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シークバー 運命を見通す動画  作者: Rastarock
潮風とセーラー服
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15/19

一緒に行こう

 大学も三年になれば就職活動が始まる。

 能天気に学生気分を味わえるのも、実質的にはこれが最後かもしれない。

 今後はまとまった時間を取り辛くなると話し合い、翔太と学と三人でバイクの旅に出る事にした。

 最初は同行を渋った翔太だったが、簡単に逃がす学ではない。


「2005年から高速道路の二人乗りが解禁されている。翔太が一緒に来なければ始まらないだろう」


 こういうお世辞を顔色一つ変えずに言えるところが学の凄いところだ。

 どうせなら人数が多い方が旅は面白い。


「んなこと言って、本当は寒いのが嫌なだけだろう?」

 その時は翔太の野郎は口をすぼめて下を向いちまったが、なんだかんだ言って乗り気で準備をしてたから誘って良かったと思ってる。


「準備はいいか?」

 学がカワサキゼファーのハンドルを握りながら、出発の確認をしてきた。


「オッケー!レッツゴー!」

 後ろから翔太の浮かれ声が響いた。ガキみたいだ。

 俺もハーレーダビッドソンのエンジンを一声唸らせて了解のサインにした。


 目的地はどこでもよかったのだが、どうせなら旨い物が食べたいという話になった。

 俺が餃子を食べたいと言ったら、それならば宇都宮だと学が言い、翔太も同意して目的地が決まった。


 交通量は多かったが、翔太が後ろから大声でバカ話をしているのでさほどのストレスは感じない。

 東北道のパーキングエリアで学のケツに翔太を載せ替えて、眠気覚ましのコーヒー代わりにしてやった。

 翔太と一緒なら宇都宮までの二時間も短く感じられるだろう。

 三月のこの時期にしては暖かく、天気は快晴だ。

 俺達はどこまでも行ける。

 俺達は自由だ。


 ◇◇◇◇◇


 宇都宮の駅近くの有名店で餃子を食べた。

 決して不味くはないが、意外と普通だった。


「別の店にも行ってみようよ!」

 俺の意識は宿を探す方にシフトしていたが、翔太は旨い餃子を諦めなかった。

 駄々っ子のようだが、案外俺達の表情を見た翔太が気を効かせたのかもしれない。

 おかげでビックリするぐらい旨い餃子に出会えた。


 宇都宮駅近くに安い宿を見つけたが、予約していなかったせいか既に満室と断られた。

 手当たり次第に宿の門を叩いたが、どこにも空室を見つけることができず、仕方なくファミレスで一夜を明かした。

 深夜に寝ぼけた翔太が餃子を注文して学が爆笑していた。

 旅は決して順調とは言えないが、些細なトラブルはいつか良い思い出になるだろう。


「次はどこに行こうか」

 学が俺に問いかけた。


「仙台で牛タンが食べたい!」

 さっきまで寝ぼけていた翔太がムクリと起きて、すぐにまた寝た。

 餃子といい、こいつは食い意地が張っている。


「牡蠣や金華サバも旨いからな。豪介は仙台で良いか?」

「いいぞ」

 金華サバとは初めて聞いた。何でも幻のサバと言われるくらい希少で旨いらしい。

「道はどうしようか?」

「高速は寒いとか言って、後ろの翔太がうるさくてかなわねぇ」

 本当の事を言えば俺は海を見ながら走りたかった。

 こういう時は翔太をダシにする。


「なら一般道か」

「それしかねぇだろうな」

 宇都宮から北関東自動車道を抜けて一般道に降り、そこからは国道6号を走っていくことに決めた。


 翌日、北上していた東北道から進路を東に変え、北関東自動車道を走った。

