第15話 異界迷宮アルジャイナ森林
異界迷宮っていう割にはただの森――ジャングルだ。
蔦が木と木の間にぶら下がったり、派手な色をした野鳥がけたたましく鳴いたりと至って普通。
試練というから構えちゃったけど、そこまで恐れる必要はないのかも……。
『いえいえ。ここはまだ入り口ですからね。いきなりレベルマックスは面白みに欠けるでしょう』
「うおっ!? ってその声……マックスね」
どこからともなく響いてくるマックスの声に辺りを見渡す。が、姿は見えない……。
『はい。あなたの様子は随時モニターしてますので。まあナビゲーターですからね。迷子になって侵入禁止エリアにでも向かわれたら厄介なので、道案内程度はしますよ』
「あっそう……。で? いきなりレベルマックスとか言っちゃってるけど、じゃあここから敵が出てくるって事でいいんだよね?」
『あっ……さ、さぁ?』
「今更はぐらかしてもそれは無理よ!? 無理無理!」
試練だのレベルマックスだの言われたら絶対何か出てくるのは目に見えてるんだから!
ってかこの人、大人な見た目の割になんだかお馬鹿っぽいわよね……。
『馬鹿とは侵害ですね。知能レベルだけで言えばあなたの数億倍は優秀です』
「は、はぁ!? アンタがアタシの何を知って――」
『はいはい。話はここまでです。ほら来ましたよ?』
会話の途中、道の先にアタシよりも4、5倍巨大な二足歩行の毛むくじゃら。
筋肉質で腕が太い獣がドシンドシンと駆けてくるのが見えた。
「あれって……」
『ゴリラですね』
「あれが!?」
初めて見たけどあんなブッサイクなの!?
ちょ、ちょっと待って? 今までアタシがゴリラゴリラ馬鹿にされてたけど、あれとおんなじ扱いを受けてたってこと? 思い出すとなんだかムカついてくるんですけど……。
『街中でウンコしようとするあなたの文明レベルはゴリラとおんなじですからね。くすくす』
「ば、馬鹿にすんじゃないわよッ!」
姿は見えないけどマックスの奴、アタシを面白おかしく笑ってるのだけは分かる。
記憶まで読んじゃって……ってかアタシ、ウンコしてないし! しようとしてたのはママだし!
「ってそんな事より目の前の敵よね……」
ゴリラはアタシに向かって一直線に迫ってくる。
周りに他の生き物はいないあたり、狙いはアタシに絞っているんだろうね。
まあ迷宮なんだから当然か。
『どうしました? 怖気付きましたか?』
「まさか。今更魔獣の1体や2体敵じゃないっての!」
アタシはゴリラに向かって駆け出した。
マックスが小声で『そっくり……』と言った言葉を無視しつつ、クラフトアックスを組み上げる。
ここがデータ世界っていう割には武器の重さと質感は現実とまんま同じだ。
肉薄と同時、ゴリラがその巨腕を振るう。
アタシはひらりとその拳をかわして、ゴツゴツとした腕にクラフトアックスを叩きつけると、一刀両断――腕を輪切りにすることに成功した。
「グオオオオオオオオオオ!!!?」
『おぉ……。マジですか。ゴリラはSランク魔獣なのに、相手にならないとは……』
「Sランクがどうとか、知能のないただの獣でしょうがッ!!」
跳んで、ゴリラの首目掛けてクラフトアックスをフルスイングしてやる。
ガゴン! と鈍い音と衝撃が腕に伝わるが、その首に刃が突き刺さり、ゴリラは地に伏した。
「はいお終い」
『お見事です』
パチパチと手を叩く音が聞こえる。
ゴリラの姿が霧散して消えた。
どうやらこの世界で倒した敵はこんな感じで消えるみたいだね。
「Sランクっていうからレベルもなかなかなんじゃないの〜?」
とマックスを煽ってやったら。
『レベルですか? まあ今のはお手並み拝見なんでレベル1ですよ。そんなことも分からないんですか?』
「な、なにをー!! アンタ、マロンの作った魔具の癖に生意気よー!」
『マスターはフォルティナ・ロックスがこの空間に現れた場合は存分に馬鹿にしていいとおっしゃいましたので』
「マ、マロンのやつ〜ッ!」
もしかしたらアタシと一緒の時間を過ごしてるマロンも同じことを考えてるのかもしれないと思うと、俄然ここから抜け出したくなった。
ってか抜け出してアタシという人間に対して何を考えてるか吐かせてやるんだから!
「ふんっ!! ちゃっちゃと次行くわよ、次!」
『……短気で低い知能、そしてそれを補ってあまりある戦闘力……まさしくゴリラじゃないですか……』
――――――――――――――――――――――
迷宮を、アタシは立ちはだかる敵をぶっ倒しつつ進んでいるところだ。
現れる敵は魔獣が多いが、途中から人間が出てきた時は驚いた。
それが今までアタシが戦ってきた人たちだから、そりゃびっくりもするでしょうよ。
バエルに、ランドール、ミリィ、ダライオスと、魔将に至るまで様々。
正直連戦続きでかなり参ってる……。まあ一度勝ってる相手だし、生の人間と違って動きが読みやすいってのがあるんだけどね。
「にしても……あとどれぐらい続くってのよ……」
『もう少しですよ。にしてもあなたがここまで強いとは……マスターから聞いた話以上ですよ』
感心したと言ったようにマックスの声だけが空間に響いた。
「アンタのマスターが知ってるアタシは未来のアタシでしょ? 過去の、別の世界のアタシのことは何にも知らないわけじゃん。そりゃ強さも違うでしょ」
コイツはレイチェルが作った存在なのだから、アタシ自身のことは知らないはず。
似たところはあれど、技に経験値、つまり今まで歩んできた道のりが違うから強さも違ってるはずだ。
そうでしょ? シスターであるアタシと冒険者であるアタシなんだから。
『なるほどです……では最後の敵はそんなあなたにとってとっておきの存在を用意しました。これを超えれば迷宮の攻略はすぐ目の前ですよ』
「ふん。もう何が出てきても怖くはないわ! アンタ、アタシを舐めすぎ。どうせ出すならこの世界最強でも引っ張ってきなさいっての」
そう言ってると、目の前――森の開けた場所に舞踏大会で見るような石畳の広場が見えてきた。
そこに足を踏み入れると周りの光景が……フロンタイタスのスタジアムのような、いやまさしくスタジアムの光景が広がっていた。
観客の歓声に、軽快なBGM。
アタシの記憶から再現されてるんだろうか、これは闘争競技決勝戦で見た光景にそっくりだ。
そんなスタジアム、フィールドの正面に立っている1人の人間。
漆黒の修道服に身を包んだ眼帯をつける女性。
「まさか……あれって……」
『はい……』
少しボサついた長い茶髪、彼女が背負った得物は斧。
どことなく見覚えがある斧を、彼女はアタシがよく知ってる構えを取って歩み寄ってくる。
『とっておき……あなたが望んだ最強。偽神史上適合者が皆無とされたスルトの継承者にして最後の英雄――』
そいつがにっと笑って一礼をしてくる。
まるで武人に対して敬意を持っているかのように。
『この世界のあなた……【偽神スルト】にして【破壊の聖女】フォルティナ・ロックスです』
アタシはこのデータ世界で未来の自分自身と向かい合うことになったのだ。
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