道守警察署②
今回は主人公が妹と再会する話になっております。どうぞご覧になってください!
「お兄ちゃん!」
「美乃梨! 無事だったか!?」
俺は美乃梨のその言葉を聞くとすぐに抱きしめる。俺のたった一人になってしまった家族は生きていたのだ。これが嬉しいと言わず、何と言うのだろうか。
「ちょっ、お兄ちゃん苦しいって⋯⋯」
「怪我とか無いか!? 具合悪いとかは⋯⋯」
すると俺の腹に美乃梨の拳が叩き込まれる。完全に力を抜いていたのでモロに受けてしまった俺は、地面にひれ伏してしまう。
「ぐぇ! 何すんだよ美乃梨⋯⋯」
「苦しいって言ってるじゃん、しつこいからこうなるんだよ」
俺はすぐに回復して、美乃梨へ状況の説明を求める。
「なあ美乃梨、お前一人でここに逃げて来たのか?」
高校から警察署の距離を一人で移動して無事だとするなら、相当に運が良かったか、ゾンビを倒すことが出来るかのどちらかだろう。
「違うよ、夏海と一緒にここに来たんだけど、私を置いてどっか行っちゃったの、帰って来たら一言言ってやるんだから」
美乃梨は腕を組みながら頬を膨らませている。
夏海とはよく家に遊びに来ていた美乃梨の親友のことだろうか、あの子は中々根性がありそうだからここまで逃げてこれたと言うのも頷けるだろう。
すると完全に話に置いていかれていた伊織が、俺たちの前に割り込んでくる。
「私を無視するなんて酷いよ光くん! 君が美乃梨ちゃん? 私は上迫伊織、光くんと同じ大学なんだ」
「この人お兄ちゃんの彼女?」
「え!?」
「違うわ! 彼女なんか出来たこと無いし!」
そんなこと言ったら伊織が困ってしまうだろう、俺なんかが彼氏とか釣り合わないにも程がある。
「えー、遂にお兄ちゃんにも虹色の大学生活がやってきたと思ったのに⋯⋯」
「余計なお世話だ、それにもう大学生活なんか出来っこないだろ⋯⋯」
俺は言わなければならないことを思い出し、美乃梨へ告げる。
「あのさ⋯⋯、 言いにくいんだけどこの騒ぎで父さんが死んで、母さんと連絡が取れなくなってしまったんだ⋯⋯、 衝撃的かもしれないけど受けとめて欲しい」
「ふーん、そうなんだ」
「は?」
こいつは今何と言ったのだろうか、まるで他人事のように興味無さげに返事をする。
「いやいやちゃんと聞こえてたか? 父さんが死んで母さんが行方不明なんだぞ?」
「うん、死んじゃったものは仕方ないし、居なくなっちゃったものは仕方ないよね」
「お前⋯⋯」
うちの妹はどうしてしまったのだろう、両親が死んでしまったかもしれないと言うのに、こんなにも平然としているような奴じゃなかった筈なのに。
「美乃梨ちゃんちょっといいかな⋯⋯、 その言い方はおかしいと思う、あなたにとってお父さんとお母さんって何なの?」
伊織は美乃梨の方へ近づいていく、けれど美乃梨は少しも怯える様子が見受けられない。
「だって居なくなっちゃったならどうにも出来ないです、それよりこれからどうするかの方が大事じゃないんですか?」
「それは⋯⋯、 そうかもしれないけど⋯⋯」
美乃梨の言っていることは正しいのだが、何かがおかしい、まるで何かの感情がすっぽり抜け落ちてしまったかのような⋯⋯
「二人ともここは落ち着いてくれ、今はこんなことやってる場合じゃないし、ここも安全とは限らないだろ」
俺は話をまとめるべく二人に声をかける。しばらくして二人も納得してくれたようだ。
「ところで夏海ちゃんはどこへ行くとか言ってたか?」
「ううん、外の様子を見てくるって言ってからそれっきり」
おそらく美乃梨と夏海ちゃんは二人でここに立て籠もっていたのだろう、けれどそのままでは結局餓死してしまう可能性が高い。だから夏海ちゃんはわざわざ危険な外へ出ていったのだ。
「俺は警察署の一階部分を探索してみようと思う、俺が戻ってくる間はここに隠れていてくれないか?」
「私も一緒に行きたい!」
「そうだよ光くん! 私たちも連れていって!」
気持ちはありがたいが無闇に二人を危険に晒すわけにはいかない。本当は女子を車の中で待たせていたかったのだが、もし暴漢などが現れた時に自らを守る力は無いだろう。
「でもここなら鍵が付いていてそう簡単に入ることは出来ないし、集団で狭い屋内を探索するのは向いていない」
こういった廊下の角や物陰からゾンビが襲いかかってくるとも分からない、それに仲間が死角になって守ることが出来なかったなんて笑い話にもならないだろう。
「そうだね⋯⋯、 光くんがそう言うなら」
「でもお兄ちゃんは肝心なところで抜けてるところがあるから気を付けてよ」
「ああ、それじゃあ行ってくる」
二人を部屋の中に入れて扉を閉めた俺は、早速近くの部屋から探索して行くことにした。
