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カメラは捉えた!

 俺は今日、突然霧の中から現れた正体不明のじじいから、modを失う可能性を指摘されて意気消沈していた。

 警告されたからには手を打つべきだろう。


 まず頭に浮かんだのは、肌身離さず持ち歩くという手段だ。

 なんならストラップでもつけて首からかけようか?これなら大丈夫かな?

 うん、肩が凝るから無理だね。ストラップがブラブラする度に俺までよろけそう。

 なにより、首からノートPC提げてるってシュール過ぎるしね。

 ストラップじゃ有効な対策にならないかもしれない。

 外に出れば危険も増えると思うので、手放しで採用できる対策じゃないだろう。


 漠然と手を打つって言ったってなぁ。俺はいつまでビクビクしなきゃいけないんだ?

 そうだ。先の見通しが立たない時にはmodを見ればいいんじゃないか。


『一人で品川の居酒屋へ 2018/11/29 18:52』

 会社帰りに品川の蕎麦屋で飲んでるシーンだ。


『花蓮と赤坂でデート 2018/12/1 13:01』

 赤坂にあるカフェで、花蓮とベルギー料理をつまみにビールを飲んでいる。


『豪介と蒲田に飲みに行く 2018/12/5 19:02』

 蒲田の焼き鳥屋で、いつものように豪介と酎ハイ。


『豪介と学とBlue Reefへ飲み行く 2018/12/7 20:03』

 Blue Reefで、豪介と学の三人でグラスを傾けている……。


『一人で公園飲み 2018/12/10 18:05』


 どんだけ飲みに行ってんだ!バカヤロー!いや、バカって俺のことだけど……。

 仕事が終わってすぐに、コンビニでビールを買って公園で一人飲み。終業の五分後って…。

 給料日前だからお店で飲むお金がなかったんだろうね。


 あらためてテキスト表示されると愕然とするよ。

 しかも、五回の内の二回が単独って!

 俺!そりゃ寂しいぞ!

 コメント欄に出る基準もいよいよ怪しいな。『ユーザーにとって重要と思える』ってヘルプに書いてあったけど、こりゃ多分俺(・)に(・)だ(・)け(・)重要なイベントだよ。

 それなりに真面目に働いているつもりだけど、前にあった会議以外で会社に関するイベントって全く見ないもん。

 そっか。俺にとっては会社より居酒屋か。その証拠に、俺自身否定する気が起きないもんな。

 俺ってダメ人間なのかな?

 古今亭志ん生みたいでかっこ良くないかな~。


 待て待て、それより今はもっと重要なことが――


 やっぱあった。

『modが盗まれる 2018/12/11 19:48』


 こんなコメントって前から有ったかな?

 過去の出来事を編集した結果、新しく出来たイベントなのかな?


 場面は部屋の鍵を開けて帰宅したところから始まる。

 カレンダーを確認すると――この日は火曜日だな。

 時間帯から会社から帰ってきたくらいのタイミングだ。

 

 ドアを開けてすぐに目に入るテーブルの上には――

 そこにある筈の物が無い。


 途端に視線が部屋中を彷徨った。

 ベッドの上を探す。中も探す。下も探すがノートPCが無い。

 家じゅうの物をひっくり返している。片付けが大変そうだなぁ。

 窓の鍵を開けて外を見回している。

 外壁に縄梯子でもブラブラしてればここが侵入経路と分かるけど、雨どいさえない外壁にはそれらしい痕跡もない。

 おいおい、ワトソン君。これは密室じゃないか。


 ん?なんだこれ?

 スマホで何かの映像を確認してる。

 でも、やっぱり手がかりがつかめないらしい。

 警察には相談しないみたいだ。俺の家から無くなったのはノートPCのみ。普通に買った物じゃないし、普通のモノじゃないし、相談しても説明に困るって判断したのかもしれない。


「諦めるしかないか……」

 独り言をぼやいてる。

 つうか、諦めるの早過ぎないか?あっさりし過ぎだろう!魚介系塩スープかっ!

 ガックリ肩を落としてる俺が想像できるな。


 これはまずい。コメントを編集しよう。

『modが盗まれる 2018/12/11 19:48』

『エラーコード:0x00000001 編集できないコメントです【OK】』


 右クリックした途端にエラーが表示された。

 コメントの文字色が灰色だから分かっていたけど、やっぱりダメか……。

 打つ手がねぇ。諦めるしかないか?

 手がかりはないし、警察にも相手にされなそうだし。

 せめてmodに犯人でも映ってれば、先回りして何かできるかもしれないけどな。

 おお!そうだ!防犯カメラを取り付けよう!犯人はきっと下見に来る筈だ。その瞬間を抑えて先手を打ってやる!


