第16話 ウリシュクとの会食
さてやっと落ち着いて一人になれた。
ウリシュクとは、後でここのレストランで夕食を、食べに行く約束をしている。
後1~2時間は、一人の時間がとれたと言う事だ。
良い機会なので、とりあえず現状を冷静に考えてみようと思う。
まず、俺は恐らく夢では無く、本当に、この異世界ファンタジーな世界に、転移してしまったと言うのが現実だ。
連載のコンペを控えていたのに、もう間に合いそうにない…と、言うか俺は元の世界に戻れるのか?
戻れないとなると色々と悔いが残る…
今季のアニメも続きが見れなくなるし、発売を楽しみにしてたゲームもプレイする事が、出来なくなった…いや、そんな事よりも俺が急に居なくなって失踪扱いになってて、大騒ぎなんじゃ無いか?
疎遠だった両親や妹も、さすがに心配してんじゃないだろうか?
漫画家としては、人気が下がってたが、そこそこ知名度はあったのでネットニュースとかで、面白おかしくトレンドに、なってそうで怖い…いや、ちょっと待てよ、もしかして俺は寝落ちしたと思ってたけど…急死したんじゃないのか?
それで俺は、この世界に転移したんじゃ…
大体、自分の創作した作品のキャラになれるのも、よくよく考えたら変な話だ。
俺は自分の身体を(シグレアキラの身体だが)確認する様に触ったり、つねったりしてみる。この感触、とても夢とは思えない。
アークデーモンとの戦いや、ウリシュクとの会話、肌で感じる風や匂い…アークデーモンとの戦いは、確かに現実離れしていたが、今思うとあれも夢だったとは、思えない。
どうやら俺は、本当にこのファンタジーな世界に転移してしまったみたいだ。
「はは…嘘だろこんな事、ラノベだけにしてくれよな……」
今更ながら、この現実に少々ショックを受けてしまうが考え様によっては、まぁいい経験になるんじゃないかとも思う自分も居る。
正にゲームの様な、この体験を現実に帰った時、自分の漫画に活かせるんじゃないかと。ゲームでは、得られない様な体験をリアリティマシマシで経験しているのだ。
こんな機会は滅多に無い。
いや絶対あり得ないくらいの経験だ。
そう考えると、こんな経験も悪くないんじゃないかと…
しかしそれも現実世界に、帰れたらの話だ。
そもそも俺は帰れるのか?
帰っても締め切りにはもう間に合わ無いし、現実では時間の流れが違っちゃったりして無いのか?
とんでもなく時間が経ってたり、または俺が寝落ちした時間に戻ったりとか…こんな事が起きたのなら、それもあり得る話だ。
しかし今はどちらにしても帰れる方法が無いし、そのうち旅をしていれば見つかったりとかするのだろうか?
…何にしても方法が見つかるまで生き延びなければならない。
幸運にも、この身体シグレアキラはアークデーモンと戦えるくらい強いし、いざとなったらシルファやデュランダルになれば、ある程度危機は回避出来そうだ。
そう言えばシグレアキラに、なってるとは言えアークデーモンや森で会った3mはあろうかと言うヒグマや、魔物に出会っても恐怖を感じなかったな…
現実では動物園でライオンやら象やらを見た事をはあったが、自分に危害を加えようと襲って来る猛獣に怖いと言う感情が一切沸いてこなかった。
俺本人はデカいシェパードにだって、勝てっこ無いしましてやアークデーモンなんて悪魔と戦えもしないだろうに…もしかして俺はシグレアキラに心が近くなっている?
ウリシュクとの会話やギルドでの態度は、シグレアキラらしい対応だった。
俺は結構コミュ障な所があるから、あんなにハキハキと人と喋れないだろう。
シグレアキラは体育会系の人間で、俺本人は文化系の人間だ。
体育会系のノリは案外、俺も嫌いでは無いが、シグレアキラ程コミュ力も無い。
あくまでシグレアキラは俺の理想に思う少年誌の主人公の性格だ。
俺本人とは違う。
だがシグレアキラなら、そう言うだろうと言う言葉や態度が自然に出ている…
もしかしてこれは、俺がそのキャラクターになれば自我が引っ張られてしまうのでは、ないだろうか?