 今日も快晴だ。このまま天気に恵まれるといいと思う。雨でも降ったら翔太がごねるだろう。

 茨城で一般道に降りる。6号線を少し走ると海が見えて三人で歓声を上げた。

 翔太が一番騒ぐかと思いきや、一番大音量で騒いだのは学だった。インテリで居続けるのも大変な苦労があるんだろう。

 二人が楽しんでいるのが嬉しくて、俺も大声を出した。


 いわき市を越えたあたりから少し気温が下がった気がするが、翔太が後ろにくっついているせいか寒いと言うほどではない。

 昨日の晩はほとんど眠れていないからだろう、異常なテンションで後ろが騒いでいる。


 昼時になり腹が減った。

 俺達は国道沿いに幟を立てている定食屋に入った。

 俺は当地の名物というホッキ飯を注文した。


「じゃあ俺もホッキ飯にしようか」

 学も食べたことが無いらしい。北寄貝の炊き込みご飯だ。


「でもさ、どうせならみんなで別々の料理にしようよ。そんで分け合った方が良くない?」

 翔太の言に従って学はトンカツ定食、翔太はアジフライ定食を頼んだ。

 こんな田舎で定食が千円もするのかと思っていると、ホッキ飯は大きなお櫃に入って出てきた。

 加えて、トンカツ定食はカツが二枚でアジフライは五枚入りだった。

 これに味噌汁とサラダ、さらにミックスフライも付いてくる。

 メニューにはミックスフライ定食という文字が躍っている。これの付け合わせもミックスフライなのだろうか。


 ホッキ飯の味は極上だった。醤油と出汁で炊いた飯がよく合う。生の北寄貝よりも断然うまい。

 さすがは米どころ福島県。米と北寄貝がお互いの旨さを引き立てあっている。

 それにしても大量だ。一般的な大盛りの範疇を軽く超えている。

 俺以外は途中でギブアップするかと思ったが、驚いたことに翔太も学も完食しやがった。


「昨日から俺達は食べ過ぎだな?」

 普段は小動物程度しか食べない学が、ここまで腹を膨らませているのは有史以来初めて見る。

「もう無理!幸せ過ぎてバチが当たりそう!」

 学ほどではないが、翔太も普段はここまで食べない。

 二人とももう少し食べて体を大きくした方がいい。普段からそう思っている。


「ねえ、学!あれってなに?」

 定食屋の壁には馬が大写しになったポスターが張られていた。

 それを見た翔太が学に質問している。


「ここは南相馬市という地名なんだが、馬はこの町のシンボルだ。野馬追という祭りがあって、騎馬武者の装束で街を練り歩くそうだ。かなり有名なお祭りだぞ」

「やっぱ学って物知りだな~」

 翔太が学の説明を聞いてしきりに頷いている。


「勇壮な祭りだな。俺も一度出てみてぇ」

「豪介には似合いそうだ」

 そう言われれば俺も悪い気はしねぇ。


「俺が武将で、学が軍師か。じゃあ翔太は…」


「足軽だろうな」

「足軽がせいぜいか」

「お殿様だね!」


 翔太が殿様ならば取り潰しに向かって一直線だろうに。それとも、間抜けな殿様に仕えるのも一興か。

 俺達はひとしきり笑い合った。

 聞き耳を立てていたのか、新聞を読んでいた店主までこちらを見て笑っていた。


 ◇◇◇◇◇


 飯が消化しきれずバイクに乗るのはきついという話になり、腹ごなしを兼ねて海まで歩くことにした。

 空気がうまいだの、東京よりスズメが大きいなどと言って、翔太ばかりがずっと喋っている。

 南相馬市までの道のりもそうだったが、海までの長い農道もあっという間に感じた。


「ここの景色は最高だな~!」

 海沿いの防波堤によじ登り、翔太が飛び跳ねようにして喜んでいる。


「おい翔太、気をつけろよ。防波堤から落ちそうで見ていて恐い」

 学が子供に言い聞かせるようにして注意している。

