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勇者が魔王を倒す旅にでたので、スライムは困っています  作者: 叶詩


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33話 勇者と緊急と、何が緊急かわからない日

ギルドの掲示板には、今日も紙が増える。


紙が増えるほど、説明は減る。


説明が減るほど、人は勝手に補う。


補われた言葉は、だいたい「緊急」になる。


緊急は便利で、便利なものほど疑われにくい。


理由は特にないが、そういう流れらしい。

ギルドの前は、朝なのに人が多かった。


多いというより、立ち止まっている人が多い。

立ち止まって、同じ方向を見ている。


見る先は、入口横の掲示板だった。


紙が一枚、目立つ場所に貼られている。

紙自体は他と同じ、薄い。


薄いのに、周りの空気だけが厚い。


赤い印が押されているせいだ。

赤い印は、読まなくても意味があるように見える。


スライムは、目の前の紙を見上げた。


字は短い。

短いというより、短くされている。


『緊急。至急。人手。詳細は後で。とにかく来て。』


スライムが言った。


「……緊急だって」


勇者は紙を指で叩いた。


「すごいな!」


お色気お姉さんが笑う。


「赤い印みたいなのがついてるね~。なんか強そうだね~」


スライムが言う。


「強くないよ。紙だよ」


勇者は頷いた。


「なるほどな!」


「なるほどなじゃないから」


お色気お姉さんがその光景を見ながら微笑んでいる。


「いつも通りのやりとりだね~」


勇者は胸を張る。


「ああ、いつも通りだ!」


「はぁ~。いつも通りって」


スライムは毎度のやり取りに疲れている。


そのときだった。


ギルドの扉が開き、職員が顔を出した。


「ちょうど良かった。お願いしたい依頼がありますので、こちらへ来てもらえませんか」


また勇者が胸を張る。


「ああ、任せろ!」


スライムが言う。


「内容も聞かずに任せろなんて言わないで!」


「とりあえず、話を聞いてみようよ~」


職員は笑う。


「内容は畑のスライム退治なんですが……」


職員はスライムを見ながら固まった。

スライムも固まった。


「……ねえ。その依頼のスライム退治って、僕のことじゃないよね?」


「そうですね……。こちらのスライムでは……ない……と思いますよ」


ギルド職員は依頼書を上から下へと眺めている。

受け答えは、歯切れが悪い。

間髪入れずにスライムは反応する。


「その間! ねえ違うよね! ねえってば」


スライムは内容を聞いて慌てる。

慌てるが話は進んで行く。


村の畑は、朝露で光っていた。


畑の端に、小さなスライムがいた。


勇者が剣を抜く。


「こっちは、任せろ!」


スライムが言う。


「待って、僕が話してみるよ」


スライムは畑のスライムに近づいた。


「ねえ君たち、僕たちと戦うのかい」


畑のスライムたちは頷くしぐさをしてこちらを見ている。


「このまま戦闘しても、君たちは僕らに倒される。だからここで取引をしないか?」


スライムは畑のスライムに提案した。

勇者の剣なら、一太刀だ。


「この畑を荒らすのを止めて、森へ帰ってくれれば僕らは君たちを見逃すけど……どうかな」


今にも戦おうと構えている二人もその言葉を聞いて、構えを少しだけ緩めた。


「見逃すのか?」


「やさしいね~」


畑のスライムはゆっくり頷いた。


そして、森の方へ帰っていった。


村人たちが驚く。


「こりゃ、すごいな……」


「びっくりだ」


「これで、畑は守られた」


勇者が言う。


「なるほどな!」


村人たちが言う。


「勇者が魔物を従えたぞ!」


「とんでもないやつらだ!」


「さすが、勇者だ!」


呆れたスライムは言っても意味がないと言わんばかりの顔をしながら村人たちに言う。


「いや、違うから」


否定するスライムを横目に勇者が言う。


「もちろん、大丈夫だ!」


村人たちは勇者の言葉を真に受けて頷く。

勇者たちの評価が、一段階上がる。


町へもどってくると次の依頼を待ってましたと言わんばかりに、ギルドの職員は勇者たちを待ち構えていた。


当然次の依頼も快く受ける勇者一行。

行き先は、町外れの誰も住んでいない家の傍にある井戸だった。


依頼内容は井戸から夜な夜な女性の泣き声がするので、調べることだった。


勇者が覗き込む。


「なるほどな!」


「ねえ~、誰かいるの~」


お色気お姉さんは相変わらず明るく声をかける。

勇者と一緒に覗き込んだスライムは後ろから近づいてきたお色気お姉さんがぶつかり井戸の底へ落ちてしまう。


「えーー」


なんでと言わんばかりの表情と口から出てくる言葉が井戸の奥へと落ちて行き、入水とともに水しぶきが井戸の外まで飛び出した。


「大丈夫~」


お色気お姉さんはずぶ濡れになりながら落ちたスライムを心配していた。

勇者は水しぶきと共に何かが飛び出してきたので受け止めたと同時に背中から倒れこんでいた。


「なんだこれ?」


勇者はずぶ濡れの魔物らしき物を腕の中で抱きしめていた。

魔物らしき物は女性の悲鳴のような叫び声とともに町の外へと逃げるように走り去った。


「これが、原因か~」


お色気お姉さんは頷きながら、逃げて行った魔物らしき物を目で追っていた。