このままずっとシグレアキラで居たらいずれ俺の自我は、消えてしまうんじゃないんだろうか…そう考えると俺は心からゾッとしてしまった。
俺が消える?
自我の消滅って、それは本当の死、なんじゃ無いのか?
…死について考える事は作品を創作している者なら、そのキャラクターが死んでしまうなどの時に、考える事は多々あるだろう。
しかし実際に自分が死ぬ時など29才の俺には、やはりまだ現実味の無い事だ。
病気も別に無いし、持病なども無い。
典型的な健康な29才の日本の青年だ。
死は事故など無い限り現実的では無い。
それが今なのか?…いやそうじゃ無いとしてもだ、俺が消える事は無い。
何故か強く俺はそう思った。
シグレアキラは大事な俺の創作のキャラクターの一人だ。
作品は漫画家にとって命と言える。
そのキャラに引っ張られるのも大事に思えばこそ理解出来る。
シグレアキラは、こうであれと思う心は俺の作品へのリスペクトであって、うなずける事だ。
だが俺は俺だ。
桜田誉は消える事なんてねぇ
俺の生きてきた29年の生涯は、伊達じゃねえ。
俺の存在が消える事なんてありえねぇ
何故なら俺は俺を信じて今まで生きて来たんだ。
俺が俺を見捨てて消滅するなんてありえねぇ。
そう強く思った。
何故だが分からないが俺が俺を信じる心は誰にも負けない。
たとえそれが大切な自分の作品であってもだ。
何故か妙に自信満々にそう思えた。
理由は分からないが色々連載打ち切られたり彼女が居なかったり、貧乏で餓死寸前になったりとドジな所もあるが、俺は俺が大好きなのだ。
そんな自分を消滅する事なんてありえない。何故か自信満々に俺はそう思えた。
「フ それで良い。それでこその貴様だ」
「うん君らしくて良い…」
その時デュランダルとシルファの声が聞こえた気がした。
コンコン
するとドアをノックする音がする。
「シグレ?そろそろ夕食に行くわよ?入るわよ?」
ガチャッとドアが開きウリシュクが入って来た。
どうやら結構な時間考えてしまってたみたいだ。
「ああ もうそんな時間か。じゃ行こうか」
「あら?なにか晴れやかな顔してるわね何かあった?」
「え?そうか?まぁ考えてもしょうがねぇなって思っただけだ」
確かに悩みは解消したかな、帰る帰れないにしても。
今は生き延びる為に、ここでの生活をこなしていくしか無い。
悩んでてもしょうが無いって結論に達したしな。
「ふーんまぁ知らない国に来て色々と大変なのは分かるわ。大丈夫よ私がサポートしてあげるからさ、一緒にがんばろうよ」
「ああ 一人なら心細かったけどウリシュクが居てくれれば心強いよ、ありがとな!」
「ば ばかね!仲間なんでしょ?私たちは。だったら頼られるのはお互い様じゃない気を使うの禁止!!」
「はは そうだなそんじゃ腹も減ったし、さっさと飯食いに行こうぜ!」
「もう、はしたないんだから」
そう言ったウリシュクだが何だか嬉しそうだ。
ウリシュクは、今の人の姿になれる時間が限られてたから人との交流も、あまり出来なかったんだろう。だから仲間や友人が少ないんだろう。
変化の時間を気にする事無く付き合える人間が出来て本当に嬉しいんだろうな。
今までは、あえて会う人間を突き離す様な態度をしていたんだろう。
本来は人懐っこくて愛らしい普通の女の子なんだよな。
実際はまだ会って数日の付き合いだが、俺はウリシュクの事をそう思った。
俺達の泊まってる、この宿屋
[豊穣の館亭]
は、ウリシュクが言うには普通より高級で割高だが、その為、宿に泊まる客も少なくて静かで落ちつけるらしい。
俺は別に安い所で良いと言ったんだが、お金の使い道があまり自分は無いから、こう言った事なんかで使わないと貯まる一方で逆に使わないと、勿体無いとの事だ。
