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4人は世界の裏側を見る  作者: 岸波琥珀
第一話 ビルマ、二つの死
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16/19

12. 第19区域

澪の弱点が明らかになります。

なおマルガレーテも弱点持ちですがそれは別の機会に書きます。

パガン ニャウンウー飛行場


ヘリがラングーンを飛び立ってから約2時間、2人は無事に パガンへ着くことができた。

機内で寝ていたからか澪は朝よりも血色が良くなっていた。

「すみません、昨日ほとんど寝ていなかったもので・・・」

申し訳なさそうに謝る澪にマルガレーテは苦笑いしながら返した。

「いえ、気にしてませんよ。それに今の方が多少は元気そうに見えますし」

「そう言っていただけると助かります」

「それで、ここから先はどうしますか?」

その質問 澪の表情が変わった。

「そうですね、まずは発掘記録にあった第19区域に行きましょう」

「わかりました」

2人は迎えに来ていた車に乗り込んだ。


澪は車窓から景色を眺めていた。

辺りには荒野が広がり時たまパゴダ(仏塔)は見える。

「なんとも平穏な景色ですね」

「ええ、昼間は観光客や現地の物売りなんかもくる観光地ですよ」

澪の言葉にマルガレーテが返す。

しばしの沈黙が車内を支配した後、それを破ったのはマルガレーテだった。

「それで、なぜパガンへ? 気になる記述と言っていましたが?」

「ああ、そのことですか。実はあれから戦時中の輸送計畫についての資料を漁っていましてね」

「戦時中? もしかして例の顧問団長の弟が関わっていたという?」

澪は頷くと鞄から資料を取り出した。マルガレーテにも見える位置に広げると説明を始める。

「輸送計画は通常、夜間に行われたという旨の記述がありました。『00-04LIMIT』はやはり時間の可能性が高いでしょう。そして問題は『P-19→W』です」

「今から行く第19区域の西部のことなんじゃないんですか?」

澪は静かに首を振る。

「私も最初はそう思ったんです。戦時中の輸送計画を見るまではね」

マルガレーテは首を傾げた。

「どういう意味ですか?」

澪は資料をめくり見せながらある記述を指さした。

マルガレーテは横目でその記述に目をやった。

『P-15↓S』

「これは・・・」

「大きな勘違いをしていました。何か特定の組織が新しく作った符丁の一種だと思っていましたが違いました。これは、戦時中から使われていた古い略号です」

「略号?」

「ええ、これは今から行く第19区域西部を意味していたわけではありません。発掘記録にあった『第19区域西部』という記述に引っ張られてしまっていました。しかし、実際は『パガン第19区域から西進』という意味なんです。だとするならば『P-15↓S』は『パガン第15区域を南下』という意味になります」

マルガレーテは表情を崩さずに納得してみせた。

「なるほど。場所ではなく、その場所からの移動方向を示していたんですね。だとしたら『雨季使用不可』は?」

その質問に澪は少し困った顔をしながら返した。

「それを今から調べるんです。最後の『R OK』の答えも確証がありませんし・・・」

そんな会話をしていると第19区域の看板が見えてきた。


パガン 第19区域 タンミャ寺院


運転していた軍警の青年が車を停め付いたことを告げると2人は礼を言い車から降りた。マルガレーテは青年に何かあったら無線で呼ぶ旨を伝えると青年は頷いた。

澪とマルガレーテが車を降りた先にあったのは廃墟のように朽ちた寺院跡だ。かつて威容を誇っていたであろうパゴダは半ば崩れ、周囲には瓦礫が散乱していた。

「ここが発掘記録にあった寺院跡ですか?」

「ええ、第19区域で寺院跡とされる遺跡はこのタンミャ寺院跡だけです。現地の文化局にも問い合わせたところ事件の数日前から死亡したイェガー博士たち、発掘チームがここで活動していたことが記録に残っていました。ほら、そこに照明機材があるでしょう。あれは彼らが置いていったものです」

