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第13話:名裁きの代償と、規格化の勝利

全ての競技が終了した 。

 最終集計の結果、あの驚異のスリット通しを見せた『銀の槌』工房が、僅差で総合優勝を勝ち取った 。


「――優勝は、『銀の槌』工房である!」


ハンスの声が響き渡ると、広場は割れんばかりの歓声に包まれた 。

 泥と汗にまみれた『銀の槌』の工房長が、震える足で国王陛下の前へと進み出る 。


「見事な技であった。その精進、誠にあっぱれである」


父上の重みのある言葉に、工房長は深く頭を下げた 。

 さらに隣にいたリーゼが、色鮮やかな花の冠を差し出し、彼の首にかける 。


「おめでとうございます! とっても格好良かったですわ!」


「お、おう……。リーゼ様。ありがとうよ……」


王女様からの直々の祝福に、強面の工房長も顔を真っ赤にして鼻の下を伸ばしていた 。

 だが、その直後だった 。極度の緊張から解放されたせいか、彼はつい余計な一言を口にしてしまった 。


「……へへっ、やっぱり、うちの工房の腕が一番だってことだなぁ!」


その言葉が、背後にいた他の工房の連中の耳に届かないはずがなかった 。


「あぁん!? 今なんて言った、この野郎!」

「たまたま運が良かっただけだろうが! 俺たちの円盤の方が、飛びの安定感は上だったぞ!」


一瞬で火がつき、職人たちが再び胸ぐらを掴み合わんばかりの喧嘩を始めてしまった 。


「お、お兄様、どうしましょう……! 皆さん、また喧嘩を始めてしまいましたわ!」


リーゼがおろおろと僕の袖を掴む 。


「あわわ……ちょっと、皆さん! 陛下もいらっしゃるんだから、落ち着いて!」


僕があたふたと仲裁に入ろうとしていると、横から冷ややかな声が響いた 。


「静かにしなさい。国王陛下の御前よ。職人の誇りは結構だけれど、無作法が過ぎるわ」


シルヴィアがピシャリと言い放つ 。

 その迫力に職人たちが一瞬で固まったところへ、背後に控えていたハンスが静かに、しかしよく通る声で告げた 。


「ふむ……。皆さん、お見事でした。ですが、一つ勘違いをされているようですな。……お気づきですか?」


ハンスは、職人たちが手に持っている円盤を指差した。


「皆さんが今手に持っているその円盤は、実は競技の前にリオン様が各工房のフリスビーをすべて『混ぜ合わされた』ものなのです」




「「「…………え?」」」




職人たちの動きが、完全に止まった 。

 彼らは目を丸くし、口を半分開けたまま、手元にある円盤と僕の顔を交互に見つめる 。


(……っ!?)


僕はその場に凍りついた 。ハンスの奴、やっぱりあの時見てたんだ 。


(うわあああ、やっぱりバレてたぁぁ!)


僕はあまりの恥ずかしさと絶望に、両手で顔を覆った 。

 転んでフリスビーを崩しちゃったなんて、格好悪すぎて死ねる 。穴があったら入りたい 。


 だが、沈黙の中でハンスの「名裁き」が追い打ちをかける 。


「リオン様は見抜かれていたのです。皆さんが『自分の腕が一番だ』とエゴをぶつけ合うあまり、職人としての本質……『良い道具を作り、それを使いこなす』という純粋な心を忘れていることを!」


ハンスの目がモノクルの奥で鋭く光る。


「あえて看板を捨てさせ、誰の作った道具であっても、皆さんの腕さえあれば等しく最高の性能を発揮することを、リオン様は実戦をもって証明されました! これぞ、不毛な争いを消し、全員に職人としての誇りを取り戻させる、リオン様の名裁きにございます!」



「……三方一両損、ならぬ、五工房プライド損ってか……。大岡越前の名裁きかよ……」



僕は顔を覆ったまま、消え入りそうな声で前世の記憶にある名奉行の名を呟いた 。

 人情の機微とか、そんな高尚な話じゃないんだ 。ただの「うっかり」なんだ 。


そして、あっけに取られた職人たちが再び顔を上げた 。


「……ほんとうかよ。でもこれ、本当にいい円盤だったぜ。どこの誰が作ったか知らねぇが……俺、投げてて惚れちまったもん」


その言葉に、他の職人たちもハッとしたように、互いの円盤を見せ合い、感嘆の声を漏らし始めた 。


「……ああ、確かに。俺の投げたやつも、重心が寸分もブレてなかった。おい、『古木の宿』。これ、お前んとこのか? いい仕事してやがるな」


「あははは。さすがハンス様とリオン様だべ。細工は流流(りゅうりゅう)、大工は棟梁(とうりょう)ってか」


「ってことはよ、後は競技の腕を磨けばいいってことだよな。親方!帰ったら練習しましょうぜ!」


さっきまで殺気立っていた職人たちが、互いの技術を称え合い始めた 。

 5つのチームのリーダーたちが、それぞれの円盤を空高く掲げる 。


 夕方の逆光の中、掲げられた5枚の円盤が重なり合い……僕にはそれが、4年に一度行われる、あの平和の祭典のマークに見えた 。


 僕は指の間からその光景を眺めながら、真っ白になっていた 。

 そんな僕の顔を、シルヴィアが「大丈夫?」と心配そうに覗き込んでいた 。

読んでいただき、ありがとうございます。


(「細工は流流、大工は棟梁ってか」は大岡越前の落語「大工調べ」のサゲをちょっと変えて使いたかっただけです。ごめんなさい)


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