↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4人は世界の裏側を見る  作者: 岸波琥珀
第一話 ビルマ、二つの死
PR
14/20

10. 二つの記録

トロピカルドリンクを飲み込むと今度は澪が口火を切った。

「先にお伝えした殺された顧問団長の弟の手帳ですがあれから新しい記述がありました」

「新しい記述?」

「ええ、元のページはだいぶ昔に破られたようですが、筆圧は強かったようで、下のページに文字が残っていたんです」

そう言うと澪は手帳のあるページを開いて見せた。

そこには

『P-19→W

00-04LIMIT

R OK

RELIGION9』

と書かれていた。

「なるほど・・・。こちらが私の気になった考古学者チームの発掘記録です」

マルガレーテはそう言いながら開いたノートを出してきた。

「事件の前日に書かれたものです。この行を見てください」

「『第19区域西部の寺院跡に地下構造物を確認。搬出経路について要再調査』ですか・・・。なるほど確かに気になる記述ですね」

「何より事件当日の発掘記録が奪われています。財布は奪われていますが時計やカメラなどの貴重品は手を付けていないのに発掘記録が奪われている。強盗と考えるにはちぐはぐです」

「なるほど。発掘記録を奪うために強盗を偽装したと考えているんですね?」

マルガレーテはゆっくりと頷いた。

澪は二つに記述を見比べると口を開いた。

「おそらく、『P-19→W』というのは発掘記録にある『第19区域西部』と一致します」

「だとするとこの場所をその顧問団長の弟は知っていた?」

「断定はできませんがその可能性はあると思います」

「その顧問団長の弟が今回の事件に関わっているのでは?」

澪は首を振る。

「私もここに来る前に陸軍に照会しましたが彼は1943年に亡くなっています」

その言葉にマルガレーテの表情が険しくなった。

「亡くなっている? もしや殺されたんじゃ・・・」

再び澪は首を振る。

「私もそう思ったのですが違いました。死因は病死ということです」

「病死?」

「ええ、マラリアとのことです。本国に遺体が送られているので、死亡そのものについて間違いはないでしょう」

「この場所を彼は知っていた・・・」

「そして考古学者たちはこれを最近発見した・・・」

2人の間に沈黙が流れる。テーブルに置かれたトロピカルドリンクはぬるくなっていた。


少し長い沈黙を破ったのは澪だった。

「次の記述ですが、これは簡単だと思います」

『00-04LIMIT』を指差しながら言った。

「これはおそらく時間です。『午前0時から午前4時が期限』と言った意味だと思います」

マルガレーテは腕を組みながら頷いた。

「多分そうでしょうね。でも深夜から未明に何があるんでしょうか」

「パガンはこの時間帯は人が少ないとか?」

「そうですね。実際今回の事件もそれくらいの時間だと思われます。何か良からぬことをするには都合のいい時間です。逆に昼間は人がある程度いますし見通しもいい。何かを運ぶにしても昼間より夜間の方が都合がいいでしょう」

澪はなるほどと相槌を打つと次の項目に視線を移した。

「次の『R OK』ですけど・・・。はっきり言ってこれが何かはっきり言えません。『OK』は単語通りの意味だとして問題は『R』です」

「普通に考えれば、地名や人名でしょうか?」

「そうですね。ただ現時点で特定は難しいと思います。いったん保留にした方がいいでしょう」

マルガレーテも同意すると2人は最後の記述に目をやった。

「『RELIGION9』、RELIGION。貴女の国の言語に訳すと「宗教」ですか?」

マルガレーテが眉間にしわを寄せながら尋ねる。

「ええ、そうです。ただ直接的な意味ではないでしょうね」

「何かの符丁だと?」

「普通に考えればそうですね。英語で他に何か意味があるとか・・・」

「英語? なぜこれが英語だと?」

マルガレーテは少し不思議そうに言った。

「ああ、そうでしたね。ドイツ語でもこの単語の綴りは同じ―――」

そこで澪は何かに気づいたようだった。

「どうかしましたか?」

マルガレーテが首を傾げながら尋ねた。

「ヴァイス少佐。思想家マルクスは宗教を何と評したか覚えていますか?」

「唐突にどうしたんですか? 確か『人民のアヘン』だったかと・・・あっ」

そこでマルガレーテも気づいたようだった。

「ま、まさかこの『RELIGION9』がアヘンを表している・・・と?」

澪は肩をすくめながら答える。

「あくまで可能性の話ですよ。ただこの地域では珍しくない問題です。特にビルマの東部、中華民国との国境に近い地域でのケシの栽培とアヘン取引は非常に深刻な問題になっています」

澪はそこで言葉を切るとぬるくなったトロピカルドリンクを飲み干した。

「問題はこの末尾の9です」

「単純に個数でしょうか?」

「それもあり得ますがもっと捻っているかも。例えば9号案件とか9便目とか候補はたくさんあります」

「数字に関しては絞り込むのは今のところは厳しそうですね」

「残念ながら・・・」

考え込む2人に近づく影があった。

「おかわりいかがですか? お食事もありますけど」

ウェイトレスの質問に2人はハッとなった。窓の外には夜の帳が下りていた。

「私、一度官舎に戻って調べ直してみようと思います」

「私も朝一番でパガンに戻ろうと思います」

2人はそれぞれの手帳を閉じるとそれ以上は互いに語ることなく散会となった。

しかし翌朝、2人は再び同じ場所へ向かうことになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。