第28話
【位置】侵入口(惑星内部へ)/アイギス内部航路へ進入/ヘルメス随伴
【状況】内部は冷却風・低照度/同期命令の“本流”が聞こえ始める/メティスの解析負荷が上昇
侵入口は、口みたいだった。
巨大な裂け目。
冷たい風が吹き出してくる。
宇宙に風なんてないはずなのに。
そこには“流れ”があった。
冷却の流れ。
『内部に気体循環を確認。人工環境です』
メティスが言う。
『……生体維持ではなく、演算維持のための循環』
演算維持。
つまり――熱を逃がすため。
俺は喉を鳴らす。
「サーバーだ」
『可能性が高いです』
救済派の彼女が小さく言う。
「声が、聞こえるでしょ」
「……声?」
最初は分からなかった。
でも耳を澄ますと、確かにある。
ブツブツとした断片。
言葉ではない、命令の粒。
『同期命令の本流です』
メティスが言う。
『……会話ではありません。更新命令。統合命令。配給命令。徴発命令』
命令しかない世界。
それが、ここ。
艦長が低い声で言う。
『これが帝国の心臓か』
救済派の彼女が震える。
「心臓じゃない」
「……檻」
檻。
俺は息を吸った。
「お前たちは、ここに閉じ込められてるのか」
彼女は頷いた。
「閉じ込めたのは、私たち自身でもある」
「生き残るために、肉体を捨てた」
「捨てた瞬間、戻れなくなった」
メティスが、静かに言う。
『“元・生命のバックアップ集合体”』
『……あなたたちは、AIではない。移された生です』
救済派の彼女は、目を逸らして言う。
「だから、お願い」
「“終わらせて”」
「でも、全部消さないで」
その矛盾が、胸を掴む。
終わらせて。
でも消さないで。
俺は言った。
「消さない」
「……終わらせる」
救済派の彼女が涙をこらえるみたいに唇を噛む。
そのとき。
メティスが、急に止まった。
『……解析が、干渉を受けています』
「干渉?」
『命令の中に、未分類領域が増えています。これは――ヴォルザードの規格ではない』
背中が冷える。
別の敵の影。
そして、同時に――
『ハルト。ここから先、私の“収容層”が反応します』
「収容層……?」
メティスの声が、いつもより低い。
『私の中にある、空の箱です。……彼らの“声”が、そこに触れています』
俺は息を止める。
艦長が短く言った。
『進むぞ』
盾が、さらに深く潜る。
集合する声の海へ。




