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4人は世界の裏側を見る  作者: 岸波琥珀
第一話 ビルマ、二つの死
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12/19

8. パガン、奪われていない現場と銃の謎

ここでマルガレーテの目線が終わり次回から澪と合流します。

第2の現場である黄色いテントへと戻ってくると私は再びリストと現場に散乱している出土品を見比べ始めた。

「やはり奪われた出土品はないか。奪われたは殺された4人の財布だけでカメラや時計は手付かずか。時間がなかったわけじゃない。つまり―――」

そこで切ると軍警の青年が返してきた。

「つまり?」

「彼らの目的は金品目的の強盗ではない可能性が高いです」

「えっ!」

「この黄色のテントは荒らされています」

「じゃあやっぱり強盗なんじゃ」

「いいえ、これは盗むためではなく何か特定のものを見つけるために探された形跡です。急いでいたのなら財布だけ奪ったということもあるでしょう」

「ええ」

「でもここにはこのグループ以外に人はおらず、付近に民家などもない。そして警備のために武装した警備員が巡回するわけでもない。つまり犯人たちには急ぐ理由がありません」

「それは・・・」

言い澱む彼にさらに続ける。

「時計もカメラも万年筆もその他金目になりそうなものは手を付けなかった。これは襲撃した何者かが強盗の仕業に見せかけるために仕掛けた偽装工作です」

「ぎ、偽装工作⁉」


驚愕の声をあげた彼に改めて説明する。

「まず、順番から整理しましょう。最初に殺されたのはトラックにいた運転手と作業員です。彼らを狙った理由は銃声を聞かれ逃げられることを防ぐためでしょう。だからこそ刃物を使って静かに殺害した」

私の話を黙って頷きながら聞く青年に続ける。

「次は緑のテントにいる学者たちです。ここはかなり統率が取れた現場です。犯人にとって目的のものが簡単に見つかったからでしょう」

「あっ、あの無くなっていた手帳!」

「そうです。まず警戒を抱かない人Aが緑のテントへ入りイェガー博士の隙を見て拳銃で射殺。そしてテントの外で待っていた自動小銃を持った人物Bがテントへ侵入し自動小銃を発砲しアルトマン博士や助手たちを殺害。Bはそのまま黄色のテントへ向かって、Aは緑のテントに留まり目的のものを探した」

「じゃあ、黄色のテントの4人はBが・・・」

「ええ、Bは4人を殺害した。そしてAが緑のテントでやったように目的のものを探した。でも見つけられなかった。それが何かは分かりませんがね」

そこで言葉を切ると改めて続ける。

「結局見つけられなかったBは偽装工作に移った。4人の衣服から財布を抜き黄色のテントを荒らしてまるで強盗に襲われたかのように見せかけた。ただし、彼らは盗みは素人だった、だからこそ時計やカメラなどには手を付けなかった」

「でも何を探していたんでしょうか」

「それは、残念ながらまだ分かりません。ただ―――」

「ただ?」

「緑のテントから持ち去られた発掘記録に関係する何かだったと思います」


黄色のテントから証拠品の保存された軍警の捜査施設へ戻ると私は再び現場に残された遺留品を調べ直した。

「使用された弾丸は7.62×39mm弾か・・・」

「その弾丸って珍しいんですか?」

覗き込んできた彼に説明する。

「いや、そこまで珍しいというほどのものではありません。東欧や中欧、それから旧ソ連で使用されている規格です。ソ連のモスクワ陥落後からこの規格はかなり流出していますし」

「ソ連の銃ですか? 戦後によく流れたと聞きますし」

「いや、はっきりとは言えませんね・・・。煤や傷で生産国の情報が見えなくなっていますし。ただ新しいですね」

「新しい?」

「これは少なくとも1959年以降に軍用として製造された弾丸です。旧ソ連は現在様々な軍閥のようなものに分かれて半内乱状態です。銃火器や弾丸が製造されていても国外に流出することは少ないでしょう。これは先の戦争の残骸ではありません」

