↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
佐倉蓮の変わらない日常  作者: 八千三百
PR
9/13

1-9 音で繋がる

今回は骨組みはすぐ出来ましたが、推敲に時間がかかりました。

 リハビリが始まって、十日ほど経ったある日。


 看護師のバイタルチェックが終わると、入れ替わりで綾香が病室に入ってきた。

 ほほ笑みを浮かべ、蓮の顔を見るなり「おつかれさま」と小さく手を振る。

 蓮も身体を起こしてから軽く手を上げた。

 綾香は椅子に腰を下ろし、膝の上で指をそろえながら顔を傾けた。


「ねえ蓮くん、最近、ラジオ聴いてる?」


「あ、FMオオルリとか?」


「うん。最近は忙しくて聴けてなかったでしょ」


「確かに、そうだね。久しぶりに聴きたいな」


「イヤホン持ってきたの。ちょっと聞いてみようよ」


 地元コミュニティ放送局のFMラジオを聴いて、翌日に綾香と会話することが、以前の蓮の日課だった。

 朝に制服の襟を整えながら、あるいは夜に勉強をしながら、いつも流してさいた馴染みの音だ。

 けれど入院してからというもの、身体の変化や将来への不安で頭が一杯になり、耳に音を入れる余裕もなかった。

 自分でも気づかないうちに、その習慣がどこか遠くに行ってしまっていたのを思い出す。


 綾香がスマホのアプリを開いて再生ボタンをタップする。音量を調整してからイヤホンを片耳差し出した。

 イヤホンを片耳ずつ分け合い、二人で耳を傾ける。

 懐かしいジングルが流れ出し、ラジオパーソナリティの澄んだ声が鼓膜を振動させた。


 蓮は目を伏せて、音に意識を集中させた。


 ラジオパーソナリティが街のイベントの話題を読み上げ、地域商店街のスポンサー名が軽く流れる。


 綾香が囁くように呟いた。


「この人の声、素敵だよね」


「……うん。なんか、落ち着く」


「蓮くん、こういう話し方好きって前も言ってたもんね」


「綾香ちゃんにちょっと似てるんだよね」


「そ、そうかな?」


 綾香はイヤホンと反対の耳を掌で押さえると、真剣な面持ちで瞼を閉じた。

 ゆっくりと目を開くと、はにかみながら蓮の横顔を覗き込む。


「最近はこんな時間なかったもんね。ちょっとなんとなく時間が戻ってきた感じ、しない?」


 蓮は窓の外に視線をやると、頷いた。


「するかも。外と繋がってる感じがする」


 流れてきた曲に合わせて、綾香が体を揺らしてリズムを取る。

 その仕草につられて、蓮も指先で同じ拍を刻む。


 わずか数分、病室の中に穏やかな空気が満ちていく。


 曲が終わるころ、綾香がぽつりと呟く。


「また一緒にこうやって聴こうね」


「そうだね」


 イヤホンを外すと、蓮の意識は病室の静けさへと引き戻される。

 けれど胸の中には、確かにさっきの温かさが残っていた。


 蓮は放送部の仲間のことを思い浮かべる。


「部の人たちは元気?」


「元気だよ。みんな今は、県大会に向けて準備を進めてる。取材とかはだいたい終わったから、4月から台本作りが本格的になると思う」


「いいな。少しだけ学校に行きたくなってきたかも」


 蓮が冗談めかして笑うと、綾香は口の前で両手を合わせて何度も頷く。


「うん。蓮くんが戻ってくるの、みんな楽しみに待ってるから」

 

「学校のみんなの反応は、凄い不安だけどね」


「そうだよね。部のみんなはみんないい人だし、心配ないんだけど」


 学校生活を送るとなると、いろいろと支障がありそうで、すべてがうまく行きはしないだろうことは予想できる。

 学校以外の生活のことでも、将来の不安は尽きることがない。

 しかし、今後について考えることが自然とできてきているだけで、前向きになれている表れだった。


 そんな蓮の様子を見て、綾香も胸をなで下ろしていた。

蓮の退院の日も近づきつつあります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。