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勇者が魔王を倒す旅にでたので、スライムは困っています  作者: 叶詩


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23話 勇者と罠と、だいたい回避できたことにされる日

罠は、踏んだかどうかより結果で判断される。

倒れなければ成功。

動ければ問題なし。


疲れたかどうかは、

あまり数えられない。


今日の出来事は、

だいたい回避できたことにされた。


世界は、そういう整理を好む。

理由は特にないが、そういう流れらしい。

入口から少し進むと、通路は急に細くなった。

壁が近い。天井も低い。

足音が、さっきよりも大きく返ってくる。


「なんだか狭くなったな」


勇者が言う。


「狭くなると、だいたい何かある」


スライムが言う。


「敵か?」


「それとも罠か」


「どっちもあるだろ!」


お色気お姉さんは、壁を指でなぞりながら歩いている。

危なげがない。

というより、危なさを感じていない。


「ここ、歩きにくいね〜」


「歩きにくいってことは!」


勇者が声を張る。


「つまり、歩けるってことだな!」


「意味が分からない!」


スライムが言う。


勇者は先頭を譲らない。

譲らないまま、床を踏みしめる。


カチ。


音は小さい。

でも、はっきりした。


スライムの声が裏返る。


「今、音した!」


「……したな!」


勇者も言う。


「したね〜」


お色気お姉さんは、のんびり言った。


次の瞬間、通路が動いた。


床が沈む。

壁の一部がずれる。

天井から、何かが落ちる気配。


「罠だ!」


勇者が叫ぶのと同時に、全員が動いた。


勇者は前に跳ねる。

スライムは横に転がる。

お色気お姉さんは、なぜか後ろに下がる。


ガシャン、という音。

何かが空を切る音。

風が一気に流れる。


スライムは壁にぶつかって止まった。


「痛っ……!」


勇者は床に手をついている。


「うお……!」


二人とも息が荒い。


お色気お姉さんは、立っている。

立ったまま、首をかしげた。


「今の、なに?」


通路は、もう動いていない。

音も止んだ。


誰も倒れていない。

血も出ていない。


沈黙。


三人は、しばらく動かなかった。


勇者は、自分の手を見る。

スライムは、体を一度伸ばす。

どこかが折れている感じはしない。


息だけが荒い。

心臓の音が近い。


お色気お姉さんは、服の裾を払った。


「びっくりしたね~」


「びっくりで済ませるな!」


スライムが叫ぶ。


「今、完全に罠踏んだよ!」


勇者は、ゆっくり立ち上がる。


「だが!」


スライムは嫌な予感がした。


「誰も倒れていない!」


「そこを強調するな!」


「つまり!」


勇者は、胸を張った。


「俺たちは回避したってことだな!」


「してない!」


床を見ると、さっき沈んだ部分が戻っている。

壁のずれも、元の位置に戻りかけている。


中途半端だ。

全部作動したわけでも、完全に止まったわけでもない。


スライムは周囲を見回す。


「これ、完全解除じゃないよ」


「いやいや、誰も当たってないだろ!」


勇者が言う。


「ということは、当たってないっていうことで、セーフだな!」


「セーフの基準が低い!」


お色気お姉さんが言った。


「でもさ、当たってたら倒れてたよね~?」


「そうだけど!」


スライムが言う。


「当たらなかった理由が分からないのが怖いんだよ!」


お色気お姉さんは、また首をかしげる。


「たまたまじゃない?」


「たまたまで処理するな!」


勇者は、周囲を見て満足そうに頷いた。


「よし。次、行こう。次!」


「待って!」


スライムが止める。


「まだ終わってない感じがする!」


その瞬間、天井の一部がガクンと揺れた。


「ほら!」


スライムが叫ぶ。


勇者は即座に後ろへ跳ぶ。


「今度は避けたぞ!」


「今度も踏んでるよ!」


壁から、何かが少しだけ飛び出して、引っ込んだ。

中途半端だ。

やる気があるのかないのか分からない。


お色気お姉さんは、相変わらず無傷だ。


「なんか、くすぐったかった~」


「くすぐったいで済むのおかしい!」


スライムが言う。


勇者は、息を切らしながら言った。


「はぁ……はぁ……ちょっと待ってくれ……」


「疲れてるじゃん!」


スライムが言う。


「回避したのに、めちゃくちゃ疲れてるじゃん!」


勇者は笑った。


「それは……全力だからな!」


「全力で回避してる時点で危ない!」


三人は、通路の端に寄った。


勇者は膝に手をつく。

スライムは壁にもたれる。

呼吸が落ち着かない。


お色気お姉さんだけが、普通に立っている。


「え、もう休憩?」


「休憩するほど疲れてるのおかしいと思わない!?」


スライムが言う。


勇者は、ぜえぜえ言いながら頷いた。


「いやいや……ほら……あれだ……よ。成功だ!」


「何を根拠に!」


「誰も倒れてない……だろ!」


「倒れてないだけだよ!」


お色気お姉さんは、軽く手を叩いた。


「じゃあ、回避できたってことでいいよね~?」


「よくない!」


スライムが叫ぶ。


「今のは、踏んだし、当たりかけたし、疲れただけ!」


勇者は、勝ち誇った顔をする。


「つまり、いい訓練だったってことだな!」


「便利なまとめ方!」



倒れていなければ成功。

それが、分かりやすい基準だった。


疲労は数字にしにくい。

混乱は記録に残らない。


だから、

回避したことになった。


世界は、そう整理した。



進むと、通路は少し広くなった。

さっきの罠エリアを抜けたらしい。


音が減る。

足音が普通に戻る。


スライムは、歩きながらぼやいた。


「さっきの、絶対また来るよ」


「来たらまた避ける!」


勇者が即答する。


「避けきれてない!」


お色気お姉さんは、前を向いたまま言う。


「でも、次はもう少し上手くやろうね~」


「上手くやる前提で進むな!」


スライムが言う。


勇者は、満足そうだ。


「だいたい分かったぞ!」


「何が!」


「ほら、罠は気合で何とかなるってことだよ!」


「ならない!」


しばらく歩くと、三人とも黙った。

さっきの動きが、じわじわ効いてくる。


足が重い。

息が少し浅い。


お色気お姉さんだけが、普通の歩調だ。


スライムが、我慢できずに言った。


「なんで一人だけ平気なの」


お色気お姉さんは、少し考えてから言う。


「分かんない。たまたま~?」


「またそれ!」


勇者が感心した。


「すごいな!」


「褒めるな!」


その後は、会話が減った。

歩くだけで精一杯になる。


罠は見えない。

でも、気配は残っている。


さっきの場所を振り返ると、

何事もなかったみたいに静かだった。



罠は、回避された扱いになった。

記録上は問題なし。


実際には、全員疲弊している。

だが、それは省略された。


倒れていない。

それだけで、十分だった。


世界は今日も、

そうやって話を進める。

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