道守警察署①
こんにちは、薬師実です!
今回は主人公たちが警察署にたどり着く話となっております!
現在、俺たちはコンビニを出発し、道守警察署を目指していた。助手席の後ろから仲間たちの様子を伺ってみると、女子二人は気持ちよさそうに肩を寄せ合っている。その吐息が規則正しく聞こえてきて、俺は思わず平和だなぁと安心してしまう。
車の窓から見えるのは、相変わらずの荒廃した街並み。そして立ち昇る煙と沈んでいく夕日が重なっていくのを、ただじっと見つめていた。窓を開けると焦げくさい、鼻の奥をツンとさせる臭いに、俺は思わず顔をしかめてしまう。街の遠くからは、時折女性の悲鳴が届いてきており、やはり女性の声はよく届くなぁと場違いなことを考えてしまった。
そんな俺の隣で、無言で運転に集中しているのは、イケメン大学生の小野寺だ。こいつはさぞ女子ウケしそうな顔を、一度も動かさずにいた。
「そこを左に曲がって真っ直ぐ行けば、もう警察署だぞ」
「ああ、それよりやけにゾンビが少ないとは思わないか? さっきから見かけるのは、建物の中にいる奴とかだけで、道路にはほとんどいない」
「おそらく生きている奴を追っていったんだろ、人は生きている限り音を出す、つまりはそれに引き寄せられていったのさ」
小野寺は頬をぽりぽりと掻きながら、こちらをちらりと見る。
「皮肉なもんだな、ゾンビから隠れていた俺たちは今こうして街をドライブしているのに、必死に逃げていた人たちはほとんどが奴らの仲間入りだ」
俺は顔をしかめる小野寺を横目で見ながら、車の窓へ肘をかける。
「隠れることだって生きるための立派な方法さ、それに逃げることだってな。 それでも死ぬって言うのなら、そんなことをする死神にはお帰り願いたいけど」
「そんな死神がいるならこの手でぶん殴ってやりたいくらいだよ」
俺は小野寺が発しそうにない言葉を聞いて、少しだけ驚いてしまう。
「お前がそんな言葉を使うなんて珍しいもんだな、育ちが良さそうだし、躾とか厳しかったんじゃないのか?」
「槙野の言う通り、俺の母親は昔から厳しかったさ、だから俺は母親に気に入られようと子どもながらに努力した、そうすれば母親は俺を認めてくれると思ったから」
「へえ、随分な教育ママじゃないか、うちの母さんとは大違いだ」
母さんは俺がやらかしてしまった時や家に電話がかかってきた時もあまり怒る事は無かった。その代わり母さんの口癖はこんな感じだったっけ。
何が正しいのかを常に考えながら生きなさい、それがあなたの人生でどう生きればいいかの指針になるはずだからーーと。
俺はそんな母さんの元で育ったお陰か、常に日常に疑問を持ちながら生きてきた。
そんな俺から見れば、現代社会は正しくないことで溢れていた。まるで社会全体が正しくないことを容認して、そうあるべきだと言っているようにも思えた。
きっと母さんが言いたかったのは、自分にとっての正しいことを見極められるようになれ、ということだったのかもしれない。
「それで? お前の母親の言うとおりに生きてどうなったんだよ?」
「お袋は離婚したよ、離婚して俺の元を去っていった。 お袋家を出た時は子どもながらに思ったさ、母さんの言っていたことは自己満足だったんだって、お袋は俺じゃなくて子どもを厳しく躾ける自分しか見えていなかったんだ」
「そっか、でも結果的には良かったんじゃねえか? 今お前はこうして生き残ってるんだからさ、ある意味母親のおかげって奴じゃねえの?」
「はは⋯⋯、 なら俺がやっていたことは無駄じゃ無かったのかもしれないな」
小野寺は、子どもの頃から人のために生きていたのだろう、認められることが自分の喜びで、努力する理由でもあった。
なら今の小野寺は誰のために生きているのだろう。
「じゃあお前さ、何のために生きてんの?」
小野寺は、一瞬だけこちらを見て、すぐに前を向く。
「何のためってそれはーー、死なないためだよ」
死なないためね⋯⋯、 まあ当然っちゃ当然か。みんな死なないために生きている。
俺は小野寺の言葉を聞いて、同時に一つ疑問が生じた。
じゃあ俺は、何のために生きているんだ?
