第21話
【位置】制御センター指令室/宇宙港・アイギス前
【状況】期限付き出航許可/代理艦隊は暫定稼働/世論は割れたまま
空が青い日ほど、決断は重い。
所長は指令室で言った。
「条件を満たしました。完全ではありませんが……現時点で最良の結果です」
俺の喉が鳴る。
「……許可、出るんですか」
所長は頷いた。
「期限付きで」
期限。
救いであり、鎖。
「帰投期限、明記」
「指揮権は艦長に一任」
「ログ監視は強化」
「メティスの権限は制限下で維持」
いつも通りの冷たさ。
でも、その冷たさが“許可”の形だった。
『ハルト』
メティスが呼ぶ。
「何」
『……あなたは、嬉しいですか』
「分かんない」
正直な答え。
嬉しいより先に、怖い。
行けば変わる。
戻れないものが出る。
宇宙港。
アイギスの前は、静かだった。
拍手も歓声もない。
その代わり――視線がある。
期待。
不安。
憎しみ。
祈り。
全部混ざった視線。
艦長が立っていた。
「ハルト」
「艦長」
艦長は短く言う。
「行く」
それだけ。
盾が、動く。
俺は息を吸う。
「……守り、空きますよね」
艦長は頷いた。
「空く」
「怖くないんですか」
艦長は少しだけ間を置いた。
「怖い」
その一言が、やけに人間だった。
「だが、止めに行くのも盾の仕事だ。矛だけに背負わせない」
俺は言葉を失う。
この人はずっと、背負ってる。
削られても、折れないだけじゃない。
背負って、立ってる。
出航許可の読み上げが始まる。
公式文書。
冷たい文字。
でも最後に、所長が自分の声で付け足した。
「ハルト。メティス。艦長……帰ってきてください」
短い。
その短さに、全部入ってる。
俺は頷く。
「帰ります」
『帰ります』
メティスと重なった。
それが、妙に嬉しかった。
出航準備。
ヘルメスのコクピットに乗り込むと、手が少し震えた。
戦場の震えじゃない。
“決めた”震えだ。
『航路設定、完了』
メティスが言う。
『……あなたの空は、青いままです』
「何それ」
『あなたが守ったからです』
それは、告白みたいに聞こえた。
俺は笑う。
「行こう」




