1. 2人の少佐
海軍大臣と軍令部総長は艦これで海軍を勉強した時に出てきた方を使わせていただきました。
日本 東京都千代田区霞が関 海軍省庁舎
海軍大臣執務室、そこには3人の人間がいた。その内2人は男だった。海軍大臣の加来止男と、軍令部総長の吉川潔だ。そして2人と机を挟んで対峙しているのはスラっとした女性だった。
「西園寺澪少佐、急に呼び出して申し訳ない」
そうやって頭を下げる加来に彼女は静かに敬礼をし
「問題ありません!」
と答えた。
西園寺澪。
華族の名門である西園寺侯爵家の令嬢であり海軍兵学校を優秀な成績で卒業。その後は海軍の情報部に配属され、情報分析官として様々な国際事件に関わってきた女性士官だ。
「西園寺少佐、先日ビルマのラングーンで我が国の軍事顧問団を乗せた車列が襲撃を受けたことは知っているね?」
「はい、勿論です」
「襲撃された車列にはビルマ政府の関係者含む40名が同行し、その内顧問団長で我が海軍所属の安住光一郎大佐をはじめ21名が死亡。戦後最悪規模の襲撃事件だ」
は険しい顔をしながら澪へと告げた。
「君には単身ビルマへ赴いてもらい、この事件の真相の確認してほしい」
澪は表情を変えずに加来へと尋ねる。
「なぜ私に? それに真相を確認とは?」
加来は横に立っている軍令部総長の吉川に目配せをした。
「それについては吉川に説明してもらう。吉川頼む」
「今回の襲撃事件、ビルマ政府はロヒンギャの武装勢力によるテロ事件であるとみている」
「ロヒンギャ・・・。英国のビルマ統治時代に流入した部族でしたね」
「そうだ。先の大戦で英国側がロヒンギャの武装化を支援し、仏教徒のアラカン人と激しく衝突した過去がある」
「先の大戦、そして英国統治時代の有り難くない置き土産ですね・・・。しかし、その様子だとその捜査方針には疑問があるようですね」
「その通りだ。彼らが主に住んでいるのはビルマ西部のアラカン州、襲撃事件が行われたのはラングーン近郊、その距離は陸路なら11時間近くなる。襲撃規模を考えても相手は小隊一つくらい規模だと考えられる。それなりの人数だ、武装した連中がそれほどの距離を移動して襲撃したというのは少し疑問が残る。そしてそれ以上に引っかかることがある」
「それはどのようなことでしょうか?」
「今回の襲撃計画があまりにも周到すぎる」
「周到すぎる?」
澪は小首をかしげながら吉川の言葉を繰り返した。
「今回の顧問団の訪問は今までよりも小規模だ。そして事前に通達をしていたのはビルマ政府のみだ。もちろん何らかの手違いで訪問の情報が漏れた可能性もあるが・・・。ルートまで完璧だった。」
「ルートを漏らした人間がビルマ政府内にいる? もしくは・・・ロヒンギャによる襲撃に見せかけた第三者の犯行・・・という可能性があるということですね」
「そうだ。あくまで可能性の問題だ。そこで優秀な情報分析官である君にはビルマに飛んでもらいたいんだ」
そう言い終わると再び加来が口を開いた。
「ただし、表向きにはこれは軍事顧問団襲撃事件だ。ビルマ政府の捜査の邪魔はしてはいけない。もし、これでビルマ政府と我が国の間に亀裂を生むことになれば外交問題に発展しかねない。分かってくれるな」
少しだけ圧をかけた加来に澪は
「分かりました。あくまで秘密裏に捜査を進めてまいります」
と伝えた。
それに対して加来は
「いいか。ビルマ政府を刺激してはならんぞ」
と念を押してきた。
「了解いたしました」
「出国は明日だ。今から戻って準備してきたまえ。あとそうだ、言い忘れていたことがあった」
「なんでしょうか?」
「同時期にパガンにてドイツ人の考古学者チームが襲撃を受け全員が殺害される事件が起こった。当局は武装盗賊団の犯行とみているが、この件についてドイツ政府も軍の情報分析官を派遣することになったようだ」
「それがどういった関係が?」
「いや、別に大したことではないんだがね、その派遣する情報分析官の名前が君の報告書にたびたび登場している名前だったもんでね。確か名前は・・・ヴァイス、マルガレーテ・ヴァイス少佐だったかな?」
