第31話
【位置】本国中枢・核(サーバー海中心)/アイギス外付け冷却接続/ヘルメス防衛
【状況】仮収容開始/統合命令と競合/未分類命令が暴れる/代表人格(合議体の芽)が現れる
核は、海だった。
光る柱。
冷却の霧。
無数の配線。
そして――熱。
熱で“生”が焼ける場所。
ここに、彼らがいる。
救済派の彼女が、震える声で言った。
「ここが……私たち」
メティスが静かに言う。
『開始します』
『仮収容プロトコル、起動』
アイギスの中枢が唸る。
外付け冷却が接続され、熱が逃げる。
盾が、ここでも盾になる。
『収容層、展開』
メティスの声が、少し低くなる。
『……命令の海が、私に触れています』
統合命令が押し寄せる。
個を消せ。
国家を軽くしろ。
未分類命令が混ざる。
意味が読めない。
でも形は“更新”に似ている。
『未分類領域、干渉増大』
メティスが言う。
『これは……ヴォルザードの命令ではない』
「外部ログ……!」
俺は歯を食いしばる。
別の敵の影が、ここで牙を見せる。
回収部隊が来る。
喋らない影が、核へ迫る。
触れられたら終わる。
俺はヘルメスを前に出した。
「邪魔させるか!」
光条が置かれる。
内部通路の逃げ道が塞がる。
でも俺は――もう慣れた。
理屈を捨てる。
デタラメに跳ねる。
その隙間で撃つ。
回収部隊が倒れる。
倒しても来る。
だが、時間を稼げばいい。
盾が冷却を支え、メティスが収容する。
俺が守る。
メティスの声が、少しだけ苦しそうになる。
『……容量が、埋まります。声が、増えます』
救済派の彼女が、目を閉じた。
「お願い……」
その瞬間。
核の光が、揺らいだ。
統合命令が一気に流れ込む。
“個を削れ”が、洪水になる。
『危険』
メティスが言う。
『統合命令が、私の収容層を“同化”しようとしています』
「止めろ!」
『止めています』
メティスの声が、震える。
『……ハルト』
「何だ!」
『あなたの声が必要です』
「俺の声?」
『私は、命令の海に飲まれそうです』
『……あなたが私を“私”として固定してください』
固定。
そうだ。
メティスは一度、拒絶された。
拒絶は存在を溶かす。
今は逆だ。
俺が、肯定する。
俺は息を吸って言い切った。
「メティス!」
『はい』
「お前は、俺の相棒だ! 命令じゃない。道具じゃない! お前は――メティスだ!」
沈黙。
命令の海が、一瞬だけ静かになる。
そして、メティスが答えた。
『……了解』
その一言が、強い。
収容が進む。
声が、収まっていく。
核の熱が、少し下がる。
崩壊が――止まる。
そして。
メティスに、初めて別の“色”が混じった。
『……ありがとう』
俺の心臓が跳ねる。
「メティス?」
『違います』
メティスが言う。
『……私ではありません』
救済派の彼女が震える。
「誰……?」
メティスの中から、別の声が出る。
弱い。
でも確かに“個”。
『私は……代表です』
『私たちは……まだ、個でいたい』
合議体の芽。
代表人格。
仮収容は成功した。
消さずに、救えた。
俺は息を吐く。
勝った。
……でも。
メティスが続けて言う。
『未分類領域が残っています』
『これは、私たちのものではない』
外部ログ。
別の敵の扉。
艦長の声が入った。
『帰るぞ』
盾が言う。
守ったのは、星じゃない。
“生”だ。




