3. ラングーン、資料の中の矛盾
もう少し澪視点の話が進みます。あと存在感は薄いですが遠藤少尉はずっといます。
ビルマ連邦 首都 ラングーン ビルマ軍警本部
翌日の早朝、宣言通りに訪れたのは今回の事件の捜査を担当するビルマ軍警の本部だ。軍の上層部が話を通していたおかげもあってすぐに面会することができた。現れたのは初老の男だった。
「西園寺少佐、ようこそビルマへ! 歓迎します。私は本部長を務めるトゥーラ・アウンです。どうぞよろしく」
流ちょうな英語で返してきたその男からは敵意は感じられなかった。
「アウン本部長。こちらこそよろしくお願いします。こちらこそ無理を言ってしまって・・・」
「いえいいんですよ。我が国と日本政府は非常に緊密な連携を取っている国です。そこで貴国の軍事顧問団が襲撃を受け死者を出してしまった。これは大変由々しき問題です。ですので西園寺少佐にもお力をお貸ししていただきたくおもっております」
「ご期待に添えられるか分かりませんが、こちらとしても最大限の橋梁くさせていただきます」
「ありがとうございます。西園寺少佐には捜査資料の閲覧につきましては自由にされて構いません。ただし、逮捕に関してはビルマ側の権利であるということを忘れないでくださいね」
やはり釘を刺してきたか。まあこちらとしても敵対するつもりはない。
「承知しております。ビルマ政府の主権は尊重されるべきだと思います」
「理解していただきありがとうございます。それから被害にあった車両についての見分もこちらの人間の立会の下でよろしくお願いします」
「構いませんよ。写真の撮影に関しては?」
「もちろん、問題ありません」
「分かりました。では早速、今わかっている捜査資料を閲覧させてください」
「わかりました。至急用意させましょう」
そう言うとアウンは部下に資料室へ案内するように指示を出した。
資料室に通されると煩雑に大量の資料が積み上げられていた。整理するような時間がないのだろうが、少し苛ついてしまう。
「何か質問があったら私にお願いします。大体ことは説明できますので」
「ありがとうございます。えっと名前は・・・」
「チョー・ミンといいます」
「ではミンさんよろしくお願いします」
真面目そうな青年だと思った。
それからゆっくりと資料に目を通し始めた。
資料に目を通して数時間が経過しただろうか。大体の資料は読み込むことができた。
やはり気になることだらけだ。ミン捜査官を呼び止めた。
「ミン捜査官」
「はい」
「この地方でのロヒンギャの武装勢力の活動状況はどれほどなんですか?」
「といいますと?」
「ロヒンギャの主な活動地域はビルマ南西部のはずです。事件の起きたラングーン近郊とはかなり距離があると思いますが」
「確かに彼らは南西部のアラカン州に多いですが、決して少ないというわけではありません」
「そうですか? では彼らの使用する主要な武器については?」
「主に英国軍が敗戦時に放棄していった装備品や終戦時に流出した日本軍の銃だと思います」
「もっと具体的には?」
ミン捜査官は少し考えこんでから口を開いた。
「英国製の小銃、リー・エンフィールドやステン短機関銃、日本製の三十八式歩兵銃や九九式小銃ですね」
「なるほど。では話は変わりますが顧問団のルートですが通常4つあるんですよね」
「ええ、セキュリティの関係上ランダムに変えています」
「地図を見る限り所要時間はそこまで変わらないようですが」
「その通りです。もちろん天候や道路状況で前後はしますけど」
「ルートは民間人も使いますか?」
「ええ、お恥ずかしい話ですが我が国には現時点で専用の道路を整備するほどの予算も技術もありませんので」
「ロヒンギャ族の活動が激化し始めたのは?」
「5年くらい前ですね」
「だとすると妙ですね」
「何がですか?」
小首をかしげてきたので少々早口になって答えた。
「4ルートすべての地形図を見ましたが、待ち伏せの上で襲撃をするとしたら、今回使用されたルートは一番適さないルートです。逃走先がジャングルにしかありませんし沼地や低湿地が多く非常に危険です。この5年間に今回も含め顧問団の派遣は15回ですが、事件は今回だけ。4ルート全てに襲撃者たちを配置していたというのは現実ではありませんし、土地勘のことを考えるとこのルートで襲撃が起きる確率はざっと計算して1%です」
「1%?」
相手が呆然としている中、続ける。
「まあ、あくまで計算上の話です、参考程度に考えておいてください。それでは次は車両を確認したいのですがよろしいですか?」
ミン捜査官の立ち合いのもと軍施設の車庫に保管されている車両の確認に向かった。
「同型の軍事車両が4台と軍用トラックが1台。確かトラックが最後尾でしたね?」
「そうです。実際運ぶときに確認しました」
「団長車は前から3台目でしたね」
「はい。それも間違いありません」
ゆっくりと他の車と炎上した車の残骸を確認する。やっぱりだ。
「おかしいですね」
「何がです?」
少し歯痒そうに聞いてきてミン捜査官に答える。
「団長車だけ被害が大きすぎます。受けた銃弾の数はそれほど変わらないのにどうして団長車だけ炎上したんでしょう、それに他の車の弾痕と比べると銃弾の種類が同じとは思えません」
「つまり?」
「これは全く違う銃が使われた可能性があります。他の車両の被害状況は英国製の小銃や短機関銃、日本製の小銃で説明できますが団長車を撃った銃はもっと威力が高く弾丸の大きさも大きい自動小銃だと思います」
私がそう言い終わるとミン捜査官は遠藤少尉と見つめ合っていた。
「さて生存者に話を聞きにいきましょう」
そう言って車庫を後にした。
「彼女は本当に軍人か? 刑事じゃないのか?」
「軍人だと思いますけど・・・」
何か言っている2人のことは気にしなかった。




