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勇者が魔王を倒す旅にでたので、スライムは困っています  作者: 叶詩


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4話 勇者とギルドと、受付だけが仕事をしている日

村には、ギルドがある。

冒険者は、そこに登録する。

登録すると、仕事があるように見える。

仕事があると、世界が進んでいるように見える。

見えるだけで、実際に進むとは限らない。


二人は、ギルドへ向かうことにした。

理由は特にないが、そういう流れらしい。

宿屋を出ると、朝の空気はまだ少し冷たかった。


酒場のにぎわいは消えていて、通りには昨日より人が少ない。

掃除をしている人、店の準備をしている人、

どれも“始まりの時間”っぽい動きばかりだ。


「……昨日あんなに騒いでたのに、

朝になると一気に静かだね」


スライムが言った。


「夜は夜、朝は朝だろ」


勇者は、何の疑問もなく答える。


「切り替え早すぎない?

人の気分、スイッチ式なの?」


「そりゃ、朝は働く時間だからな」


「昨日の人たちも?」


「……たぶん」


スライムは、通りの奥に見える大きな建物を見た。

看板には、はっきりと「ギルド」と書いてある。


他の建物よりも少し大きくて、

人の出入りもそれなりに多い。


(……また“それっぽい建物”出てきたな)


スライムは、ここに来る前から、

なんとなく嫌な予感がしていた。


「で、ここ何する場所なの?」


「もちろん、冒険者の拠点だよ!」


「拠点って何するの?」


「登録したり、仕事もらったり、いろいろだよ。いろいろ」


「昨日まで何もしてなかったのに、

急に“拠点”とか出てくるのおかしくない?」


「いや……あれだよ。旅はだんだんそういう場所に辿り着くものだから」


「また流れ!!」


扉を開けると、中は思っていたより静かだった。


人はいるが、酒場ほど騒がしくはない。

掲示板の前で紙を見ている人、

カウンターで何かを書いている人、

全体的に“ちゃんとしている”空気だけが漂っている。


カウンターの奥には、受付嬢が立っていた。


「いらっしゃいませ。ご用件をどうぞ」


「冒険者登録をお願いします!」


勇者が元気よく言う。


「かしこまりました。こちらにご記入ください」


紙を渡される。


名前、職業、目的。

いかにもそれっぽい項目が並んでいる。


「……ねえ」


スライムが小声で言った。


「目的って何書くの?」


「うーーん。そうだな、魔王討伐、と」


「それ今のところ、何もしてないよね?」


「でも目的だからな。俺たちの」


「目的って、予定の話だよね?」


「予定は大事だろ。予定は」


「世界、予定表で動いてない?」


受付嬢は、特に反応もせず、

紙に目を落としたままスタンプを押した。


「登録完了です。こちらがクエスト一覧になります」


掲示板を指差す。


そこには紙が何枚も貼られていた。


・草むしり

・荷物運び

・猫探し

・井戸掃除

・配達

・魔王討伐


「……ちょっと待って」


スライムが掲示板を見上げる。


「魔王、一番下なんだけど」


「そりゃ、一番大変そうだからじゃないか」


「いや、そういう問題じゃなくてさ」


「上から順にやる感じ?」


「……たぶんな」


「草むしりの後に魔王!?

世界の危機、だいぶ後回しじゃない!?」


勇者は紙を眺めながら言った。


「んーー、まずは簡単なクエストから経験積まないとな」


「草むしりで経験積んで、

最終的に魔王行くの?」


「そうそう。そういう成長ルートだ」


「その成長、どこに反映されるの?」


「……そのうち。だな」


スライムは、掲示板の前でしばらく黙った。


紙はたくさんあるのに、

どれも“今すぐ困ってる”感じがしない。


(……世界、

やることリスト作っただけで

安心してない?)


困ってないのに、仕事がある。

仕事があるから、進んでる気がする。


でも中身は、昨日とほぼ同じだ。


そこへ、ギルドマスターらしき人物が現れた。


「おお、新人かね!」


「はい!」


「最近は平和でねえ。仕事も地味なのばかりだ」


「じゃあ魔王は?」


勇者が聞く。


「うーん、存在はしてるね」


「存在はしてるって何」


スライムがすぐ口を挟む。


「存在してるだけで案件になる世界なの?」


「まあ、いつかは何か起きるだろう」


「“いつか”多すぎない!?」


ギルドマスターは笑って、

そのまま奥へ戻っていった。


受付嬢は、また淡々とスタンプを押し続けている。


並んでいる人たちも、

特に会話をするでもなく、静かに順番を待っている。


沈黙が流れた。


紙を渡す。

スタンプを押す。

紙を受け取る。


それだけの作業が、延々と繰り返されている。


(……この世界、

“待ってる時間”だけは異常に多い)


スライムは、列の中で立ったまま、

何も起きない時間を眺めていた。


誰も急いでいない。

誰も不安そうじゃない。

ただ、順番を待っている。


「……ねえ勇者」


「ん?」


「これ、登録したら何が変わるの?」


勇者は少し考えた。


「肩書きがつく……かな」


「それだけ?」


「それだけだ」


「昨日と何が違うの?」


「紙が増えた」


「紙で世界変わると思ってる?」


「変わる気がする」


「“気がする”で世界回すのやめようよ!!」



二人は、ギルドに登録した。

書類は受理され、スタンプも押された。

クエスト一覧が配布された。

制度上、二人は冒険者になった。

しかし登録による具体的な変化は、確認されていない。

世界の進行度に、目立った影響は見られなかった。



ギルドを出ると、外は相変わらず普通だった。


人は歩いていて、店は開いていて、

空気は昨日とほぼ同じだ。


「……ねえ」


スライムが小さく言う。


「今、世界ちょっと進んだ?」


「進んだと思うぞ」


「どこが?」


「肩書きかな」


「肩書き以外は?」


「……そのうちにな」


スライムは、しばらく空を見上げた。


雲は動いているが、

それ以外に、何かが変わった感じはしない。


(……この世界、

仕組み増やすのだけ上手すぎない?)


登録、クエスト、ギルド。

それっぽいものは増えた。

でも中身は、昨日とほぼ同じ。


「……ねえ勇者」


「なに?」


「これさ、

やること増えたように見えてるだけじゃない?」


「見えてるならいいじゃん」


「よくないよ!!」


スライムは、思わず声を上げた。


「見えてるだけで満足してたら、

ずっとそのままじゃん!!」


勇者は少しだけ考えてから言った。


「でも、何かしてる気はするだろ」


「それ一番怖いやつだよ!!」


二人の間に、また短い沈黙が落ちた。


通りの音だけが聞こえる。

誰もこちらを気にしていない。


スライムは、ギルドの看板を振り返った。


(……世界、

“進んでるフリ”の完成度、

高すぎない?)



二人は、冒険者になった。

登録は正式に完了している。

ギルドは、通常通り営業している。

クエストは掲示されたままである。

世界は、制度が一つ増えただけで、

実際の状況はほぼ変わっていない。


つまり、仕組みが増えただけで、

特に何も起きていない。

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