 確かに、翔太はこういう時に笑いが取れるなら落ちるタイプだ。


「どちらがらいらっしゃっだんですかぁ?」

 子ザルのようにはしゃぐ翔太が面白かったのか、セーラー服を着た女の子が声をかけてきた。


「東京から来ました」

「うわ~!やっぱり!東京の話をしでだしはぁ、もしがしだらって思っだんだ~」

 言葉を話す猿が珍しいのか、興味津々といった様子で少女が俺達を見比べている。


「なんでまた南相馬なんがに?」

「それはね、君に会いに――」

「特に目的地は無いんだが、俺達は猿回しの一座でね。これは子ザルの翔太」

 バカな言葉を口走りそうになった翔太に食い気味で、学が女子高生に説明した。

 学も猿を連想していたようだ。付き合いが長いだけあって考える事も似ているのだろう。

 少女は腹を抱えて笑い転げている。


「な~んも無いとごだげど、ご飯は美味しいべ?お兄さんたちも楽しんでいっでね!」

「ありがとう」

 少女はひらりと防波堤を降りると、何度も振り返ってこちらに頭を下げながら去っていく。

 学はずっと手を振っていた。


「あの子、好みだろう?」

 俺は学に聞いてみた。


「ほっとけ」

 学は目を逸らしてそっけなく応じた。

 これは図星だ。


「うわ!豪介!見て見て!学が赤くなってるよ!」

 猿扱いされた腹いせか、翔太が学をはやし立てている。


「確かに飯は旨いし良い街だな。少し早いが今日はここら辺に泊まるか?」

「さんせー!」

 いち早く翔太が賛同の意を示した。


「かわいい女子高生もいるしな」

「うるさい。豪介が余計なことを言うからエテ公がしゃぐんだ!」

 茶化したら学に思いきり肩を殴られた。

 学はこうした時、ギリギリ俺が痛くない加減で叩く。


「おっこられた♪おっこられた♪」

 続いて翔太も制裁を受けている。

 やはり、俺を叩いた時より手加減しているのが見て取れた。

 気の良い野郎だ。


 ◇◇◇◇◇


 俺達は食堂まで戻ってバイクに乗り、先ほど歩いた海沿いの道をゆっくりと走った。


「ねえ!豪介あれ見て」


『民宿今野この先200メートル左』

 背後の翔太が看板を指さした。前を走る学も気付いた様子だ。


 看板の通り進むと、瓦屋根が乗った立派な建物が俺達の前に姿を現した。

 門の横にも『民宿今野』と書かれた看板が設置されている。


「すみませ~ん」

 学と翔太が玄関口で声をかけると、腰の曲がった老婆が出てきた。

「お待だせ~。泊まっていぐが? 」


「特に予約はしていないんですが、今晩泊まれますか?」

「ええ、ええ。見ての通り、静かなもんだからはぁ、何人でも大丈夫だ~」

 今晩はようやく布団で眠れそうだ。


「なぁ、ここは絶対当たりだよ!さすが俺が見つけた民宿だね」

「俺が先だ」

 翔太と学がどうでもいい勝負で争っている。

 学にしてみれば子供の相手をしているようなものだろう。いや、子ザルか。

 だが、翔太が言うように本当に良さそうな民宿だ。

 民宿は古いながらも清潔で、開け放った窓からは潮の香りが入ってきている。畳の匂いと混ざり合い、古い日本にタイムスリップしたかのような旅情をかき立てる。


「これすごいよ!二人ともこっち来て!」

 翔太に呼ばれて居間に行くと古い鎧兜が飾ってあった。学が言っていたお祭りで実際に着用される物なのかもしれない。


「立派な甲冑だろ?死んだじい様が毎年野馬追で着でだんだぁ」

「こちらの太刀も豪壮ですね。拝見してもよろしいですか?」

「いいけど、気ぃ付げでな」

 学は老婆に許可を得ると、日本刀を鞘から慎重に抜いて柄から刃先までを丹念に眺めている。

 翔太も刀を持とうとしたが、刃を触りそうになって学に叱られていた。本当にバカな子供のようだ。


