第29話
【位置】本国中枢・内部深層(冷却塔群)/アイギス前進・盾固定/ヘルメス護衛
【状況】強硬派が“統合”発動/個の消去が始まる/未分類命令が混ざり始める
命令の海が、濃くなった。
声が増えたわけじゃない。
命令が太くなった。
一本の号令が、全てを押し流す。
『更新命令が集中しています』
メティスの声が硬い。
『……統合命令』
救済派の彼女が震える。
「来た……」
「統合?」
俺が問い返す前に、空気が変わった。
冷却風が強くなる。
照明が落ちる。
通路の壁が、脈打つみたいに光る。
まるで、惑星が“呼吸”している。
『本国中枢、負荷上昇。処理が切り替わります』
メティスが言う。
『個のノイズを削除し、国家を“軽く”する』
軽くする。
それは――人を消すことだ。
救済派の彼女が叫びそうになって、口を押さえた。
声を出せば回収。
声を出せば統合。
この世界では、叫ぶことすら奪われる。
通路の奥から、黒い装束が現れた。
回収部隊。
喋らない。
命令で動く。
端末が光る。
同期。
回収。
統合。
『彼らは強硬派の手足です』
メティスが言う。
『近づけば、触れられる。触れられたら――』
「終わりだな」
俺は操縦桿を握る。
ここは戦場じゃない。
でも、戦わないと終わる。
艦長の声が入った。
『ハルト。そちらは“回収”を止めろ。こちらは中枢を守る』
「中枢を守る?」
『崩壊が近い。強硬派は統合で負荷を下げ、延命する気だ』
「延命のために人を消すのか」
『そうだ』
艦長の声が、鋼みたいに硬い。
俺はヘルメスを前に出した。
回収部隊の動きは速い。
でも機械みたいに一定だ。
規則がある。
規則があるなら、崩せる。
『ハルト。回収部隊はあなたの回避を読みに来ます』
メティスが言う。
『多次元同時演算射撃――局所展開』
光条が置かれる。
内部通路に。
逃げ道を塞ぐように。
「またかよ!」
『合理的な回避は封殺されます』
「分かってる!」
俺はデタラメに跳ねた。
壁すれすれ。
床すれすれ。
重力があるのに、無理やり。
光条が肩を掠める。
痛い。
でも生きてる。
回収部隊の腕が伸びる。
触れられる――!
俺は撃った。
赤点はない。
ここは歪曲より命令が強い。
でも、目の前の“手”は嘘じゃない。
撃てば止まる。
火花。
破片。
回収部隊が倒れる。
倒れた瞬間、次が来る。
終わりがない。
「くそっ!」
救済派の彼女が、震える声で言った。
「止めても……止めても、統合は進む」
「個が消える……!」
メティスが、低い声で言う。
『統合は、上層から下層へ波のように降ります』
『……止めるには、命令の発信源を断つしかありません』
「発信源はどこだ」
沈黙。
そしてメティスが言う。
『……本国中枢の“核”です』
『サーバー海の中心。集合体の中枢』
そこへ行けば、全てが見える。
全てが――終わる。




