39話 勇者と依頼と、妙な内容の日
島には市場がある。
人が集まり、
物が動き、
お金が動く。
そして市場の近くには、
だいたいギルドがある。
ギルドは仕事を集める場所である。
仕事があれば、
冒険者が来る。
冒険者が来れば、
島はにぎやかになる。
この島にもギルドはあった。
理由は特にないが、そういう流れらしい。
勇者たちは市場の奥へ進んでいた。
石造りの建物が見える。
入口の上には看板があった。
そこは冒険者たちが足を運ぶギルドだった。
正面の頑丈そうな入口の付近には、冒険者らしき佇まいのグループが複数いた。
その中の二人が小声で話していた。
「この島の依頼って楽でいいよな」
「だな。危ない依頼がほとんどない」
「まあ、全部領主の仕事だしな」
「そうそう。護衛とか巡回とか運搬とか」
「まあ、金も悪くないよな」
二人は肩をすくめて笑った。
「だから冒険者が減らないんだよ」
「そうそう! この島のギルドは当たりだな」
スライムは小さく言った。
「なんか……それ、いいことじゃない気がする」
「おい、見ろよ」
「ああ、あれが例のやつらだろ」
勇者一行に気づいた数名はこちらを見ながら噂話を始めた。
「感じわるいな」
不満そうなスライムはそいつらを睨みながら言った。
「俺たち、ここでも有名なんだな!」
「そうだね~。さすがだね~」
お色気お姉さんは知らない街で、自分たちのことを話されてうれしそうだった。
「あんな奴らほっといて、さっさと入ろう」
「ああ、任せろ!」
「任せてないから!」
スライムのツッコミで、周りの噂は一瞬止まった。
中に入るとすぐ、大きな掲示板が目に入った。
そこには多くの依頼の紙と、それを見上げる冒険者たちが集まっていた。
正面には受付らしきテーブルとそこで忙しそうに仕事をこなすギルドの受付嬢たちがいた。
市場の様子とは裏腹に、ここには多くの依頼と冒険者がいた。
スライムはそれに驚いていた。
「外はあんな状態なのに、こんなに依頼があるんだね」
お色気お姉さんが嬉しそうに言う。
「そうだね~。私たちでもできそうな依頼はあるかな~」
錬金術師は掲示板の依頼を右から左へ視線を送っている。
「まあ、あるわ。私好みの依頼とか……」
そして小さく言った。
「お金の匂いがするものとか」
勇者一行は一通り依頼を眺めてから、受付があるカウンターへと足を運んだ。
ギルドの受付嬢は笑顔で頭を下げる。
「いらっしゃいませ。ようこそ、当ギルドへ」
「冒険者の方ですね。依頼はお決まりでしょうか」
勇者は胸を張る。
「任せろ!」
「まだ何も頼まれてないし、頼んでないからね」
受付は微笑んだまま続けた。
「勇者様が来られたと聞いております」
「領主様もきっとお喜びになります」
スライムは小さく言う。
「ねえ、なんで領主が出てくるの」
「領主様にも知れているなんてすごいね~」
お色気お姉さんはびっくりしていた。
「こちらの依頼などいかがですか。勇者様に持ってこいの依頼になりますよ」
ギルドの受付嬢は掲示板へと案内し一つの依頼を手に取って見せた。
「領主様屋敷警備……なにそれ」
「お気に召しませんか? それでしたら、こちらの依頼などいかがでしょうか」
ギルドの受付嬢は別の紙を手に取って見せた。
「領主様巡回護衛……また領主様……」
さらにもう一枚。
「領主様食材搬送! これも……」
その隣の紙も渡される。
「領主様の不安解消……なんでだよ!」
スライムは激しく突っ込んだ。
「あれも領主、これも、これも。全部領主絡みじゃないか!」
お色気お姉さんは首を傾げる。
「あ~、ほんとだね~。領主様でいっぱいだね~」
勇者はうなずく。
「いい領主なんだな!」
「違うでしょ!」
ギルドの依頼は、
依頼主のためにある。
困った人が頼み、
冒険者が動く。
それが普通の形である。
しかし依頼主が一人なら、
掲示板も一人のためになる。
制度は正しい。
ただ少し、
偏っているだけである。
スライムはギルドの受付嬢に聞いた。
「ねえ」
「はい、なんでしょうか?」
「島の人の依頼はないの?」
ギルドの受付嬢は少し考える。
「基本ありませんよ」
「すべて領主様が守ってくださっていますから、島の人たちからの依頼はございません」
スライムの苛立ちはどんどん溜まっていく。
スライムはギルドの受付嬢を見た。
「ねえ」
「なんでしょう?」
「このギルドのマスターは?」
ギルドの受付嬢は一瞬だけ間を置いた。
そして笑顔で答えた。
「現在は不在です」
「領主様のお屋敷に呼ばれておりますので」
スライムは固まる。
「……え?」
ギルドの受付嬢は何事もないように続けた。
「領主様はこの島の支援者ですから」
「このギルドとも深い関係があるんです」
スライムは小さく言った。
「それ、ギルドじゃなくて領主の出張所じゃない?」
ギルドの受付嬢はその言葉に少し困っていたが、すぐ笑顔で答える。
「島は領主様のお陰で平和なんです。領主様はこの島のギルドに来る冒険者たちの仕事がなくならないように常に依頼を出してくださいます。とても寛大な方なのです」
そのときだった。
ギルドの扉が開き少女が入ってきた。
入ってくるなりカウンターの受付まで一目散に寄ってきた。
「ねえ、私の……私の出した依頼はどこ……?」
さっきまで笑顔で答えていたギルドの受付嬢は少し困りながらうつむいて、少女を見つめた。
「申し訳ございません。その依頼は受理されていませんでした」
「どうして、ねえ……なんで私の依頼は受けてもらえないの?」
ギルドの受付嬢は少女から視線を外し静かに答える。
「申し訳ございません。領主様に関する依頼ですが……」
「領主様の許可が必要なんです」
スライムは言う。
「完全に詰んでるじゃん!」
勇者はうなずく。
「なるほどな!」
「理解してないから!」
錬金術師は掲示板を見ていた。
紙を一枚めくる。
「なるほど」
スライムは勇者を見るのと同じ目で錬金術師を見た。
「何が?」
錬金術師は笑い出した。
「この島なんだけどね」
少し間を置く。
「お金の流れが一方向ね」
その言葉を聞いた勇者は少しだけ考え、一枚の紙を指差した。
「この依頼を受けるぞ!」
スライムが見る。
紙にはこう書かれていた。
領主様の不安を取り除く仕事
その依頼を見たスライムは呆れていた。
「ねえ、それ完全に領主の味方の依頼だよ!」
勇者は胸を張った。
「任せろ!」
依頼は掲示板に貼られる。
冒険者はそれを読む。
そして選ぶ。
依頼の内容が正しいとは限らない。
だが選ばれれば、それは仕事になる。
勇者は依頼を受けた。
理解ではない。
流れである。




