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第15話:称賛と、最悪の定期便

大会が終わって数日。

 僕の執務室に、一人の近衛騎士が無表情で現れた。


「リオン・アルカディア殿下。国王陛下がお呼びです。至急、謁見の間へ」


その言葉を聞いた瞬間、僕の背中に冷たい汗が流れた。

(……終わった。あのフリスビーをぶちまけて、適当に混ぜて配ったことがバレたんだ……!)


「リオン、顔色が真っ青よ。また遺言を預かる準備をしたほうがいいかしら?」


シルヴィアが呆れたように僕の肩を叩く。すると、僕の前に小さな救世主が立ちはだかった。


「お兄様、大丈夫ですわ! リーゼがついています! もしお父様がお兄様を怒ろうとしたら、わたくしが『お兄様をいじめちゃダメです!』って言ってあげますから!」


リーゼは小さな拳を握りしめ、ふんす、と鼻息を荒くしている。


「いいですか、お兄様。見ていてくださいませ。……お父様、お兄様をいじめちゃダメです! めっ! ですわ!」


人差し指を立てて、一生懸命に「めっ!」の予行演習を繰り返すリーゼ。……天使か。天使がここにいた。


「ありがとう、リーゼ……。でも、もしもの時は……あの競技で使った赤いピックを僕の墓標にして、フリスビーを供えておいておくれ……」


「縁起でもないこと言わないでよ!」


シルヴィアのツッコミを背に受けながら、僕は死罪を覚悟して謁見の間へと向かった。


***


重厚な扉が開くと、そこには玉座に座る父上――アルカディア国王と、その傍らで嫌な笑顔を浮かべるグレモリー公爵が立っていた。


(来るぞ……「王族が円盤をシャッフルするとは何事だ!」という雷が……!)


「父上……! 申し訳ありませんでした! 確かに僕は、あの時……転んで、フリスビーを崩してしまい、どこの工房のか分からなくなって……!」


僕が床に膝をついて謝罪を口にするのと同時に、父上の豪快な笑い声が響いた。


「わっはっは! よくやったぞ、リオン! お前は我が一族の誇りだ!!」


「……父上ごめんなさい…………え?」


顔を上げると、父上は満面の笑みで僕を褒めちぎっていた。


「わしはあの日、この目でしっかりと見たぞ! お前があえて円盤を混ぜることで、特定の工房を贔屓ひいきせず、自らが定めた『規格』の正しさを証明したあの瞬間をな! あれこそ真に公平な『名裁き』。王都中の職人たちが涙したのも頷ける!」


(……いや、本当に転んだだけなんですけど!? 誰も信じてくれないの!?)


隣のハンスは眼鏡をキラーンと光らせ、「殿下。陛下のお言葉通り、あの一撃は王国の産業革命における『聖なるシャッフル』として語り継がれるでしょう」と言わんばかりの澄まし顔だ。


***


父上は身を乗り出し、さらに熱を帯びた声で続けた。


「リオンよ。今回の成功を見て確信した。あの熱狂を円盤投げだけに留めておくのはもったいない! これからは職人たちの細工技術、力自慢たちの競技……あらゆる人材が才能を競い合う総合的な祭典とするのがよかろうて!」


(……どんどん規模が大きくなっていく。僕の仕事が増えるだけじゃないか……)


そこへ、グレモリー公爵が滑るような足取りで歩み寄ってきた。


「いやはや、陛下。素晴らしいお考えです。これほどの祭典、そして国民の才能を掘り起こす大事業。一度きりで終わらせるのはあまりにも惜しゅうございますな」


グレモリーが、獲物を狙う蛇のような嫌な笑顔を向けてくる。

 彼は今回の大会を通じて、資材や屋台の利権で大儲けしているはずだ。定期開催が決まれば、彼にとってこれ以上の「美味しい仕事」はないだろう。


「国王様。いかがでしょう。この総合祭典を『4年に一度の定例行事』として、王国の歴史に刻むというのは。ハンスも言っておりましたが、名付けて『リオンピック』……王国の威信をかけた伝統とするのです」


「4年に一度か……。面白い! 職人たちが腕を磨き、あらゆる人材が目標とするに相応しい周期だ!」


父上は上機嫌で頷き、僕を真っ直ぐに見つめた。


「リオン! お前の始めたこの祭典を、王国の公式行事とする。次回も、その次も、お前の采配に期待しておるぞ!」


地響きのような父上の笑い声の中で、僕はただ真っ白になっていた。

 4年ごとに、あらゆる分野の専門家が喧嘩を始め、シルヴィアが超難解コースを設営し、僕が「仲裁」を強要される未来が確定してしまったのだ。


僕は指の間から、ルネが描いた『5つの輪』の絵を幻視しながら、消え入りそうな声で「前向きに……検討します……」と呟くのが精一杯だった。

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