第12話:魂の投擲《とうてき》
父上である国王の開会宣言が終わると、シルヴィアが凛とした足取りでステージの端へと進み出た。
彼女は広場を見渡し、観衆と職人たちに向けて改めて説明を始める。
「皆さんに、ルールを説明します。あそこに立っている赤い旗のついた棒――『ピック』が見えるかしら?」
シルヴィアが指差した先、コースの要所に設置されたピックが風に揺れている。
「各コースの開始地点から、あのピックに円盤を当てるまでにかかった投数を競います。コースはどれも一筋縄ではいかない難所ばかり。難しい設定にしたけれど、皆さんが磨き上げた技術をどう活かすのか、期待しているわ。精一杯頑張りなさい」
「おおおっ!」と、職人たちから野太い返気が上がった。
難しいからこそ、腕が鳴る。そんな職人特有の熱気が伝わってくるようだった。
***
いよいよ競技が始まった。
第一の難関は、高い壁に囲まれた急勾配のS字コースだ。
先行する工房の職人が二投目を投げ、ピックのあと一歩という好位置につけた。
続く工房の若手職人が、鋭い眼光でコースを見据える。
彼は腕をしならせ、円盤をサイドスローで放った。円盤は空気を切り裂き、壁へと向かっていく。
「あいつ、壁にぶつかるぞ!?」
観衆が息を呑んだ瞬間、円盤は壁の角に鋭い角度で接触した。
だが、失速するどころか、滑らかな表面が壁を滑るように弾け、さらに奥の壁へと反射。
そのままカーブを維持したまま、先行していた円盤を数歩分追い越して着地したのだ。
「よしっ! 狙い通りだ!」
若手が拳を突き上げたが、それを見ていた先行工房の職人が顔を真っ赤にして詰め寄った。
「おい、ふざけるな! 今の投げ方はなんだ! あんなのはただのラッキーじゃねぇか。せっかくの滑らかな仕上げを、壁にぶつけて台無しにしやがって!」
「うるせぇ! あれは計算通りの反射だ。お前らこそ、せっかくの滑らかな仕上げを活かせてねぇじゃねぇか!」
「なんだと!? お前らの工房の円盤こそ、少し重心がブレてたんじゃないのか!」
待機所では、早くも職人たちが胸ぐらを掴み合わんばかりの勢いで言い合いを始めた。
すると、それを見ていた観衆がさらに沸き立った。
「おいおい、熱くなってんなぁ! 俺は『銀の槌』工房の根性に金貨1枚だ!」
「ふん、俺は『古木の宿』が勝つのに金貨2枚賭けるぜ! あの若造、いい度胸だ!」
あちこちで追加の賭け金が飛び交い、広場のボルテージは跳ね上がる。
(……わわっ、誰か止めないのかな。本当に殴り合いになっちゃうよ……?)
僕は横で見ていて冷や汗が止まらなかった。
けれど、怒鳴り合う職人たちの顔を見ていると、どこか吹っ切れたような、清々しいほどの真剣さが伝わってくる。
(……まあ、みんなこれだけ熱くなって、楽しんでくれてるみたいだし、結果的には良かったのかな)
僕は少しだけ安堵して、再びコースへと視線を戻した。
競技は進み、いよいよ最終ステージ。
そこには、これまでの難所を凌駕する最大の壁が立ち塞がっていた。
高さのある壁の中央に、わずか2リオン程度の幅しかない垂直なスリット(隙間)が空いているのだ。
ほとんどの工房は、ここで安全策を取った。
一投目で壁の直前、スリットの真正面に円盤を落とし、二投目できっちりと隙間を射抜く。
確実に二投で抜けるのが「正解」とされるコースだ。
だが、最後の一工房――あの『銀の槌』の若手職人は違った。
「見てろよ……。俺たちの技は、安全策なんざ踏み越えていくんだ!」
彼は円盤を垂直に近い角度で構えた。
放たれた円盤は、猛烈な回転を伴って「縦」の状態で空を飛んでいく。
観衆が静まり返る中、円盤は吸い込まれるようにスリットを直撃――いや、完璧にその隙間を潜り抜けた。
カンッ!!
壁の向こう側で、一投目にしてピックに当たる快音が響き渡った。
「なっ……一投だと!?」
「あの隙間を、一度も地面に落とさずに抜きやがった!」
地鳴りのような歓声が広場を飲み込んだ。
老親方も、その一撃には驚きを隠せず、苦笑いしながらも若手に拍手を送っている。
徹底的に基準を合わせたことで、言い訳の余地は消え、純粋な「意志」が空を舞ったのだ。
その光景に、僕は小さな感動すら覚えていた。
競技は全行程を終了した。
いよいよ最終集計の時。
そこで判明した「驚くべき結果」が、この大会を伝説の幕切れへと導くことになる。