「ではヨーロッパからの密輸品?」

「その可能性が高いかもしれませんね。ただそうなると強盗説とはさらに矛盾が生じます」

「矛盾?」

「金を奪うことが目的の強盗がなんでそんなものをわざわざ使ったのかということです」

「あっ」

「通常、強盗にとっての武器の入手経路は戦中戦後の混乱期に流出もしくは鹵獲された武器です。実際いままでの事件もそうだったじゃありませんか?」

「た、確かにいままで逮捕された強盗から押収された銃は日本軍や英国軍の銃でした」

「つまり、たまたま強盗団がこの弾丸が入る銃を持っていたと説明するのは不自然です」

ここまで言って私自身も言葉に詰まってしまった。持っていないとは言えない。あくまで不自然のレベルに過ぎないからだ。何かまだヒントがあるはずだ・・・。

「他の発掘記録を調べてみるか」

現場から押収された他の記録を読み漁ってみるが全くわからない。

「空振りか・・・」

そう思いながら前日の記録を開いた。すると最後のページに走り書きとして書かれたある文書に目が留まった。

『第19区域西部の寺院跡に地下構造物を確認。搬出経路について要再調査』

何てことないただの発掘記録だ。ただ妙にその言葉が引っ掛かった。


軍警の施設からドイツ軍が開設したパガンの総合事務局へと戻り集まった情報を整理しているとドイツ軍の通信士が急いでやって来た。

「ヴァイス少佐」

「なんですか?」

「今、ラングーンからの連絡がありまして相手がヴァイス少佐と話したいと・・・」

はて、何だろう。少なくともラングーンに友達なんていた覚えは・・・。

「相手は?」

「はい、日本海軍の少佐と名乗っております」

「日本海軍?」

そういえば、ラングーン近郊で事件が起きているとホフマン大佐が言っていたな。それで派遣されたのが西園寺少佐だったとも。

「わかりました。案内してください」

私は通信室に着くと通信機に向かった。

「もしもし」

そう言うと理知的な女性の声が返ってきた。

「ヴァイス少佐ですか?」

「その声は西園寺少佐ですね」

「ええ、暫くぶりですね」

予想通りの人物からだった。黒海の事件以来だったが変わりはなさそうだ。

「もしかしてラングーンの件ですか?」

「ええパガンでの事件について確認したいことがあります」

「なんでしょうか?」

「そちらで使われた薬莢についてです」

西園寺少佐はそう尋ねてきた。彼女の事細かな説明を聞くとそれはこっちの事件で使われた7.62×39mm弾の特徴と酷似していた。私は答えた。

「それ、もしかしたら私の担当してるパガンの事件と同じかもしれません」

その言葉に西園寺少佐は少し声を上ずらせながら返した。

「あくまで私の予想ですが、ヴァイス少佐。私たちの事件は繋がっているかもしれません!」

「そちらの事件がどういったものか詳細は知りませんがどういったことですか?」

西園寺少佐は事細かに自分の考えを口にした。


「まず、銃ついてです。ラングーン近郊で起きた軍事顧問団の襲撃事件において顧問団長の襲撃に使われた銃が現地ロヒンギャの武装勢力が通常使っているものと違います。そして、襲撃事件自体も引っかかっています。 いままで15回も顧問団は派遣されているにもかかわらず一番襲撃に向かないルートで正確な襲撃事件が起きています。どうも顧問団を狙った単純なテロ事件とは思えないんです」

彼女の推理には気になるところがあった。こちらもただの強盗事件だとは思えなかったからだ。

「そして、顧問団長についてですが、弟とみられる男が戦時中にビルマで何かをしていたようなんです」

唐突に出てきた言葉に訊き返した。

「弟? 何かそれについて記録でもあるんですか?」

「ええ、古い地図と今のところは意味が分からない手帳のメモ書きくらいですけどね」

そう言えば、こちらの現場にも奪われたものがあったな。発掘記録だったか・・・。

「西園寺少佐」

「はい」

「その弟とパガンについてどこまで調べましたか?」

「いいえ残念ながら全く・・・。ただ弟の遺した古地図がパガン周辺のものということくらいですね。そこに記載されていたメモくらいですね」

「メモ? ちなみにどんな?」

「『Pagan/P-19(雨季使用不可)ですね」

「19・・・。あっ!」

「どうしました?」

「西園寺少佐、その19って数字こちらにもあったんです」

「ええっ!」

「西園寺少佐、どうやら貴女の言う通り繋がっているかもしれません。失礼ですがラングーンへ行ってもよろしいですか?」

「そちら側の捜査は?」

「引き続き行います。ただあまりにも似すぎています確認しなければ」

「では、お待ちしています」


私は通信室を出ると先ほどの通信員を呼び止めた。

「いまからラングーンへ行きたい。どれくらいかかる?」

「えっ! 今からですか? なんでまた」

「事件に関して確認したいことができた。それでどれくらいかかる?」

「り、陸路ですと10時間ほど・・・」

そりゃそうか。私は思わず感想を口に出してしまった。

「長いな」

そこで通信員は思い出したように答える。

「でも空路なら2時間はかからないはずです、ただこことを結ぶ定期便は今日はもう・・・」

空路か・・・。私が乗ってきた輸送機ももう別任務のために行ってしまったし、そうだ。

「空いている機体はあるか? 私が操縦する」

「こ、小型のヘリが一機ありますが」

「悪いがそれを貸してもらおう」

「し、しかし事務局長の許可がいりまして・・・」

「事務局長はどこに?」

「執務室は何処に? 許可を貰いに行く」

そう言うと通信員は慌てて執務室へ案内した。 そこから、事務局長に至急ラングーンへ向かいたいことと事件の捜査に必要なことを説明し何とか許可をもらうことができた。


ヘリポートに着くと小型ヘリ乗り込んだ。心配そうに整備士が尋ねる

「あのヴァイス少佐。この機の操縦経験は?」

私はポケットからライセンスを取り出すと整備士に見せた。

「先月、訓練が終わっている。二度ほど飛ばしたこともある」

「で、ではお気をつけて」

そう言うと整備士はヘリから離れたので私はヘリのエンジンを動かした。

ゆっくりとヘリが飛び立つと私はラングーンの方向へと操縦桿を動かした。

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