第57話 カイエンの憂鬱
「ああ、もうそんなになるかマーリンが魔法の試合で負けたのを見たのは後にも先にもあれが初めてで鮮明に覚えているよ」
ゼルフィンがニヤニヤとマーリンを見てそう言った。
「う、うるさいわい!ゆ、油断しとったんじゃよ!見た目が、あの様な、お子の姿であったのでな!ほ、本気出せば10回に1回は、わしだって勝てたと思うわい!!」
「え!?10回に1回ですか!?マーリン様が負けたとは聞いていましたが、そ、相当の腕なんですね!炎壊って!?」
トゥーリーが、弟子である自分の師匠が負けた事実にショックを受けていたが今でも10回に1回しか勝てないと言うマーリンに実力を知るトゥーリーは心底驚いていた。
「い、いや、その頃は炎壊は子供だったのですか!?その様な時に、かのマーリン様が歯が立たなかったなんて…今では一体どれ程の使い手に、なっているのか!!」
「いや、炎壊はエルフだ。成長は遅い。30年では、あまり容姿は変わっておらんのでは、ないですか?カイエン様」
「ああ、金級の叙勲式の時と、そう変わっておらんな。少女のままだ。あの見た目で誰も騙されるな。実力は国一番の魔術師であるマーリンを打ち負かす程の達人だと言うのにな」
「ええい!油断しただけじゃって!確かにウリシュクは強いが単独行動が基本じゃ!パーティで挑めば負ける事などないわい!!」
「そ、それは1対1では勝てないと、おっしゃっているのと同じですよね?」
「当たり前じゃ!勝てる訳あるか!わしの数倍の魔力量を持っておるのだ!あんな奴に勝てるのはアークデーモンの様な異界の者くらいじゃっての!」
あ 認めちゃったよ、この人。
王国一の魔法使いなのにとセリュードは呆れた。
「確かに炎壊は実力者だが奴は来ないよ。今は重要な依頼に数年付いてもらっている。それが終わらぬ限り招集は出来ないのだ」
「そ、それはいつ頃終わるのですか?」
「分からぬ、厄介な依頼だ。炎壊でも命を落とすかも知れぬ金級案件なのだ。詳しくは言えぬが炎壊でも難しい依頼なのだ。まだ数年は、まかせるしか無いと思っているが援護を申し出ても断られているのでな単独で、まかせるしか無いのだ。信じて待つしか今はないな…なので炎壊も、あてには出来んと言う事だ」
最後の金級、炎壊の手助けも来ないと知り全員は絶望感でいっぱいになっていた。
「まあ、奴らは逃げぬ。この時代の勇者達がダメでも良き才能が育って来ておるよ。カイル王子やシスティリア王女も、かなりの腕じゃ。システィリア王女は、まだ荒削りじゃが、かなりのあれは魔法の使い手に、なるとわしは見ておりますぞ?それにカイル王子ならば今でも我らの戦力として参加できると思いますがの」
「そ、そうか!カイル王子が、いましたね!次回はぜひに同行してもらいましょう!カイエン様!システィリア王女には、もう少し年月が必要ですが王子ならば、けして私達の足手まといにはなりませんよ!!」
セリュードが期待を込めて、カイエンに、そう尋ねたがカイエン共々ゼルフィンも首を縦に振らなかった。
「カイルは確かに天才だ。アハ・イシュケーンの再来と言われておるのはうなずけるよ。俺が奴の年の頃は、あれ程の実力は無かった」
「うむ、カイエン様のおっしゃる通りです。我が師事をさせていただいておるが恐らく天才とは王子の事を指す言葉ですな。14才になられたばかりだと言うのに我が流派の師範代も今では相手にならなくなって来ております。私でさえ10回に1回は1本取られます。国中の王子位の子供を集めても…いや大人でも王子に匹敵する実力者などおらぬと断言しても良いよ…実は今回の遠征にも王に許可を頼んだのだよ。だが断られたのだ」
「ゼ、ゼルフィンが認める腕があると言うのに何故です!?かの門は数百年に渡る人類の悲願なのですよ!?なぜ、それに参加出来ぬのですか!?」