勇者が頷く。


「そうなのか! これが原因だったのか」


村人たちが言う。


「勇者が魔物を追い払ったぞ!」


「勇者が魔物を羽交い締めにして、我慢できなくて逃げたんだ」


「強すぎだろ!」


スライムが言う。


「追い払ってない。羽交い締めにしてない。別に強くない!」


井戸から自力で出てきたスライムは、

誰も自分を心配していないことに気づいた。


少し、イライラした。

そんなスライムには見向きもせずに勇者は村人たちに向かって自信満々に言う。


「俺たち、すごいな!」


「すごいね~」


特になにもしてないが、勇者たちは評価がもう一段階、上がった。

そんな村人たちを見てスライムは何か言いたげな顔をしたが、言うのを諦めた。


町へ戻ってくるとギルドの職員は歓声を上げながら、勇者一行を出迎えた。

しかし、勇者一行は労いの言葉をかけられる前にまたしても次なる依頼へと向かうのだった。


次の依頼は迷子の犬を探すことだった。

2つの依頼をこなした直後だったので、スライムは疲れた表情をしていたが勇者は相変わらず、元気。

お色気お姉さんもニコニコしながら二人の傍を歩いていた。


「どこにいるのかな~」


「犬は肉が好きだからこれで、出て来るんじゃないか」


勇者は道具袋から非常食にとっておいた干し肉を出した。


「そんなので、犬は出てこないよ」


スライムは疲れた表情をにじませていた。

勇者は出した干し肉を一口、二口かじりもごもごしながら犬を探す。

お色気お姉さんは食べたそうな顔をしながら辺りを見回していた。

しかし犬は見つからない。


「ねえ。ここにはいないよ。……ここまで探したんだし……もういいんじゃない」


スライムはもう限界だった。


「大丈夫だ。俺に任せろ!」


干し肉を出した袋からおもむろに小さな手のひらサイズの笛らしきものを出した。

勇者は口に咥えてふくと人間には聞こえない音が辺りに響いた。


「なにこれ?」


スライムは耳を塞ぐそぶりをしながら辺りを見渡すと一匹の犬が近寄ってきた。


「この子じゃない?」


お色気お姉さんは近寄って、犬の頭をなでる。


「見つかったな」


「ねえ」


スライムは疑問に満ちた表情で勇者を見つめていた。


「それなに?」


「ああ、犬笛ってやつだな」


「あ~、それこの前道で拾ってたよね~」


お色気お姉さんは、スライムの疑問の答えを言ってくれた。


「持ってるんだったら、最初から使ってよ!」


スライムはいつにもまして強い口調で勇者を問い詰める。


「これって犬笛っていうのか?」


「え~、しらなくて使ったの~」


お色気お姉さん撫でていた犬を抱きしめていた。


「もう……いい。帰ろう……」


もうこれ以上何も言いたくないと言わんばかりにスライムは一人で歩き出す。

お色気お姉さんは抱きしめたまま、犬を主の元へと連れて帰った。


村人たちが言う。


「勇者の匂いで帰ってきた!」


「不思議な道具を使ったぞ!」


「あいつらは魔物だけじゃなく、動物まで従えるのか」


勇者が頷く。


「なるほどな!」


いつもなら突っ込むスライムだが勇者の言葉に反応しなかった。


勇者一行の評価はさらに上がって行った。



勇者が何をしたかは、あまり重要ではない。


重要なのは、

周囲がどう解釈したかだ。


解釈は、事実より早く広がる。


そして広がった解釈は、

だいたい元には戻らない。



夕方になるころには、噂が街に回っていた。


「勇者が魔物を支配した」


「井戸の魔物を倒した」


「犬まで操った」


スライムが言う。


「もう、全部違うから」


町へ帰ってから少し元気を取り戻したスライムが言う。

通りすがりの人たちが笑う。


「またまた~」


「謙遜するなよ」


勇者が胸を張る。


「俺たちに、任せろ!」


周囲が頷く。

スライムは疲れる。


そのときだった。


ギルド職員が走ってくる。


「勇者さん!」


勇者が振り向く。


「呼んだか!」


ギルド職員が言う。


「緊急の依頼です」


スライムが言う。


「えっ、また?」


職員は紙を取り出す。


「町の外から連絡がありまして……」


スライムが言う。


「誰からの依頼?」


職員は困った顔をしながら言う。


「ええと……」


職員は紙をめくった。


「又聞きの又聞きなので……詳しくは……わからない……ですね」


スライムが言う。


「なにそれ。それで依頼なの」


勇者が頷く。


「俺たちに、任せろ!」


「任せろじゃ、ないから!」


職員はもう一枚紙を取り出した。


「それと……現地までは船になるそうです」


スライムが言う。


「船?」


職員は頷く。


「ええ。港から出る船に乗れば、詳しい人が待っていると」


「詳しい人って誰?」


「ええと……」


職員は少しだけ笑う。


「それも又聞きです」


スライムは顔をしかめた。


「全部それじゃないか」


勇者は元気よく言った。


「なるほどな!」


スライムが言う。


「なるほどなじゃない」



評価は、ゆっくり積み上がる。


積み上がるのは実力とは限らない。


噂でも、偶然でも、

勇者の返事でも積み上がる。


積み上がった評価は、

次の依頼を呼び込む。


今日も世界は普段通りで、

目立った変化は確認されていない。

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