扉を叩くとほとんどの部屋で物音が聞こえてきたため、ゾンビが中にいるのだろう。きっと噛まれた人が部屋の中に立て籠もった結果、この部屋はゾンビを閉じ込める檻になってしまったのだ。
俺は廊下の突き当たりの部屋をノックして、音がしないことを確認し中へ入る。そこはホワイトボードや書類が散らばっていて、おそらく会議室に当たる部屋なのではないかと推定する。
ホワイトボードには住民を避難させる段取りのような図や、ゾンビに付いての情報などが書いてあった。しかし、ゾンビについての情報量はこちらが持っているものと大差無いため、俺は別の書類を手に取ることにする。
『干葉県特殊急襲部隊の出動における道守警察署の役割』
「特殊急襲部隊⋯⋯? もしかしてSATのことか?」
確かSATと言えばテロ対策などで出動するようなイメージがある、この干葉県には空港があるしテロなどが起きた場合には彼らの出番が来るということだろう。
俺が書類を読み進めようとした時、突然部屋の扉が開く音がした。俺はとっさに腰にかけているバールを取り、部屋の中へ入ってきた人物を確認する。
「お兄さん⋯⋯?」
「君は⋯⋯、 夏海ちゃんだよね?」
部屋の中に入ってきた人物は腕から血を流している美乃梨の親友の夏海ちゃんだった、美乃梨の話によれば彼女は外へ出てから戻ってきていなかったらしいが⋯⋯
「大丈夫か!? その傷は⋯⋯」
「これは奴らに噛まれてしまって⋯⋯、 それより美乃梨は無事なんですか!?」
俺は夏海ちゃんに両肩を強く握りしめられる。だから彼女の緊張を解いてやるべく両手を添えてやる。
「一旦落ち着いてくれ、美乃梨なら俺の仲間が保護しているから安全だ、それより君は今までどこへ行ってたんだ?」
夏海ちゃんは俯きながら、俺の肩から手を下げる。
「私は美乃梨と警察署に逃げたんです、それで中に奴らが入ってきて⋯⋯、 なんとか部屋の中に立て籠もったんですけど救助を呼ぶために警察署の外へ行ったんです⋯⋯」
「外には何があったんだ?」
夏海ちゃんは床に血を吐きながらも、こちらの問いかけに応えようとする。
「警察署から少し離れたところで大人の男の人たちに助けを求めたんです⋯⋯、 でもあの人たちは助けるどころか私に襲いかかってきて⋯⋯、 ここまで逃げきった後に油断して奴らに噛まれてしまいました⋯⋯」
夏海ちゃんは涙を流しながら訴えてくる、俺は彼女を床に座らせるべく壁際へ移動させた。
「そいつらの特徴はどんな感じだった!? 教えてくれ!」
「その人たちは至って普通の外見でした⋯⋯、 だから私は大丈夫だと思って⋯⋯、 うっ!」
夏海ちゃんは口から大量の血液を床へ吐き出した。
「お兄さん⋯⋯、 私は死んでしまうのでしょうか⋯⋯、 まだやりたいこととか沢山あったのになあ」
夏海ちゃんは涙を流しながらこちらに笑いかける。俺はそんな彼女にどんな言葉をかけたら良いのか分からず、何も言うことが出来なかった。
「お願いします⋯⋯、 私を殺してください⋯⋯、 私は奴らなんかになりたくないんです!」
夏海ちゃんの呼吸は乱れ、顔色がだんだんと悪くなっていく。彼女の充血した瞳は俺の目を捉えて離さない。
だから俺は彼女の気持ちを汲んでやることにして、立ち上がって両手でバールを振り上げる。
「何か最後に言いたいことは⋯⋯?」
「美乃梨に伝えておいてください⋯⋯、 最後まで頼りなくてごめんねって⋯⋯」
俺はバールを彼女の脳天へ振り下ろそうとする。
しかし、俺の腕は振り下ろされる事は無かった。
「お兄さん⋯⋯? どうしたんですか⋯⋯?」
夏海ちゃんは真っ赤な目で困惑するように見つめてくる。
「ごめん⋯⋯」
俺はバールを構えるのを解く。
「そんな!? お願いします! 私を殺してください! 私を⋯⋯ 」
夏海ちゃんがそう言いかけた習慣、彼女の体が突然痙攣を始める。目を見開きながら、白目が真紅に染まっていくのが見えた。
しばらくして夏海ちゃんの体が起きあがる、それはもう俺の知っている夏海ちゃんでは無くて、外の奴らと同じような姿へ変わってしまった。
「ごめん⋯⋯、 意気地のない俺を許してくれ⋯⋯!」
俺は大きく口を開けてこちらに迫ってくる美乃梨の親友だったものへ、バールを振り下ろした。
俺は結局人を殺すことが出来ず、ゾンビになって初めて殺すことが出来たのだ。
気がつけば動かなくなった彼女の体が床に転がっていた。だから俺は彼女の頭へ白い布をかけてやって、両手を合わせた。
願わくば彼女に安らかな眠りが訪れるようにと、誰もいない部屋で祈ったのだった。
今回も読んでくださりありがとうございます!
中々執筆の時間が無いのですが、無いなら八月までは週一更新出来るくらいには作ろうと考えております。




