11. P-19→W
捜査パートは中盤くらいになります。
官舎へ戻った澪は再び机に資料を広げていた。陸軍から取り寄せた安住顧問団長の弟の軍歴、パガン一帯の地図、1943年を中心としたビルマにおける輸送計画。
「うーん、さっぱりだ」
頭を抱えながら背もたれに体を預けた。
「分かったのは、弟が死亡するまで独立派と共に軍事作戦を遂行していたこと。そして、そのためにパガンにいたということだけ。しかし、第19区域西部が雨季使用不可というのは納得できない」
澪は地図に描かれている第19区域を指でなぞっていた。
「第19区域は湿地帯ではない。気象記録を見る限り雨季に深刻な水害があった形跡もない。決して雨季に輸送経路として使えないわけではない。そもそも考古学者グループの発掘記録にあった地下構造物ということが関係あるのなら、気象には影響されることは少ないはず・・・」
澪が呟きながら、別の資料を中心に持ってきた。
1943年のビルマにおける輸送計画を記した資料だ。
パガン一帯では当時、独立に反対する一派との戦いが起こっていた。その支援のために日本軍は独立派支援の名目で兵站輸送を行っていたことが記されている。
「輸送任務は人目をのつかない夜間に行われることが多かった・・・。あの記述とは一致する。でもそれ以外には・・・」
それ以外に特に不審な点が見当たらない。
そう思いながら資料を見ていた澪だったがある記述で目が止まった。
「『P-15↓S』? これって・・・」
澪は資料を再び、最初から目で追っていく。
そして、先ほどまでとは違う表情を浮かべた。
「私としたことが・・・」
澪は鞄から急須と緑茶の缶を取り出すとやかんの熱湯を急須に注いだ。
「今夜は徹夜ですね」
少しすると緑茶の爽やかな香りが部屋中に立ち込めた。
翌朝 ラングーン国際空港
マルガレーテは小型ヘリの飛行許可を待ちながら椅子に身を預けていた。
「アヘンか・・・」
昨日、澪との会話で出てきた言葉を呟いていた。
「まさか、ね・・・」
考古学者グループがアヘンの密売に絡んでいる。そんな最悪な推理がよぎっていた。
「そんなことになれば、どんなことになるんだろうか・・・」
そんな最悪な想像に少しばかりの頭痛を覚えたマルガレーテに声をかける者がいた。
「ヴァイス少佐!」
マルガレーテがその声の方に振り向くとそこには少しやつれた麗人が立っていた。
「さ、西園寺少佐!?」
思いがけない人物の登場に少し驚いたマルガレーテは少し上擦った声を出してしまった。
「どうしてここに?」
澪は少し息を切らしながら答えた。
「昨日、ラングーンへはヘリで来たと言っていましたので、ヘリの離着陸場所を聞いて、送っていただきました」
澪が首を向ける。
そこには青年士官が苦笑いをしながら立っていた。
「いやどうやって来たかではなく、なぜ来たかなんですけど・・・」
その問いに澪は真剣な顔で答えた。
「ヴァイス少佐、唐突で不躾なお願いで大変申し訳ないのですが、私を パガンへ連れて行って頂けないでしょうか?」
「はい?なんでまた・・・」
「色々と資料を調べていましたら、現地での検証が必要だと思いましたので・・・」
少し納得したような表情を浮かべながらマルガレーテは応えた。
「わかりました。私としても今回の事件の真相を明らかにしたいんです」
「ありがとうございます」
澪は深々と頭を下げ礼を言った。
それから暫くして空港から飛行許可が降りた。
ヘリポートには小型ヘリが飛び立つ準備を整えていた。
乗っているのは2人の麗人だ。
「西園寺少佐、随分お疲れのようですが?」
「昨日はあまり寝れませんでしたので」
マルガレーテは少し納得したような呆れたような表情を浮かべるながら操縦桿を握った。
「少し揺れますけど大丈夫ですね?」
「ええ、揺れには慣れていますから」
そんなやり取りをしながらゆっくりとヘリが飛び立った。
ヘリが飛び立って数分後。
気流が安定してきたことでマルガレーテにも同乗者である澪に話せる余裕が出てきた。
「それで、確認したいということとは?」
「詳しくは パガンに到着してから話しますが、あの記述にあった第19区域について気になりましてね」
「と言いますと?」
澪は少し考えた後、口を開いた。
「 パガンの気候です。パガンは乾燥気候だと気象データにありました。であるならば、あの記述にあった『雨季使用不可』の意味と整合性が取れません。雨が少ないにも関わらず雨季だからといって輸送ルートの安定性に重大な支障をきたす可能性は低いと思います」
「確かに数週間は雨が降っていないと聞きます。だからこそ発掘もかなり進んでいたと聞きました」
「それで実際の第19区域を見てみたいと思いましてね」
そこで言葉を切ると澪は少しだけあくびをした。
「詳しくは現地で資料を見せて説明します」
それだけ言うと澪は沈黙した。
「西園寺少佐、資料には一体何とあったんですか? 西園寺少佐?」
マルガレーテが澪の方に少しだけ視線を移すと彼女は規則正しい寝息を立てていた。その様子に少しだけ呆れとため息をついた。
「まあ現地についたらたっぷり聞かせていただきましょうか!」
マルガレーテは 操縦桿を強く握り パガンへと向かった。




