勇者と魔王の最終決戦 その四 遊泳魔王
【勇者と魔王の最終決戦 その四】
ぷーるはなんと素晴らしいものか。水のなかを泳ぐというものは陸上生物にしてみれば苦痛ではないかと思っていたが、心が晴れるようだ。
冷たい水に潜り、飛び上がるように息を吸う瞬間や体を回転させる心地。我々が忘れかけていた童心たるやを呼び覚ます。
「魔王様、毒があるかもしれないのでさきに私が毒味を」
さんさん日光に照らされて、純白のびーちちぇあに寝そべる。鮮やかな緑生い茂り、極彩色の鳥が囀る。側では絶えずぷーるのせせらぎ。楽しそうな笑い声。
「魔王様、いけません。お一人でそんなに飲んでは……!」
甘い果実の飲み物を提供する屋台からバナナとパルパルの実のすーむーじーなるものを購入し、我が喉を潤す。疲れた体に甘美なる味わいが広がる。
「ああ……魔王様。あんまりではありませんか」
「ええい喧しいぞクロノディアス! 毒味と言って半分も飲んだではないか!」
凍刻だから仕方ないのですと言って氷までバリボリと食べてしまったのだ。もはや残りを我が飲み干したところで罰せる者はいない。
「しかし泳ぐというのはいいですね。私が入った途端、水温が下がってしまいましたが」
「氷魔の種族なのだ。仕方なかろう。ああ、にしても泳いだ後に太陽に当たるのも良きかな。我々が欲した太陽だ。こんなにも簡単に陽の光をあびれるとは思いもしなかった。ついつい敗北して正解だったと思いかけてしまう」
「それはいけませんね……」
「ああ、いけないことだな……」
会話が途切れる。心地よい沈黙というのも初の味わいだ。魔王城ではつねに魔族の指揮をしていた。勇者を相手に一喜一憂し、休む暇すらなかった。考えて見れば我々は、今日初めて休むことを満喫しているのではなかろうか。
「お客様、よろしければ新作メニューのほうを食べてみませんか?」
不意に幼げな声が響く。褐色肌の人間の少女が銀色のトレイを持ってこちらを見ていた。プール周辺の雰囲気づくりのためだろうか? 踊り子のような恰好をしていた。トレイの上には……果物だろうか。見慣れぬ赤い塊が二つ。
「ホテルマンの者か。よかろう。貴様らは信用に値する。……クロノディアス、もう毒味はしなくてよいからな。一人一つだ。これを食べたらうぉーたーすらいだーのほうも見に行こうぞ」
「かしこまりました。魔王様」
我々は少女から果実を受け取り、大きく一齧り。じゅわりと溢れ出る酸味と甘み。フレッシュな味わいだ。魔力を多く含んでいて、枯渇していた魔力臓器に染み渡る。
「うむ! これは旨いではないか! って、あの従業員。もうどこかへ行ってしまったのか。あの多忙っぷりを見ていると魔界軍の全盛期を思い出すな」
「魔王様。私のものは問題ありませんでしたが念のためそちらのほうも毒味をしたほうが良いのでは」
「ええい、くどいわ。ほら、立て。立つがいい。うぉーたーすらいだーを見てみようではないか」
我は食い意地を張るクロノディアスに喝を入れて立ち上がる。このホテルをもっと満喫……ではない。未来において結成した魔界軍がストレスなく生活できるかどうかを調べるために、娯楽施設を視察しに足を進めた。