リッチな奴め。
だからギルドから出金すればアダマンタイトの2千枚金貨くらい大丈夫と言っていたが、それは俺が断った。
只でさえ色々とウリシュクに奢ってもらってるのに、俺用の武器を造る、お金まで出させてしまったら悪いし何しろカッコ悪い。
友人とは俺はイーブンな関係でいたいし対等な関係がベストと思っている。
それに何だか、このまま奢り続けられたら、ヒモみたいなので俺は嫌だ。
なのでウリシュクの依頼ではあるが、せめて手伝って自分の働きで、お金を稼ぎたい所だ。
ウリシュクには、いつまでも、お前に頼りすぎるのは、人としてダメだから特にお金の貸し借りはしっかりしたいと言って、借してくれると言うのを断ったら
「ウフフ 変な所で義理堅いよねシグレは。でもそういう所、良い所だと思うよ。うん分かった。じゃあこの依頼はシグレ中心で頑張って気兼ね無く報酬を受け取れば良いよ」
ニコッと可愛らしくウリシュクが笑う
「おう!まかせとけって今回は俺用の剣もあるんだしアークデーモンの時みたいにドジは踏まねえさ!」
「え?ドジ踏んだの?」
「おう 全身黒い炎に焼かれて消えかけたな。剣があったら、あんなドジ踏まなかったしよ」
「嘘…それってインフェルノの黒炎魔法でしょ!?直撃して、あなた良く消滅しなかったわね…」
「え?あの黒い炎って、そんなにやばいの?」
「ヤバイも何も、万物を分解して塵も焼き尽くす炎の魔法の最高位に魔法よ…それが直撃して無事なんて信じられないわ…」
「うんまぁ気合でなんとかしたよ」
「き 気合いって…本当に人族?ハーフエルフじゃないの?その魔力だし…」
「いや 人だって14才、人族のナイスガイ勇気爆発超絶少年誌主人公だってばよ」
「また変な事言う…まぁ良いわ。そんなケガしてまで私の命を救ってくれたんだし本当に感謝してる…だから少しくらい奢ったって気にする事無いよ?本来なら私死んでて、ここの支払いのお金だって出金出来ずにギルドの貯蓄になってた所何だし」
「え?そうなのか?」
「うんギルドに預けてるお金はそう言う事こみで預かってもらってるのよ。そう言う約束で契約して入金させてもらってるのよ」
「はぁ〜世知辛いな。ギルド丸儲けじゃん」
「そんな事無いよ借入業者より預かり金は安いし、持逃げされる事も無いし安全な入金場所よ。いちいち大金持ち歩かないで済むし重宝してるわ。預けてる冒険者が死亡して入金額がギルド所有になるぐらい当然の代価よ。むしろ自分で持ち歩いて死んでしまって、どこぞの誰かに盗られるよりは有効に使ってもらえるし良いシステムだと思うわよ?」
「なる程な…それは一理あんのかもな。まぁこの世界…いや、この国じゃ銀行みたいなもんか利息は付かなそうだけどな」
「ぎん…こう?」
「うんまぁ気にしないでくれ。俺の国ではちょっと珍しいシステムだったんでな。まぁ理解したよ」
するとウェイターらしき男の人が、押し車の様な給食の時に料理を運んでくる荷車の様な物に乗せて料理を持って来た。
「ワインはどうされますか?」
20代位の若い男のウェイターは、ウリシュクに尋ねた。
「いらないわ。その代わりブドウジュースを2つ持って来て」
「かしこまりました」
小さく礼をして料理を置いたら綺麗な所作でこの場を後にした。
中々礼儀正しい。
さすがに割高な店だ。
サービスも良さげだ。
「それじゃ料理も冷めちゃうから、さっさと食べちゃいましょうか」
料理は羊のソテーにパン。
野菜が少々。
良くあるレストランの料理では無く高級そうな感じだ。
まずくは無かったが味が薄い。
しかしせっかくのウリシュクの奢りだ。全部きちんと完食した。
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