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異次元ホテルへようこそ!  作者: 終乃スェーシャ(N号)
二章:パーティが始まる前に
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機械仕掛けと世紀末潜入捜査員 その四 虚言

「ええと、それは……」


 ハルトは口篭った。言葉を考えて、ちらちらとエルフィの童顔に視線を泳がせる。明らかに何か隠し事をしている。やはり二人の背後に爆破予告犯の脅迫があるのか?


 それとも二人のいざこざか。……いや、後者はないな。彼らのハグが嘘に思えなかった。間違いない。年齢差は気になるが愛し合っている。喧嘩をした様子も見られない。


 原因を推測しようと頭を巡らせていると顔に出そうになって俺は咄嗟にホテルマンとして毅然とした、けれども柔らかな表情を整える。そんなことをしていると不意に服の袖を引っ張られた。か弱い力。エルフィだった。彼女は麦わら帽子で顔を見えないように俯くと、蚊の鳴くような声を発した。


「ごめんなさい……。かまって欲しくて『エルフィは浚った。返してほしければ一人で南端の海岸に来い』って嘘の脅迫文をテーブルに置いたの。そのあと隙を見て部屋を抜け出て……こんな、グスッ。こんな大ごとになると思わなくて……ヒグッ」


 強く問い詰めたつもりはなかったが、少女はだんだんとえずいてしまう。隣で見ていたハルトよりも、俺は自分の目が見開いていくのが分かった。血の気が引いていく。まずいまずいまずいまずい。泣くとは思わなかったのだ。こういうときはどうするべきだ。落ち着け。狼狽えるな俺。


 俺は膝を曲げて目線を下げた、彼女と同じ背の高さになって、最善の穏やかな表情と声を作る。麻薬の取引現場に銃を持って突撃する瞬間よりも緊張していた。……こういうのは慣れない。普段の仕事からあまりにもかけ離れている。


「だ、大丈夫ですよ。こうしてハルトさんと無事会えたわけですし。……ええと、よ、良かったら飴とかチョコはいる?」


 自分で言っていてあまりにも言葉が苦しかった。敬語とはまた違う次元のもので、幼い子供をあやす方法を俺は知らない。甘いもので釣ろうとしてみたけど、それをやる年齢ではないか? いや、でも俺の世界では甘いものなんて一生の思い出になるくらい貴重なもので――――。


 ……ダメだ。無理だ。彼女の世界のことなんて何もわからない。俺はアイコンタクトでカノンに助けを求める。彼女はすぐに俺を後ろへ下げるとコヅカハルトに深く頭を下げた。それからエルフィの髪を触れるか触れないか程度に撫でて、機械とは思えない穏やかに、母親のような微笑を浮かべた。


「……大丈夫ですよ。誰もあなたを責めたりはしていませんから」


 しかし刹那、俺に刃のごとき眼力を向ける。……俺は責められるようだ。言い訳をするつもりはない。動揺したし結果を急ぎ過ぎたし、事実エルフィはカノンの言葉に耳を向け、えずくのをやめてゆっくりと顔を上げていた。甘えるようにコヅカハルトの腕に寄り添う。


「すみません。迷惑をおかけしてしまって」


「いえいえ、今後とも何かございましたらぜひご相談ください。ワタシ達はお客様のコンシェルジュですから」


 俺たちは深く頭を下げた。コヅカハルトは申し訳なさそうにペコペコとしながらその場を後にする。一息ついている暇もないが、肩の力を落とすとカノンは俺に声をかけた。


「……子供は大変なものです。世界、いえ国によってどこから大人と認識されるかも違いますし、下手に優しくあろうとすると逆に反感を買ってしまったり、難しいでしょう。しかしようやくワタシと同時に頭を下げれるようになりましたね」


 てっきり責められると思っていたから、俺は彼女の言葉がしばらく頭に入って来なかった。……嗚呼、本当に変な気分だ。機械とまともに会話をすることも、仲間意識を持つことも昨日だったら論外だ。昨日の俺なら今日の俺を殺してる。


「そ、……それよりも見たか? エルフィがあの理由を言ったときのハルトの表情。間違いなく虚を突かれたもんだった。ひとまず誘拐騒ぎは収まったかもしれねえけど、以前あいつらには注意するべきだ」


 年の差夫婦が通って行った廊下を見据える。二人はすでにエレベーターに乗り込んだようで、姿は見えなかった。


「さきほど彼と話した際、誘拐だと思ったことに明らかな罪悪感を抱いていました。お客様を勘繰るのはよくないですが、なんらかのケアは必要となるかもしれません」


(ブブブ……。こちらコンシェルジュ、夕日ツアー担当の一人にしてキラーマンティスでござる。ブブブ……。子供が泣くから変わってくれと、コンプレインが入って候。ホテルの説明にもツアー説明にも記載していた事であるため些か不満ではあるが仕方ない。お客様がるぅるなり。某の代わりとなる者を求む。場所はウォータースライダー前の売店である)


 不意にさざめくような声が脳内に響く。カノンは俺の顔を見て笑うとその念話にすぐに応答した。


(了解です。いまからそちらにバロン・フォールズを送ります)


「待て。なんで俺なんだ? そのツアーとやらってプールサイドの奥の海岸まで行くんだろう? それじゃあ何かあったときに対応できない」


「ワタシが信用できませんか? それにツアーの職務もワタシ達ホテルマンの活動の一環ですよ。この世界では」


 その言葉は卑怯だ。そんなことを言われて信用できないと一蹴できるのは昨日までの俺だけだ。しかもカノンのやつは俺が断れないと信じて発言してるときた。……本当悪い冗談だ。


「わかったよ。わかった。行くよ。行くとも。けどツアー内容とか全然知らないんだけど平気なのか?」


「ツアーは複数人掛かりで行うので説明をしてもらえますよ。職務ではありますが楽しんでください。幸福を共有できなければお客様に失礼です。こんな状況だからこそ心の余裕は大事ですから。たとえ爆破予告をされていようとも、陽動が行われていたとしても、惑わされない強さを養うべきでしょう」


 思い詰めてるって言われてるのか? そればかりはカノンに指摘されたくないが。まぁ否定はできない。俺は会釈だけしてプールサイドに向かった。いつのまにか青々とした空は朱に染まっていた。

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