連鎖する。何かの問題がお客様の機嫌を損ねれば、普通時なら気にならないことにまで不快感は募り、チェックアウトのときに爆発してしまうのだ。まずはお客様のお話を伺えるように誘導する必要がある。


 話を聞ければ逆転のチャンスも真摯な応対もできる。ワタシはドライフルーツや飴菓子の皿を寄せた。真剣な眼差しで、小さな合間に微笑む。


「奥様想いなのですね」


 何気ない会話から繋ごうと思って、浮気をした夫にとってはあまりに際どい内容を口にする。けれども言葉自体に悪い要素は無く、この発言で機嫌を損ねることはないはずだ。


 ワタシの予想通り、コヅカハルトは不快感を示そうとはしなかった。ただ恥ずかしがるように苦笑いを浮かべて髪を掻く。「大切な妻ですから。……さきほどは取り乱してしまい申し訳ないです」


 彼の発言が嘘だとは思いたくない。お客様を信じるのがホテルマンの仕事だ。けど、けど、ならどうして浮気なんて。


 ――――バーサーカーに代わって貰えばよかった。恋情愛情が絡むとワタシの処理能力は大幅に落ちてしまう。そういう風にプログラムされてしまっている。


「……俺に何も聞かないんですか? なんで誘拐だと思ったんだとか」


 彼は表情を曇らせる。聞いてくれと言わんばかりにワタシに詰問した。頭を抱えて、深い溜め息と同時にうなだれる。


「いえ、忘れてください。変なこと言ってすみません」


「思い悩むことは誰にでもございます。もうすぐ北端の崖で世界のお酒やソフトドリンクを飲みながら日が沈むのを眺めるツアーリングがございますよ。奥様とご一緒にいかがでしょうか。きっと、さらに仲睦まじくなれます」


「あ、気を遣わせてすまない。俺はもう平気ですから」


 彼は空元気を振り絞ったような笑みを浮かべて、ドライフルーツを一つ手に取った。

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