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4人は世界の裏側を見る  作者: 岸波琥珀
第一話 ビルマ、二つの死
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14. RELIGION

紙片を見つけてから数分後、2人は無事に地上へと帰還した。

その後、寺院の他の建物をある程度調査したがこれといった収穫はなく引き上げることを決めた。

寺院の門まで戻ってくると運転を担当していた軍警の青年が退屈そうにタバコを吸いながら待っていた。

2人に気づくと青年は慌ててタバコを踏み消すと気まずそうに敬礼をした。

2人は敬礼を返すと車に乗り込むと、ニャウンウー飛行場へと行くように指示した。

澪は一度ラングーンへ戻ることを決めたからだ。幸いにも今日のラングーン行きの定期便には間に合う。


顧問団襲撃事件について、もう一度洗い直す必要がある。パガンで集めた情報を調べるにしても、まずはラングーンで集められる情報を精査するべきと考えたからだ。


しばらく、揺られていると澪はポケットから小瓶を取り出した。青銅器から回収した黒褐色の有機物が入っていた。

「それって何なのでしょうか?」

マルガレーテが覗き込みながら疑問を口にした。

「大方予想はついていますが・・・、検査をしないことには何とも言えません」

澪は少し自信なさげ答え、さらに続けた。

「しっかりとした化学分析ができればいいんですが、流石にここでは・・・」

マルガレーテが少し残念そうに呟いた。

「彼女なら、あるいは・・・」

「おや、誰か心当たりがあるんですか?」

澪の質問にマルガレーテは首を振りながら答えた。

「いえ、残念ながらここにはいません。ただスウェーデンの方に化学分析に長けた医官がいたなと思い出しただけです」

マルガレーテの答えに澪は興味を示した。

「へえ、あなたがそういうってことはかなり優秀な方なんでしょうね」

「まあ、優秀ではありますね。無愛想で誤解されることも多いですが良い方ですよ」

「いつかお会いしてみたいですね」

そんな会話をしながらニャウンウー飛行場へと車は進んでいった。


ニャウンウー飛行場のターミナルビル


定期便のチケットを難なくとった澪はマルガレーテと今後について話していた。

「もう一度、顧問団のルートが漏れた経緯や安住大佐の弟とパガンの関係について洗い直してみます。この物質について鑑定できる場所を探してみます。それにあの紙片にあった『R OK』についても考えてみます」

澪は小瓶を見せながら答えた。

「私は第19区域について何が起きていたのか調べます。『R OK』についても私も考えてみます」

互いに自分たちの調べることを確認すると澪は搭乗口へと向かった。


ラングーン市内 日本軍合同官舎


ラングーンへ戻ってきた澪は遠藤少尉に頼み、過去14回派遣された顧問団に関しての資料を漁っていた。

(確かに、顧問団の中心人物はかなり重複している)

リストを見てみると副団長の岡田中佐が言った通りメンバーの重複が多い。しかも陸軍・海軍問わずだ。

澪が特に注目したのは団長の名前だった。

『国重哲也大佐(陸軍)5回

 西村智大佐(海軍)3回

 阿久津晴彦大佐(陸軍)3回

 犬飼明大佐(海軍)3回』

(この4人が持ち回りで今までは担当している。ビルマを理解している人間が選ばれるとしてもあまりに妙だ)

副団長も同じようなものだ。岡田中佐を含め6人が持ち回りでやっている。

(もしかしたら、何か彼らじゃなきゃいけない理由があるんだろうか?)

確証は持てない以上推測の域を出ない。

そう思いながら次に注目したのは行程だった。

過去14回の顧問団の訪問は全てラングーンやマンダレーなど都市部を中心としていた。しかし、今回の15回目ではパガンへの訪問が入っていたのだ。

「もう一度、副団長に探りを入れてみるか・・・」


ラングーン市内 ラングーン軍病院


澪は再び軍病院に入院している岡田中佐を訪ねた。

「ああ、西園寺少佐」

先日より血色がよくなった岡田は快く迎えてくれた。

「岡田中佐、体調はいかがですか?」

「ええ、傷も化膿しなかったですし、敗血症の心配もないそうです」

澪は少しだけ笑みを浮かべ返した。

「それなら良かったです」

しばらく、当たり障りない会話を続けると岡田が切り出してきた。

「それで、事件の方はどうなっていますか?」

そこで穏やかだった澪の表情が少し鋭くなった。

「そのことなんですが、岡田中佐。貴方は顧問団に4度参加されていますが、何か変わったことはありませんでしたか?」

岡田中佐が少しだけ不意を突かれたような顔をした。

「なんでまた?」

「以前おっしゃっていたじゃありませんか。『なぜ安住大佐が団長なんだ』って。それで少し調べましたら貴方が過去14回の内4回に参加して、なおかつほかの4人の団長それぞれの顧問団に派遣されていることを知りましたので参考までに」