俺の答えを置き去りにしたまま、車は市街地を抜けていった。
ーーーーーー
道守警察署へ着くと、敷地内は酷い有様だった。車の窓ガラスやフロントの部分が破損しているパトカーや、警察官や一般人であったであろう死体がそこら中に散らばっていた。そのどれもが食い荒らされているようで、起き上がってくるような気配は感じられない。
小野寺は警察署の前の道路に駐車する。
「車の鍵は抜いとけよ」
「え? 美乃梨ちゃんを助けたらすぐここを離れるんだろう?」
「帰ってきて車がありませんでしたじゃ、目も当てられないだろ」
小野寺はそう言いながらも俺の指示に従ってくれる。すると、後部座席で眠っていたはずの中山が、こちらへ体を倒してくる。
「ま、そんな奴がいたらぶっ殺して終わりだけどな」
「お前寝てたんじゃ無いのかよ」
中山は金髪の頭をボリボリと掻く。
「ただ目を閉じてただけだ、この状況で寝れんのはこいつらくらいのもんだろが」
中山はそう言いながら、未だに眠っている二人に指を指す。今日一日で色々な事が起こったし、緊張よりも疲労が勝ってしまったのだろう。中山は二人の頭を叩いて、無理やり起こしてしまう。こいつは女子にも遠慮ってものが無いのだろうか。
頭を叩かれた事に驚いた二人は、すぐに瞼を開いた。
「あれ、ここは⋯⋯?」
「ん⋯⋯、 ご飯はまだいい⋯⋯」
二人とも寝ぼけているようなので、今の状況を説明してやることにする。
「おーい、もう警察署に着いたんだけど⋯⋯ 」
すると俺の言葉に伊織が反応する。
「あ! 確か美乃梨ちゃんが警察署にいるんだよね!」
「朝じゃ無かった⋯⋯」
二人は目を擦りながらも、状況を確認してくれたようだ。
「今から警察署の中に行こうと思うんだけど、二人はどうする?」
「私も行くよ! 美乃梨ちゃんも寂しいかもしれないし!」
「ん、きっと中にゾンビは少ない、車の音に反応してくる奴らがいるはずだから」
俺たちは身支度を整えた後、音を立てないように車から降りる。道路の方を確認したが、近くにゾンビはいないし生きている人間の気配も感じられなかった。
俺たち三人は、女子二人を囲むように警察署の敷地内へ進んでいく。途中で這いずりまわるゾンビを見つけたが、冷静にバールで頭をかち割ってやる。
女子二人はなるべく死体を見ないように歩いていた。
「扉がぶち破られた形跡があんぞ」
警察署の玄関の床にはガラス片が散乱しており、扉の横にはソファーやらテーブルなどが転がっていた。
おそらくここに立て籠もっていた人たちが築いたバリケードが、ゾンビの手によって破られてしまったのだろう。
俺たちはなるべくガラス片を踏まないようにホールの中へと進む。中には死体を貪るゾンビがいたので、俺たちは音を立てないように奴らへと近づいていく。
俺と中山と小野寺は、死体に喰らいつくゾンビの頭を粉砕する。その音に気づいた他のゾンビが俺たちの元へ迫ってきていた。
「ゾンビが五体⋯⋯、 一人あたり二体ってとこかぁ?」
中山はそう言いながら、ゾンビの頭へフルスイングをかます。それに続いて小野寺も、的確にゾンビの頭へ木刀を打ち込んでいた。実家が道場っていうのは伊達じゃないらしい。
俺は目の前に迫ってきていたゾンビに足払いをかけて、その奥のゾンビへバールを叩き込む。三発ほど打ち込んでいくと、後ろのゾンビが起き上がって来たが、美遊先輩のドライバーがゾンビの脊髄へ食い込んでいった。
最後の一体を中山が倒したことで、ホール内の安全は確保された。
「美遊先輩⋯⋯、 助かりましたけど危ないですよ」
「ん、おんぶに抱っこは嫌、連携なら私でも戦える」
美遊先輩はドライバーを自らの工具袋へしまい、辺りを見渡していく。
「床の血が完全に乾いていない⋯⋯、 ここは私たちが来る少し前にこうなったんだと思う」
「そんな⋯⋯、 私たちがもう少し早く来れたらここは大丈夫だったのかもしれないの?」
後ろへ下がっていた伊織が、両手で口を抑える。
「後悔しても仕方がない、俺たちだって脱出するのに必死だったんだ」
俺は伊織を宥めると、中山と小野寺へ声をかける。
「ここは二手に別れて美乃梨を探したいと思う、俺は一階を探すから他の人は二階を頼む、各自用事が済んだら車の前に集合ってことで」
みんなは俺の言葉に頷いてくれる。
「じゃあ探検に行くかなぁ、銃とかあるかも知んねえし」
「俺も中山に着いていくよ、後は伊織か望月先輩のどちらかが着いてきてくれれば丁度良いんじゃないかな?」
すると女子二人は顔を見合わせて、しばらくした後美遊先輩が手を挙げる。
「銃を探すなら扉をこじ開ける道具とか必要だし、私も着いていく」
「おお、もっちーが身を引いたぜ」
「そんなんじゃない」
三人は手前の階段を話しながら登っていく、ここにいるゾンビは少数だろうし、あの二人がいればやられてしまうことは無いだろうが。
「じゃあ俺たちも行こうか」
「うん、どこから探すの?」
「まずは受付の奥の部屋から探してみよう」
俺たちは物音を立てないように慎重に移動していく。ホールの床にはあらゆるところに血の染みが広がっており、油断したら足を滑らせてしまうだろう。
俺たちは通路に入り、そのすぐ横のドアをノックする。音が聞こえて来ないということは誰もいないということになるだろう、もちろん美乃梨もゾンビも。
「光くん、あの扉の周りを見て」
俺は伊織に言われた場所を注目するが、特に期になるところは無い。
「あそこがどうしたんだ?」
「あの扉の周りにだけ血がべったり付いてる⋯⋯、 多分あの中には誰かが居るんだと思う」
「そういうことか!」
確かにあの扉には血がべったりなのに、目の前の扉には血が付いていない。つまりあそこは集中的にゾンビや人間に襲撃、あるいは関心を持たれたのだ。
それは血の手形が付いていることからも分かる。
俺は伊織のファインプレーを心の中で褒めると、その扉をノックする。
すると中から物音が聞こえて来た、中にいるのはゾンビか美乃梨だろうか。扉には鍵がかかっていたので、俺は小声で呼びかけることにする。
「美乃梨か? お兄ちゃんが助けに来たから開けてくれ」
しばらくして扉のロックが外される音がする。俺と伊織は数歩後ろに下がって、部屋から出てくる人物を待つ。
「あ、お兄ちゃん!」
部屋から聞こえて来たのはいつも聞き慣れた声⋯⋯、 つまり我が妹だった。
今回も読んでいただきありがとうございます!
最近投稿が遅れ気味になっておりますが、ご容赦願います。
気づけばブックマークが120件近く頂いておりとても驚いています!
応援してくださっている皆様のためにも書いていきたいと思いますのでよろしくお願いします!(^O^☆♪