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勇者が魔王を倒す旅にでたので、スライムは困っています  作者: 叶詩


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5話 勇者と武器屋と、買っただけで強くなった気がする日

村には、武器屋がある。

武器を買うと、強くなった気がする。

強くなった気がすると、前に進んだ気がする。

気がするだけで、実際に変わったかは分からない。

それでも、人は装備を整える。


二人は、武器屋へ向かうことにした。

理由は特にないが、そういう流れらしい。

ギルドを出て少し歩くと、

通りの一角に、やたら立派な店が見えてきた。


他の建物よりもガラスが多くて、

中には剣や盾がずらりと並んでいる。

いかにも「重要イベントです」と言わんばかりの外観だ。


「……また“それっぽい建物”が出てきたね」


スライムが言った。


「そうだな。ここが武器屋だ」


勇者は当然のように言う。


「分かるよ、見たら」


「ここで装備を整えるんだ」


「整えるって、何を?」


「もちろん、強くなる準備」


「昨日まで何も困ってなかったよね?」


「これから困るかもしれないだろ。ほら、強い敵が現れるかもしれないし」


「“かもしれない”で買い物するの、

世界の進め方として雑じゃない?」


扉を開けると、

中は思っていた以上に明るかった。


壁一面に武器が掛けられていて、

どれもピカピカに磨かれている。


カウンターの奥から、武器屋のおやじが顔を出した。


「おお!いらっしゃい!」


「剣ください!」


勇者が即答した。


「おお、いいねえ!冒険者だねえ!」


「まだ登録しただけですけどね」


「登録したなら立派な冒険者だ!」


「その判定、軽くない?」


おやじは、壁から一本の剣を取って見せた。


「この剣は切れ味が違うぞ!」


「どう違うの?」


「振ったときの感じがいい!」


「感じの話じゃん!!」


「この盾は守りが固い!」


「どのくらい?」


「なんとなく安心!」


「全部気持ちじゃん!!」


スライムは、並んでいる武器を見回した。


どれも形は違うが、

説明はだいたい同じだ。


「これ、効果って分かるの?」


「持ってみれば分かる」


「分からなかったら?」


「そのうち分かる」


「“そのうち”多すぎない!?」


勇者は、気に入った剣を手に取った。


ずしりと重くて、

いかにも“強そう”な見た目だ。


「おお……」


勇者がゆっくり振る。


風を切る音がして、

周囲の村人が「おおー」と声を上げた。


「……ねえ」


スライムが横から言う。


「今、何と戦ったの?」


「えっ、空気だよ。空気」


「敵いないのに、

戦闘演出だけ発生してない?」


勇者はポーズを決めたまま言った。


「まあこれで、俺も一人前だな」


「昨日までと何が違うの?」


「もちろん、剣だよ。剣」


「中身は?」


「まあ……そのうち。だな」


スライムは、値札を見た。


思ったより高い。


「……高くない?」


「そりゃもちろん。いい武器は高いもんだろ」


「今のところ、

その“いい武器”使う場面ゼロだよ?」


「これからあるかもしれないだろ。ほら、強敵が現れるかも……な」


「“かもしれない”前提で、

財布削る世界、怖くない?」


勇者は少しだけ迷った。


剣を見て、値段を見て、

また剣を見た。


その間、店の中は妙に静かだった。


誰も急かさない。

誰も止めない。

ただ、買うかどうかを待っている。


(……この時間、

世界が一番静かになるな)


スライムは、勇者の横顔を見ながら思った。


騒がしい世界なのに、

お金を出す瞬間だけ、

急に真剣になる。


「……買うよ。これ」


勇者が言った。


「おお!毎度あり!」


おやじはすぐに剣を包み始めた。


「……ねえ」


スライムが小さく言う。


「今、強くなった?」


勇者は、剣を受け取りながら言った。


「ああ。なった気がする!」


「気がするだけ?」


「そうだ。装備も変わったし」


「装備変わったら強くなるの?」


「まあ、そういうものだろ」


「世界、

“強くなる理由”を

物の形にして売ってない?」


勇者は少し考えたが、

すぐに剣を構え直した。


「ほらほら、かっこいいだろ」


「かっこいいけど、

状況何も変わってないよ?」


そのとき、防具屋のおかみさんが顔を出した。


「おや、剣買ったのかい?」


「ああ!」


「じゃあ、鎧もどうだい?」


「え?」


「セットの方が安心だよ」


「安心って何!?」


「なんとなく」


「また気持ち!!」


鎧を見せられる。


重そうで、硬そうで、

いかにも“守ってくれそう”な見た目だ。


「……ねえ勇者」


「なんだよ?」


「これ、どこまで買えば終わるの?」


「うーーん。揃うまで……かな」


「何が?」


「そりゃ、もちろん安心だよ。安心」


スライムは、しばらく黙った。


(……この世界、

強くなることと、

安心すること、

同じ意味になってる)


敵がいなくても、

危機がなくても、

とりあえず装備を整える。


そうすれば、

進んだ気になれる。


「……ねえ」


「ん?」


「これ、買い続けたら、

どこまで行くと思う?」


勇者は少し考えた。


「……最強じゃないか?」


「その“最強”、

誰と戦うの?」


勇者は、答えなかった。



二人は、武器を購入した。

装備は変更された。

所持金は減少した。

数値的な変化は、特に確認されていない。

世界の危険度は、依然として低い。

状況に目立った変化は見られなかった。



店を出ると、外は相変わらず平和だった。


人は歩いていて、

犬は道端で寝ていて、

何かが起きそうな気配はない。


「……ねえ」


スライムが言う。


「今、世界ちょっと進んだ?」


「もちろん。そんな気がするぞ」


「どこが?」


「装備だよ。装備」


「中身は?」


「……そのうちだよ。そのうち」


スライムは、新しい剣を見た。


光っていて、立派で、

いかにも物語っぽい。


でも、

昨日までと同じ道、

同じ村、

同じ空気だ。


(……この世界、

“変わった気”だけ量産するの、

上手すぎない?)


勇者は剣を肩に担いで、満足そうだった。


「よし、これで準備万端だ」


「何の準備?」


「もちろん冒険の」


「冒険、昨日から何も始まってないよ?」


「いやいや、始まった気はするだろ」


「それが一番怖いやつだよ!!」


二人の間に、また沈黙が落ちた。


風が吹いて、

新しい剣の鞘が少し揺れた。



勇者は、新しい剣を持っている。

スライムは、隣にいる。

敵との遭遇は、確認されていない。

世界は、平和なままである。

装備は変わったが、状況は変わっていない。


つまり、買い物をしただけで、

特に何も起きていない。

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