岡田は納得したようで語り始めた。

「そうですね。安住大佐はビルマとはあまり縁がないような方でしたので、そんな人がわざわざ顧問団長に立候補するなんて意外だとは思いました。もちろん事前にかなり調べていたので勉強はなさってたんだなとは思いましたけど・・・」

そう言うと少し考えてから岡田は続けた。

「他にはあんまり思い当たらないですね」

「ちなみに顧問団の構成メンバーなんですけど、陸海合同なんですね。上手くいっていましたか?」

「どういう意味ですか?」

澪は少し困った笑みを浮かべながら返した。

「言葉通りの意味ですよ。今はだいぶ改善しましたが戦争を経験した世代の将校は陸軍と海軍の中は決して良好ではなかったと聞きますし。この手の顧問団への参加が少ない理由はそれもあると聞いたものですから」

岡田は笑いながら答えた。

「まあ、確かに私みたいな世代は陸軍と海軍の間で緊張もありましたからそう思う人もいるでしょうが、心配されるほどギスギスはしませんよ。仕事ですから」

「なるほど、参考になりました。ありがとうございます」

澪は一礼すると椅子から立ち上がり病室を後にしようとした。

「あっ!」

病室を出る直前澪は何かを思い出したかのように足を止めた。

「な、何か?」

岡田の方へと向き直ると澪は笑みを浮かべながら訊ねた。

「最後に一つだけ、中佐はパガンへ行かれたことはありますか?」

「……ありませんよ。今回初めて行く予定でしたから・・・」

岡田はすぐに答えた。

しかし、その間にわずかだが沈黙があった。

澪がそれ以上追及することはなかった。

「ありがとうございます」

澪は恭しく礼を言うと病室を後にした。


ラングーン市内 ビルマ軍警本部


澪が軍病院を後にしたその足で向かったのはビルマ軍警の本部だった。パガンの青銅器に回収した黒い有機物についてだ

事件の捜査をするミン捜査官を訪ねた。

「西園寺少佐、パガンはいかがでしたか?」

「なんでそれを?」

澪の質問にミンは後ろの遠藤少尉に目線をやった。

(おしゃべりめ)

澪は遠藤への恨み言を胸にしまい、本題を切り出した。

「ええ、そのことなんですがね。向こうで気になるものを見つけまして」

「気になるもの?」

「ええ、この国で長らく問題となっている件についてです」

そういうと澪は胸ポケットから黒褐色の有機物が入った小瓶をミンにだけ見えるように差し出した。

ミンの顔色が変わった。

「ま、まさかそれは・・・」

「話が早くて助かります。ここにこれが分析できる環境はありますか?」

ミンは少しだけ考えるとついて来るように言って足を進めた。

案内された場所は軍警本部にある薬物犯罪対策本部の分析室だった。

そこには大学の研究室顔負けの設備があった。

「これは、凄いですね」

「日本や欧州各国からの技術を取り入れていますからね。薬物汚染はこの国での深刻な問題です。分析体制の構築は急務だったんです」

澪は納得すると分析官に小瓶を手渡した。

「西園寺少佐、少しお話をしましょう」

ミンはそう言うと会議室へと澪を誘った。

「西園寺少佐、貴女は今回の事件にアレが関わっていると思っているんですか?」

その問いに澪は考えてから答えた。

「あくまで、可能性の問題です。それにアレの正体が何かわかっていませんから」

ミンは澪のその答えに当然かという表情を浮かべた。

澪は続ける。

「ただ、もしアレが私と貴方が想像しているものであったなら、その可能性は一気に高まります」


それからしばらくして、分析官が早足で会議室へとやって来た。

分析官は結果の記された報告書をミンに手渡すと、簡単に会釈をして退出した。

澪とミンは報告書に目をやった。

そこには次のように記されていた。

『当該試料から、アヘンに由来するアルカロイドが検出されました。試料の状態を考慮しても、アヘンに由来する物質である可能性は極めて高い』

澪は報告書を見ながら呟いた。

「やっぱり・・・これが『RELIGION』の意味か」


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