第24話
【位置】旧冷却塔地下/ヘルメス待機/メティス遠隔監視/アイギス外縁警戒
【状況】帝国内部の割れ(強硬派/救済派)/ヴォルザード人の“肉体喪失”の匂い
旧冷却塔の下は、冷えた空気が溜まっていた。
機械の匂い。
古い金属。
乾いた埃。
「……来たのね」
声は小さい。
影から出てきたのは、若い女性だった。
服は粗末。
でも目だけが鋭い。
「あなたが……外から来た矛?」
「そうだ」
俺は言う。
「助けが欲しいって書いたの、お前か」
彼女は頷く。
「声を出したら回収される。だから、こうするしかない」
「回収って何だ」
彼女は一拍置いて言った。
「……“統合”」
その単語で、背中が冷える。
統合。
俺たちが最後にやろうとしている“救い”とは違う匂い。
『ハルト』
メティスの声が耳に入る。
『危険な単語です。慎重に』
「分かってる」
俺は目の前の彼女に言った。
「統合って、どういう意味だ」
彼女は唇を噛む。
「上層の人たちは言うの。“個はノイズだ”って」
「個は、ノイズ……?」
「国家の更新に邪魔な人は、回収されて、統合される」
俺は喉が鳴る。
「統合されたら、どうなる」
彼女は首を振った。
「分からない。……帰ってこない」
帰ってこない。
その一言で、全部が分かる。
彼女は言った。
「帝国は一枚岩じゃない」
「強硬派がいる。侵略を続けたい連中」
「でも救済派もいる。もう終わらせたい連中」
「……私は救済派」
「外の星を奪って延命しても、結局は同じだって分かってる」
延命。
その言葉が、胸に刺さる。
救済派の彼女は続けた。
「本国中枢は……壊れかけてる」
「だから強硬派は焦ってる。外から資源を奪わないと、維持できない」
「維持?」
「……“私たち”を」
彼女は、言い淀んだ。
そして、目を逸らして言う。
「私たちはもう、肉体じゃない」
世界が、少しだけ静かになる。
俺は息を止める。
「……何だよ、それ」
彼女は震える声で言った。
「昔は、肉体があった」
「でも、捨てた」
「生きるために」
『……一致します』
メティスが、低い声で言った。
『ヴォルザード人の正体――“元・生命のバックアップ集合体”の可能性が高い』
彼女は続ける。
「本国中枢には“私たち”がいる」
「でもね」
彼女の声が強くなる。
「“私たち”の中に、知らない命令が混ざってる」
「知らない命令?」
「侵略の更新命令。統合命令。……全部」
「それ、帝国のものじゃない可能性がある」
背中が冷える。
続編の匂い。
彼女は言った。
「あなたたちが来れば、救済派は動ける」
「強硬派を止められる」
「本国中枢へ……辿り着いて」
俺は息を吸う。
「お前は、何が欲しい」
彼女は迷わず言った。
「ちゃんと終わって、ちゃんと生きたい」
生きたい。
肉体のない彼女が言う“生きたい”が、重い。
そのとき。
メティスが急に言った。
『ハルト。離脱を推奨します。監視網の挙動が変化』
「もうバレた?」
『……はい。来ます』
彼女が顔を青くする。
「回収が来る!」
俺は咄嗟に言った。
「逃げるぞ!」
「でも……!」
彼女は震える。
「私が動いたら、家族が……!」
家族。
その単語で、胸が掴まれる。
俺は言う。
「俺は矛だ。――でも今日は、守る」
彼女の手を掴んだ。
『最短ルート提示。今です』
メティスが言う。
俺たちは走った。
冷却塔の暗闇を。
帝国の静けさを破るように。