 翌日、楽しかったキャンプから気持ちを切り替えて、俺は社会人モードで再起動した。

 出勤の前に防犯カメラを売っているお店をスマホで探した。ウン十万の出費を覚悟したけど、今はそれほど高くない料金で手に入るみたいだ。撮った画像はWi-Fiを使ってクラウドに保存して、遠隔地からも確認できるらしい。技術の進歩ってすごいね。


 調べ物をしてたら遅刻ギリギリの時間になっちゃった。

 窓際の一角を見ると、花蓮と一緒に買ったシクラメンの蕾が昨日より大きくなってる気がする。急いで日当たりのいい場所に置いて水をやり、俺は会社へ出勤するのだった。


 ◇◇◇◇◇


 あれから一週間経った。十二月二日の日曜日、俺はこの間撮り溜めた防犯カメラの録画をスマホで再生している。

 犯人が下見に来た姿でも映っていれば、俺にも多少のアドバンテージが得られるかな。

 カメラを設置したのは先週の月曜の夜だった。

 意外と簡単だったよ。電源は共用部のコンセントを拝借して玄関を写せるようにした。

 ホントはダメだって分かってるよ……でも、あと十日だけだから…ね?

 カメラにはWi-Fiの設定ができるようになってるから室内の無線LANに繋いだ。

『強い電波でビンビン届く!』と、うたい文句に釣られて買った上位品の無線LANだ。

 あとは画像を溜めておくクラウドのデータ保存サービスにユーザー登録するだけ。クラウドサービスの利用料がかかるのがネックだが、短期の勝負だから年内いっぱいで解約しよう。


 modもそうだけど、特に何も映ってない動画を見続けるのは退屈だった。

 管理人さんが掃除してたり、配達の人が偶に行き来するくらいで、これといった事件が起きる訳じゃない。

 早送りの画像を見ていたら、俺の家の玄関でチャイムを押した人が現れた。花蓮とデートしてた時間帯だ。

 すぐさま通常の再生速度に戻し、その様子を拡大表示する。

 誰だこれ?

 髪が長いから女の人かな?大きなバッグを抱えてあたりを見回してる。

 怪しいぞ。

 カメラの角度的に上手く見えずイラついていたら、ようやく女の人が顔を上げた。


 ウソ!

 俺この人知ってるよ!

 その女性とは毎日顔を合わせている人だった。気は強いが面倒見がよく素敵な先輩。

 肉食系美女の加藤さんを黒いレンズが捉えていた。


 どうしよう。加藤さんがmodを盗む?信じられない。

 あの加藤さんが?

 新入社員の頃から手取り足取り教えてくれて、夢の中でも夜な夜な教育してくれたあの加藤さん!?

 信じられない。でも、あの美人を見間違えるわけがない。

 防犯カメラで見た女性の背格好は加藤さんのそれだし、身に着けたコートも加藤さんがよく着てるのと同じだった。

 いや、まだ犯人と決まったわけじゃ無い。これは一つの手がかりと考えよう。

 そして、ここからはmodの出番だ。

 会社での様子を中心に、犯行時刻までの出来事を確認してみよう。


◇◇◇◇◇


「佐藤君、今日のランチ一緒に行かない?」

「いいっすよ~。どこ行きます?」

 これは明日のお昼だな。加藤さんに誘われてランチを食べに行ってる。

 入社以来、先週に続いて二回目だ。五年目にして立て続けに二回だから、ここ最近になって急に誘われ始めている事になる。


 食事中の加藤さんにいつもと違った様子はない。普段通りのセクシーな仕草。昼営業の居酒屋で名物の牛スジ定食を召し上がっている。

 どうでもいいけど加藤さん……牛スジの脂でテラテラ光る唇がエロ過ぎっすよ。


「佐藤君ってさ、休日は何して過ごしてるの?」

「休みの日っすか?ん~、これと言って特別な趣味は無いっすけど、大体彼女とデートしたり友達と飲みに行ったりしてますね」

「へ~。友達って、前に聞いた空手が凄い子とか?」

 特段怪しい会話とは思えないな。豪介や花蓮の話題が出たところで、先日玉淀湖で撮った写真を加藤さんに見せたりして昼休みを過ごしている。


「やっぱり格闘技やってる男の人って、腹筋とか割れてるの?」

「割れてますよ!こいつの腹は見事なシックスパックっす」

 やっぱり割れた腹筋ってカッコいいよね。ちなみに、豪介は六つに割れていて、俺は上下二つのツーパックだ。カリフォルニアラブだ。

 どうでもいい話ばかりしているが、我が家の玄関に来た理由は聞き出せていない。

 もどかしいけど、仕方ないかもしれないな。

 一人暮らしのワンルームに自前の監視カメラを付けてるなんて、よく考えてみればこちらの方が普通じゃないよね。よほどの確証がない限り、加藤さんを問い質すのは難しいだろう。


