表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者が魔王を倒す旅にでたので、スライムは困っています  作者: 叶詩


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/41

38話 勇者と市場と、なぜか高い日

島には市場がある。


市場は生活の場所である。


食べ物があり、道具があり、

人が集まり、物が動く。


物が動けば、お金も動く。


そしてお金が動く場所には、

必ず理由がある。


この島にも理由はある。


理由は特にないが、そういう流れらしい。

勇者たちは市場へ来ていた。


石畳の広場に、屋台が並んでいる。


野菜。

干し魚。

パン。


人の声が行き交い、荷車がゆっくりと通り過ぎる。


普通の市場だった。


普通に見えた。


お色気お姉さんが言う。


「わあ~、にぎやかだね~」


勇者は大きくうなずいた。


「ここは、いいところだな!」


スライムは周囲を見回した。


「……」


錬金術師はすでに屋台を見ていた。

値札を見ている。


そして、少しだけ眉を動かした。


「ねえ」


「何」


スライムが聞く。

錬金術師はパン屋を指差した。


「このパンだけど……」


勇者が言う。


「パンだな!」


「見たらわかるから」


パンは小さかった。

手のひらほどの大きさだった。


値札が付いている。


銀貨二枚。


スライムは言う。


「このパン、いつもより小さくない? それに値段高くない?」


「そうだね~。ちょっと小さいね~」


「値段は高いわね。他のところよりかなり……」


錬金術師は不満そうな顔で陳列された商品を見ていた。


パン屋の店主が笑う。


「税金が高いですからね。仕方がないんですよ」


島民がうなずく。


「そうそう、仕方ありません」


「これが、当たり前なんです」


「領主様が守ってくださっていますから」


勇者はうなずく。


「なるほどな!」


スライムは言う。


「なるほどじゃないよ!」


「でもおいしそうだね~」


お色気お姉さんは鼻をクンクンさせていた。

錬金術師は顎に指をあてながらパンを見ていた。


「高ければ良いってわけではないわ」


「まあ、これが当たり前なんですよ」


パン屋の店主は相変わらずニコニコしていた。


そのとき、小さな子供がパン屋の前に来た。

背伸びしてパンを見ている。


「おじさん、パンください」


「いらっしゃい」


店主は値札を指さした。


「これなら、銀貨二枚だよ」


子供は少し黙る。


そしてポケットを探る。

出てきたのは銅貨が数枚だった。


子供はそれを見て、首を振った。


「……また今度でいいや」


子供はそのまま走っていった。


お色気お姉さんが言う。


「あれ~、買わないのかな~」


店主は苦笑いした。


「仕方ないですよ」


「この島には、税がありますからね」


スライムは小さく言った。


「仕方なくないと思う」


勇者一行はしばらく市場の中をぶらぶら歩いていた。

市場の中ほどに魚屋があった。


しかし店先の台の上には今朝採れたであろう魚は見えるが、陳列している魚は少なかった。


「魚だな!」


「なんか、魚の数が少なくない?」


スライムは不思議そうに並べられた魚を眺めていた。

お色気お姉さんはニコニコしながらあたりを見回している。


「ホントだね~。きっと、みんな売れちゃったんだよ~」


「繁盛してるわね。いいわね」


錬金術師は不敵な笑みを浮かべている。


店主が言う。


「違いますよ。全部売れてしまったなら良かったんですが……まあ、仕方ないです」


苦笑いしながら店主は続ける。


「魚のほとんどは領主様の倉庫へ納めますからね。これも島を守る為ですから、仕方ないんです」


その言葉を聞いた周りの人々が口をそろえて言う。


「領主様には、いつも守っていただいてますからね~」


「そうそう。仕方ないんですよ」


「これも必要経費と考えれば安いもんだよ。あははは!」


スライムは驚いていた。


「いやそれ完全に徴収じゃん!」


そのときだった。


市場の入口の方が少し騒がしくなる。

一人の男が歩いてきた。


帳簿を持っている。

腰には袋が下がっていた。


魚屋の店主がその男を見る。


「ああ、今月分ですね」


店主は台の下から袋を取り出した。

男は帳簿をめくる。


「はい、確認しました」


袋を受け取り、うなずく。


周りの店主たちも同じように袋を渡していた。


スライムは言う。


「今の何?」


島民が普通に答える。


「税の確認ですよ」


「領主様に納める分です」


「なるほどな!」


「理解してないでしょ!」


鋭くスライムは突っ込む。


「まあまあ、みんな困ってなさそうだからいいんじゃないかな~」


お色気お姉さんは人々の顔を見渡しながら言った。

スライムは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


市場の奥へどんどん進む。


しかし途中に、奇妙な屋台があった。


屋台はある。

看板もある。


だが商品がない。


棚は空だった。

スライムが言う。


「ここ、何も売ってないけど」


島民が答える。


「今日は出せないんです」


「全部、領主様の納品に回ったので」


「この店、毎日出ている商品がほとんどないんだよな~」


お色気お姉さんが言う。


「市場なのに売るものがないんだね~」


「市場の意味!」


すると柵とその前に、看板が立っている。


「領主様納品専用」


中には食料が積まれている。


煌びやかな装飾の施された豪華な箱。


この島の特産物であろう野菜や果物がぱんぱんに詰め込まれた袋。


アルコールの香りが漂う樽。


とにかく大量だった。


スライムは驚いて口が開いたままだった。


「ちょっと待って。ねえこれって何?」


島民が答える。


「領主様の納品の数々です」


「市場には出回りません」


勇者はうなずく。


「なるほどな!」


「全然なるほどじゃない!」


スライムはすぐさま突っ込みを入れる。

そこへお色気お姉さんが言葉を被せていく。


「すごい量だね~。しかもアルコールのいい香りまでするね~」


錬金術師はその倉庫を見ていた。


長く。

静かに。



税は重い。


しかし理由があれば、人は納得する。


守られている。


そう信じていれば、

重さは重さではなくなる。


納得は、生活よりも強い。



錬金術師はゆっくり市場を歩きながら見ていた。


値札。

品物。

人の顔。


そして倉庫。


スライムが言う。


「この島なんだけどさ」


「うん?」


「領主に完全に搾取されている」


島民が首を振る。


「違いますよ」


「領主様は守ってくださっています」


「そんなこと言うと怒られますよ」


勇者はうなずく。


「いい領主だな!」


スライムは顔を押さえる。


「違うと思う!」


錬金術師は言う。


「……」


そして小さく笑った。


「なるほどね」


スライムが聞く。


「何が?」


錬金術師は軽く鼻を鳴らした。


「この島……とても良い匂いがするわ」


少し間を置く。


「アレの匂いが」



市場は正直である。


物の値段は、

その場所の事情を語る。


この島の事情も、

値札に書いてあった。


しかし、それを読む者は少ない。


ただ一人。


値段を見て、笑った者がいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