「そうですか」
それだけ言うと澪は2人に敬礼をすると海軍大臣執務室を後にした。
扉を閉めると澪はゆっくりと呟いた。
「明日出発か・・・」
情報部に配属されいる以上危険な仕事には慣れている澪だったが、今回の任務はそれとは違った厄介さだ。
ビルマ政府との折衝、下手をすれば外交問題にもなりかねない。現地の捜査は邪魔をせず、それでいて事件の裏側を調査せよという。
ざっくり言ってしまえ―――面倒な仕事だ。
澪はゆっくりとため息をつきながらこぼした。
ドイツ連邦 シュレスヴィヒ=ホルシュタイン州 キール ドイツ海軍司令部
ドイツ海軍司令部の国際情報部の執務室にマルガレーテ・ヴァイス少佐が呼ばれたのは正午を過ぎたあたりだった。
「大佐、マルガレーテ・ヴァイス、ただいま参りました」
マルガレーテが正面の男に敬礼をすると男も答礼を返した。男の名はハインリヒ・ホフマン大佐、マルガレーテにとっては直属の上司に当たる。
「ヴァイス少佐、君には至急ビルマに飛んでもらいたい」
「ビルマですか? なぜまた」
「我が国がビルマをアジアにおける学術の拠点として考えていることは知っているな」
「我が国の学術的ノウハウを利用して東アジア・東南アジア・南アジア圏に影響力を持とうという方針でしたよね?」
「その通りだ。そのために現在ビルマのパガンではパガン王朝の大規模な発掘調査計画が進行している。しかし、そこで先日現地考古学者との共同チームが何者かに襲撃を受け殺害される事件が発生した」
「っ!」
「殺されたのはヨハネス・イェガー博士をはじめとしたチーム全員だ。助手や現場で雇った作業員まで全員が殺害されている。ビルマ当局は現時点では武装強盗団という見方を強めている。しかし我が国としてはビルマ当局の捜査を完全には信用できない。複数の奇妙な点も浮かび上がっているしな」
そう言うとホフマン大佐は机の引き出しから大型の書類封筒を取り出した。
「詳しくはこの中に書いてある。ビルマ当局が送ってきた捜査資料の一部だ」
「はあ、それで私に捜査をしろと?」
「そうだ。君は小規模ではあるがいくつかの国際事件に関わり解決に導いた実績もあるし銃火器などにかんしても知識が豊富だ。その点で君ほどの適任はいないと思う。それに・・・」
「それに?」
「実は同時期にビルマの首都ヤンゴン近郊で日本の軍事顧問団が襲撃を受ける事件が発生した。その件に関して日本海軍も情報分析官を派遣するというんだ。その名前がね君の報告書によく出てきた名前でね・・・」
「よく出てきた?」
「ああ、西園寺澪少佐だよ。以前君が関わったイスタンブールやスエズ運河に事件の報告書で名前があった」
「西園寺少佐が・・・」
「上手くいけば彼女から何かしらの情報を得られるかもしれんし、引き受けてくれないか?」
「分かりました。では至急準備させていただきます」
「頼んだぞ」
マルガレーテはホフマンに敬礼をし部屋から去って行った。
「考古学者の殺人事件、ねぇ・・・」
マルガレーテは渡された封筒を見下ろした。
戦場であれば話は単純だ。敵と味方がいて、目標がある。
しかし、情報部の仕事は違う。
死体や証拠と向き合い、真相を探さねばならない。
「なんとも面倒な仕事だ・・・」
一方で彼女は上司から告げられた名前を思い出し、少しだけ口角をあげた。
さて、この二人内心では極めて面倒くさい仕事を押し付けられてしまったとうんざりしていた。しかし、女性の士官が珍しいものではなくなったとはいえいまだに軍は男社会のままだ。仕事を選べるほど余裕があるわけではないのだ。
そして同時に思った。
「ヴァイス少佐/西園寺少佐がいるのなら退屈はしなさそう」だと。
この二つの事件が先の大戦からなる小さな因縁であるということを二人はまだ知らない。
久々にオリジナルの小説を書いていますがなんとも難しいですね。
次回は西園寺澪の視点での捜査になります。




