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第14話:ルネ回:キャンバスに刻まれた奇跡

熱狂の渦が、少しずつ夕闇に溶けていく。

 後に「リオンピック」と呼ばれることになる第一回職人対抗フリスビー大会は、誰もが予想しなかった大団円を迎えていた。


会場の隅、夕日に照らされた石畳の上に、一人、猛烈な勢いで筆を走らせる人影があった。

 宮廷絵師、ルネである。


「……これざんす。これこそが、わたくしが求めていた『真実』ざんす……!」


彼女の瞳には、現実のドタバタ劇とは全く別の、輝かしい光景が映し出されていた。


***


数日後、アルカディア王宮の執務室。


「殿下! 見ていただくざんす! あの日、あの場所でわたくしが目撃した『神聖なる名裁き』の記録ざんす!」


勢いよく踏み込んできたルネが、一枚の巨大なキャンバスを披露した。

 その瞬間、僕は飲んでいたお茶を豪快に吹き出すことになった。


「ゲホッ、ゴホッ! ……いや、これ、◯リンピックのマークじゃねーか!!」


心の中で、前世のスポーツの祭典で見たあの「5つの輪」を絶叫する。

 画面中央には、光輝く5枚の円盤が絶妙なバランスで重なり合った紋章。

 それはバラバラだった技術が一つになり、王国の未来を支える「絆」へと変わった瞬間を表現していた。


だが、問題はその周囲の描写だ。


画面の左側。

 そこには、両手で顔を覆い、深く俯く僕の姿が描かれていた。

 そしてその僕の肩に優しく手を置き、心配そうに「大丈夫?」と覗き込んでいるシルヴィア。

 ルネの筆の上では「全てを許し祈りを捧げる聖者と、それを支える女神」のような神々しさを放っている。


対照的に画面の右側。

 そこには、花の冠を抱えて天使のようなニコニコの笑顔を浮かべるリーゼ。

 そしてその隣で、一切の感情を排した真顔で直立するハンス。

 その無表情は、ルネの手によって「鉄の守護者」としての威厳を与えられていた。


「完璧ざんす! 聖者リオン様と女神シルヴィア様! そして光の乙女リーゼ様と、守護者ハンス様! これこそが真実ざんす!」


「……ねえ、ルネ。僕、なんでこんなに光ってるの? あと、ハンスがなんでこんなに強そうなの?」


「お兄様、素敵ですわ! 5枚の円盤が重なって、みんなが一つになっているみたい!」


リーゼが目を輝かせ、絵の中の自分たちを見てうっとりとしている。


「素晴らしい。この5つの輪こそ『リオンピック』の象徴となるべき聖画ですな」


ハンスが眼鏡をキラーンと光らせて絶賛し、シルヴィアは隣で顔を赤くして震えている。

 自分があまりに美化され「リオンを支える女神」のように描かれているのが恥ずかしくてたまらないらしい。


「な、なによこれ……! 私はただ、リオンがあんまり真っ白になってるから介抱してただけなのに……!」


「シルヴィア様! これこそが目だけでは見ることができない『真実』ざんす!」


僕のあずかり知らぬところで、ただの「パニック」が、天才画家の筆によって国家的な伝説へと書き換えられていく。


夕暮れの執務室で、僕は一人、真っ白な頭で天を仰ぐしかなかった。

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