「セリュードの言う事も、もっともだが弟の…いや国王の気持ちも分からんでも無い。死なせたく無いのだ。普通に親心だろう。今回は誰も死傷者が出なかったが、この遠征では過去に英雄と呼ばれた猛者が何人も亡くなっておる。カイルは国の希望だ。奴は俺に勝る戦士になると俺も思っている。だが、今は成長期だ。せめて20才を超え身体も全盛期になってからでも遅くは無いとの王の返答だ。今でもカイルは大人でも、かなりの実力が無ければ太刀打ち出来んが、あれが人として成長し身体も大人になれば、きっと俺の全盛期を超える実力者になる。なので今は早計だと言う国王の意見も、もっともだとは思う。だから王はカイルにインフィニティの捜索と言う叶う事の無い餌をぶら下げて奴をこちらに行かせなくても納得させている所だ。カイルは遠征に来たがっていたが、そう言う事で国王に止められている所なんだよ」
「インフィニティと言われますと、まさか数百年国が奪還を目指して消息も分からなくなっていると言う、あの宝剣ですか!?」
セリュードが驚きを隠せない。
インフィニティは冒険者にとっても有名な宝剣で、おとぎ話がわりに子供の頃からアハ・イシュケーンの伝説と共に国の子供が聞かされて育つ程の有名な剣だ。
しかし今では存在するかも疑わしくなってしまっている眉唾な情報で主立った冒険者にはもはや信じている者など小馬鹿にされる程の伝説の剣だ。
「ああ、最近クリスタルが反応してな。国の近衛騎士団が探索させろと鼻息が荒くてなクリスタルとて絶対では無いのだ。感知したらしいが、それもどこまで信じて良い物かと思ってな。だがカイルもインフィニティには幼き頃から執心しておってな、こちらを断る良い材料と思って、その依頼を国王もギルドに出したのだ。カイルも、こちらに参加できず渋っておったがインフィニティの探索と聞いて手の平を返してな、ぜひ探索チームに入りたいと俺に直接頼んで来たよ。まあ俺は、それもクリスタルの誤作動だと思っている。ここ数百年何の反応も無かったクリスタルが何故今になって反応しているのか疑問だったのでな」
「フ、誤作動に決まっておる。オーガの俺でもアハ・イシュケーンの伝説とインフィニティの剣の話は知っておるよ。ここ2百年以上音沙汰が無かった物が、そう簡単に発見などされる物かよ」
エニグマが鼻で笑った。
「何を言う!クリスタルは、古代王国の由緒正しい魔導具じゃぞ!?間違いは…そりゃ多少あるじゃろうが可能性はあるはずじゃぞ!」
王宮魔術師として国の魔導具を一括管理を、任されているマーリンが講義した。
「まぁ残念だが、俺も誤作動と思っているが一応探索には銀級パーティ2チーム以上、もしくは金級の参加が必須条件として出しておいたが多分クリスタルの反応がその内途絶えて、この依頼は流れるだろうな。銀級も暇じゃない。アマランの銀級チームは1年はアマランに戻らぬ依頼を受けてるし、ましてや金級が依頼を受けるとも思わん。あげくしびれを切らして竜の魔窟に王子達が入ったとしても、あそこの魔物はレベルが高い。王子はともかく近衛騎士団でも厳しいのでな、すぐ諦めて引き上げてくれるだろうしな。まぁそうなったら、それはそれでカイルの息抜きになって俺達の遠征の事は当分忘れてくれるだろうしな。どう転んでも不利益にはならん。ま、カイルはがっかりだろうがな」
「なる程、カイル王子の不満もそれで解消されるでしょうな。フフフさすがはカイエン様ギルド長としても考えてらっしゃいますな」
ゼルフィンがカイエンを称賛する。
「しかし、インフィニティが本当に存在したとなれば、これは一大事ですよ!山を割り、地をえぐり、雷鳴を斬ると言う伝説の剣ですから存在するならば、ぜひ私も見てみたいですよ!」
「トゥーリーお前は魔術師であろう剣など興味無かろうに」
「マーリン師匠!そんなの関係ないですって!アハ・イシュケーンとインフィニティのお話はデュラリオン王国の人間だったら子供の頃から聞かされる、おとぎ話何ですよ!それは見たいですって!!」
「フン、山を割り、地をえぐるなど盛られてる話に決まっておる。我が師の雷槍も凄まじい威力だが、さすがにそこまでにはならん。作り話のたぐいであろうよ」
「大人げないのう、これだからオーガはドライじゃと言われるんじゃよ夢があって良いではないか、エニグマよ」
「フッ人族こそ夢を見過ぎでは無いのか?」
「まぁ、おとぎ話になってしまっておる内容の真偽はともかくアハ・イシュケーン様は本当に存在した剣豪だ。インフィニティもな。なので見つかってくれれば国にとっても喜ばしい事だがな」
そうは言っても、カイエンも正直言って半信半疑なのが本音ではあった。
次回は9月22日(火曜日)の更新です!(^^)