マルガレーテが指さした先には大きな照明機材がむき出しに置かれていた。

「あの大きさだと一々持ち運ぶのも大変そうですね」

澪はもう使う者のいない照明機材に目をやった。

「ん?」

「どうかしましたか?」

「いえ・・・」

少し小首をかしげながらマルガレーテにそう返すと澪はパゴダを見上げた。

「ずいぶん長い間手入れがされていない場所のようですね」

「ええ、発掘チームが来るまでは現地の人の立ち入りもなかったようです」

「それは戦後から?」

「さあ、そこまでは・・・」

2人はそんなやり取りをしながら門を抜け寺院跡へと足を踏み入れた。

瓦礫が散らばった広場を進んでいくと大きな建物が現れた。

「あそこに仏像があるんですかね?」

マルガレーテが尋ねた。

「気になりますか?」

「ええ、学術的にどんなものか気になりますね」

「少し意外ですね」

澪の言葉に少しだけムッとしながらマルガレーテは返した。

「私だって異国の文化に関心はありますから」

そんなやり取りをしながら2人はその建物へと足を踏み入れた。


建物の中に仏像はなかったが壁一面にはかつて鮮やかであったであろう壁画が描かれていた。

「やはり朽ちても寺院ですね。すごい緻密さです」

「パガンは仏教遺跡の宝庫ですからね。写真では見たことありますがここまでとは・・・」

「貴女の国は仏教の国では?」

マルガレーテの質問に澪は少しだけ肩をすくめながら答えた。

「日本の仏教とビルマの仏教は種類が少し違うんですよ。日本にも壁画のある寺院はありますが、こうした様式のものは少ないです。寺院の造りも、地域や宗派によって違いますしね」

「へえ、一度それも見てみたいものです」

そんなやり取りをしながら堂の中心部へと足を進める。

「案外ゴミが落ちていませんね」

「発掘チームの人たちが片付けたんでしょうか?

澪は床の一か所に持っていたライトを照らした。

「何かありましたか?」

「ここだけ砂が途切れています」

そう言いながら澪はしゃがむと途切れている石畳の隙間に手をかけた。

石畳の一つが外れるとそこには地下へ通じる階段があった。

「これは・・・」

「ここが発掘記録にあった地下構造物の入り口のようですね」

「降りてみますか?」

「それ以外にないでしょう」

マルガレーテはライトで階段の壁面や縁を調べ奥を照らしヒビや破損がないことを確認した。

「崩落の危険はなさそうですね」

そう言うと2人は持っている銃を確認した。

「私が先に降ります。西園寺少佐は後ろをお願いします」

そう言うとマルガレーテはライトを向けながら降りて行った。澪も目印として入り口に布の切れ端を結ぶとそれに続いた。


2人が階段を下りていくとそこにはそれなりに大きな空間があった。

「何のための場所なんでしょうか?」

マルガレーテが口にした疑問に澪が答えた。

「用途については分かりませんが少なくともこの寺院ができた時にはなかったと思いますよ」

「なぜそんなことが?」

「ほら、ここ」

澪は壁の一点にライトを当てた。

「あの痕、掘削用のドリルの痕です。パガンで盛んに寺院が作られたのは11世紀から13世紀と言われています。当時の建築技術とは合いません、非常に機械的な痕です」

「つまり、後世に作られたものの可能性が高いということですね」

「ええ、ただ年代までは正確にはわかりませんがね」

マルガレーテは壁に近づくと傷を観察した。

「なるほど。しかも最近というわけはなさそうですね。掘削痕も新しいものではなさそうです」

「ええ、発掘チームが不審に思ったのも納得だと思います」

「これが貴女が言っていた顧問団長の弟の関わっていた輸送計画に関係が?」

「まだはっきりとは言えませんが可能性はありますね」

澪はそう言いながらライトで別の方向にあてた。

その時、澪の表情が変わったのをマルガレーテは見逃さなかった。

「西園寺少佐、どうかしましたか?」

マルガレーテの質問に澪は答えることなく腰から下げていたホルスターから拳銃を抜いた。

「敵ですか?」

「ある意味」

そう言うと、澪は地面に銃口を向けた。

マルガレーテがその銃口の先をみるとそこにいたのは―――。


ゴキブリだった。


そのことに気づいたマルガレーテは咄嗟に澪の腕を銃ごと掴んだ。

「な、何をしているんですか!」

「離してください! あれはこの世にいてはならないものです!」

「ゴキブリですよ!」

「だからです!」

そんなやり取りをしているうちに、ゴキブリは岩の隙間へと消えていった。


それから少しの沈黙が流れたのち口を開いたのは澪だった。

「さて、まだ奥があるようですし、行ってみましょう」

「さっきのをなかったことにするのは無理がありますよ」

「・・・すみません」

マルガレーテは、少しだけ笑いそうになるのをこらえた。

西園寺澪という人間にも、意外な弱点がある。

それを知れたことが、なんだか少し嬉しかった。


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