 さらに翌日、十二月四日火曜日の動画を確認する。

 寝ている間の真っ暗な画像から、起きてからのカラー映像に変わった。室内に変わったところは見当たらず、いつもの時間に出社。

 自宅マンションの前には、工事用の車が何台か停まっていた。

 そういえば、この日からマンションの修繕工事が始まるって掲示板に貼ってあったな。

 前日とは違い、仕事中に異変は無かった。


 一二月五日水曜日、この日も特に何も起こらず終業時間を迎えた。

 豪介と約束していた蒲田の焼き鳥屋へ。

 平日という事もあり、あまり深酒はせずに帰宅。


 一二月六日木曜日、やはり何も起こらない。

 この日は会社から真っすぐ帰宅し、監視カメラの録画を確認している。

 mod越しに見る監視カメラの映像にも、この間の異常を示す兆候は表れない。


 一二月七日、この日は金曜日という事もあり、豪介と学とでかなりの量のお酒を飲んでいる。

 角井さんのお店に置いてあるお酒はどれも一流品で、二人ともご機嫌で酔っぱらっている。

 かく言う俺も上機嫌で、modの中では呂律が怪しい会話が弾んでいた。

 終電で帰宅。修繕工事の準備が進み、マンションの共用部は完全に養生されていた。


 十二月八日土曜日も至って平和。前日の深酒の影響か、modが写す映像がカラーなった時には部屋に西日が差していた。その後は自室でダラダラとテレビを見て過ごしていた。

 それでも気持ちが落ち着かないのか、メモ帳を広げて犯人に見当を付けたりしていた。

『・加藤さんがマンションに訪れた理由は?

 ・突然ランチに誘ったのはなぜ?

 ・modの存在を知っている者

 ・加藤さんがパワーユーザーズ?

 ・会社のロッカールームの鍵が壊れていた(加藤さんは俺とランチ)』

 メモ帳にはこの間に起こったことが箇条書きされている。

 たった六日後の俺の考えだ。そうそう突飛な発想が生まれないのも頷ける。

 一点だけ、ロッカールームの件だけは意味が分からない。


 十二月九日。日曜日で時間があるからだろう、この日はmodと監視カメラの映像をチェックして過ごしている。

 時折「全然わかんねぇ」とか、「誰が犯人なんだ?」とか独り言ちているのを見ると、俺自身がそれなりに焦っているのがわかる。

 すると、監視カメラの録画にまた加藤さんが登場した。この時も何か大きな荷物を抱えている。

 何度かインターホンを鳴らしているようだが、俺が不在と分かったのか、すぐに立ち去って行った。

 modを一時停止にして監視カメラの映像をよく見ると、十二月七日分の録画に加藤さんは映っていた。

 豪介と学と三人で『Blue Reef』へ行っている時間帯だ。


 一二月十日月曜日。コンビニで買ったビールを飲んでさっさと帰宅。

 こんな時にまでビール飲んでる俺って変なのかな?まあ……誰でも似たようなもんだよね?

 部屋ではこの日もmodと防犯カメラの映像を見ているが、手がかりすらつかめない。


 こうして十二月十一日を迎えた。

 この日も加藤さんがランチに誘ってきた。豪介と学とバイク旅行に行った時の話をしたら、興味津々といった様子で俺の話を聞いている。

 休憩が終わりオフィスに帰ると、社内がちょっと騒然としていた。


「なんかあったんすかね?」

「ちょっと聞いてくるわね」

 俺の声が呟き、加藤さんが騒ぎの中心に向かって歩いて行った。

 しばらくしてから戻ってきた加藤さんは、苦々しい表情を隠そうともせずに何があったか教えてくれた。


「ロッカールームの鍵が壊されてたんですって」

「どういう事っすか?」

 加藤さんが言うには、男性用のロッカールームの扉が何者かに壊されていたとの事。

 日曜日に書いていたメモ帳の意味が分かった。俺は今こうしてmodで十一日の昼の出来事を知った。この事件を指しているのだろう。


「佐藤君も何か盗まれていないか、念のため確認しておいて」

「マジっすか!?」

 焦った俺の声が応じ、急ぎ足でロッカールームに場面が転じた。

 俺の会社では、顧客情報を扱うコールセンターという事情があるため、オフィスへの私物の持ち込みを禁じている。

 そのため、各自に一つずつロッカーが与えられ、始業時にはここへ荷物を収納してお仕事をする決まりになっている。

 modの中の俺は焦りながらもロッカーのナンバー錠を開けて、安物ビジネスバッグの中身を確認した。


「どうだった?」

「特になくなってる物はありませんでしたよ」

「よかったぁ。これで全員の持ち物が無事って確認できたわ」

 ロッカールームの鍵は壊されていたものの、幸いにも盗難の被害は発生していないみたいだ。

 この出来事も変な話ではあるが、この夜にmodが盗まれるイベントとの関連性は不明だ。


 そして、会社から帰宅するとノートPCが無くなっている。前に見た時と同じだ。

 せっかく監視カメラまで買ったのに、mod盗難事件の犯人は掴めなかった。


 ヤバいな。

 これは詰んだかな?

申し訳ございません。

本業が多忙なため、更新が滞っております。


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