私は彼を愛していました。けれど彼は私を愛してはいなかったのかもしれません。……婚約破棄、その時は突然やって来ました。
貴方を愛していた。
貴方を思っていた。
そうよ、私はずっと……。
「君との婚約だが、破棄とすることにした」
婚約者アイマフが告げてきた婚約破棄。
それは恐ろしいほど冷ややかなものであった。
優しさ、情、人としての最低限の思いやり。どれもない。その時の彼には、終わりを告げた時の彼は、そのすべてを手にしていなかった。自分の感情だけで彼は動いていた。
「いいな?」
「どうして……」
「簡単なこと。君のことなんてもうどうでもよくなかったから、ただそれだけだ」
アイマフがこれほどまでに心ない人だとは知らなかった。
だからこそショックで。
何も言えないほどに固まってしまった。
「君はせいぜいもっと似合った人と結ばれるがいい。君程度の女性に俺なんて……もったいなすぎるだろう? はは。そういうものだよ。結婚は、な? 似たような程度の者同士でするのが一番良いものなんだよ?」
こうしては私たちの関係は終わる。
彼が切り捨てたのだ。
その無情な刃で。
私の心が紅をこぼしていても、彼は気づかない。
◆
婚約破棄から少しして、アイマフはこの世を去った。
何でも、酒場で知り合った女性と一夜で深い仲にまで発展したそうなのだがその女性には実は婚約者がいたそうで、その婚約者に夜のことを知られ呼び出されて殴る蹴るの暴行を加えられたらしく。その際に負った怪我によってアイマフは衰弱、そこに風邪をこじらせるという悲劇もあわさってしまい、落命するに至ったようである。
ある意味騙されたとも言えるのか……。
だとすれば気の毒ではあるが……。
でも、私の立場から言わせてもらうなら、アイマフは可哀想ではない。
彼は人を平気で傷つけられる人だ。
だからたとえ理不尽に傷つけられたとしても自業自得。
すべては彼の行いが引き寄せたこと、そうとしか思えないし思わない。
彼が先日私に何をしたか?
それを思えば、私は彼の味方はできないのである。
◆
アイマフの死から一年半ほどが経ち、私は、親の紹介で知り合った大商人の子である男性と結婚した。
今は公私共に彼のパートナーとして活動している。
仕事のことに関してはまだまだ駆け出しだが、彼やその周囲に色々な面で支えられ、今のところは順調に動けていると感じる。
彼のため、そして、自分のためにも。
より高みを目指して。
日々学び働いていきたい。
それが二人の明るい未来のためになることだと知っているから。
◆終わり◆