「これは大した業物ですね。手入れも大変でしょう」

「じい様が死んでがらははぁ、近所の人にやっでもらっでるよ」

 老婆は学から太刀を褒められて嬉しかったのか、自分の事のように喜んでいた。


「ワザモノってなに?」

「まぁ…すごい刀って事だな」

 また翔太が学の解説に感心している。案外翔太はこうして知識を持つ学を立てているのかもしれない。


「お部屋は二階がいいがな?したっけ、今案内させっがら」

 そう言うと、老婆は大きな声で奥の間に向かって呼びかけた。


「お~い!美緒やぁ!こっぢ来で、お客さん案内せ~!」

 老婆が声をかけると、程なくしてバタバタと足音を立てて美緒と呼ばれた女の子が現れた。宿の子なのだろう。

「は~い」

 現れた美緒を見て、俺達は本当に驚いた。

 それは、先ほど防波堤で俺達に声をかけてきた女子高生だったからだ。


 ◇◇◇◇◇


「すごい偶然!まさか久しぶりのお客さんがお兄さん達だったなんて!」

「それはね、君に――」

「俺達もびっくりしてたんだよ。それもこんなに良さそうな宿に泊まれるなんて、俺たちは幸運だ」

 学が翔太のセリフを食うのが速くなってきた。この対応力の高さが学らしい。

 俺と学は素泊まりで良かったのだが、翔太が夕食も付けたいと言ったのでお願いすることにした。

 どれだけ食うつもりなんだ……。

 食後は東京の話を聞かせてくれと美緒にせがまれた。明日は土曜なので、遅くまで付き合わせると言っている。

 美緒は高校を卒業したら東京の福祉系の学校へ行きたいらしい。

 夜遅くまで翔太を美緒に近付けるのに一抹の不安を覚えないでもなかったが、俺達の前で滅多なことも無いだろう。


 翔太の食い意地のせいで食材が必要になった。買い出しは美緒の役割だそうで、それならばとバイクに乗せて行く事にした。

 ここまでの道のりでは翔太は俺と学の後ろに交互に乗っていたが、今回は黙って俺の後ろに乗った。


「お前もたまには気を使うんだな?」

「ん?なんの事?」

 翔太はニヤリと笑い、前を行く学と美緒の背中に目を細めていた。


 大型スーパーで食材を買う。

 初めて見る野菜や山菜がたくさんあり、翔太が質問する度に一つ一つ美緒が説明してくれた。


 それはカートを押しながら調味料の棚を見ている時だった。

『ドーン』という音が響いたかと思った途端に、尋常ではない揺れが俺達を襲った。

 それが地震であると気付いた時には、高い棚が美緒に向かって襲ってくる瞬間だった。

 俺と翔太が咄嗟に棚を抑え、学が美緒の頭を庇う。

 放り出したカートが倒れた棚の下敷きになって一瞬で潰れる。


 永遠に続くのではないかと思うほどの揺れが数分かけてやっと落ち着いた。

 天井が崩落する危険があるため店員の誘導に従って店外に出た。店内は落下物が散乱していて、割れた瓶をよけて歩くのにも苦労する始末だった。


「ヤバいって!マジヤバいって!」

 幸いな事に、翔太が慌てるほど俺は冷静になれた。また余震がきたが落ち着いて行動できる。

 俺は若い客の数人を纏めて、負傷者と老人を店外に運び出した。

 周りは携帯電話で家族と連絡を取ろうとする人が大勢いるが、電波が入らず誰も繋がらないようだった。


「お祖母ちゃん……」

 古い民宿に残した祖母が気になるのだろう、美緒が青い顔で呟いた。


「四人で美緒ちゃんのお婆ちゃんを探しに行こう!みんな絶対にはぐれるなよ!とにかく急ぐんだ!!」

 それまでの狼狽ぶりからは想像もできない、決然とした態度で翔太が言い放った。

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