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勇者が魔王を倒す旅にでたので、スライムは困っています  作者: 叶詩


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18話 勇者と顔合わせと、もう出発した気になっている日

出発は、予定として存在する。

予定があると、人は集まる。


人が集まると、

すでに進んだ気分になる者が現れる。


実際に進んだかどうかは、

後から判断される。


ギルドの前は、

今日もただの通過点だった。

理由は特にないが、そういう流れらしい。

朝のギルド前は、少し肌寒かった。

空は明るいが、陽の角度は低い。

影が長く伸び、建物の凹凸を強調している。


人はいる。

だが、急いでいる様子はない。


桶を運ぶ者。

店の戸を叩く者。

まだ半分眠っているような犬。


世界は、

冒険が始まる気配を一切出していなかった。


勇者は、そこに立っていた。

正確には、構えているつもりだった。


「ついに来たな!俺たちの冒険が!」


誰に向けた言葉でもない。

だが勇者は満足そうだった。


スライムは、少し遅れて現れた。

昨日と同じ道。

同じ距離。

同じ建物。


なのに、今日はやけに遠く感じる。


「……集合は、これでいいの?」


「いいんだよ、これで!」


勇者は即答した。


「揃ったんだよ!」


「三人で?」


「ああ、十分だ!」


「十分の基準が毎回変わるのやめてほしい」


勇者の装備は相変わらず軽い。

背負い袋はない。

腰の剣は鳴る。


音だけが、準備を主張している。


「よし、準備は万端だ!」


「何を準備したの?」


「気合だよ。気合!」


スライムは、

勇者とギルドの扉を交互に見た。


(戻るなら、今なんだけどな)


もちろん、戻らない。


「あ、おはよ〜」


軽い声が割り込む。

朝の空気には、やや不釣り合いだ。


お色気お姉さんが立っていた。

昨日より近い。

確実に近い。


「おお、おはよ!」


勇者が元気よく返す。


「今日もいい天気だな!」


「ダンジョン、地下だけどね」


「気分の話だよ。気分の!」


「気分で天候変えるな」


お色気お姉さんは二人を見比べた。


「今日は三人?」


「今のところは」


スライムが答える。


「増える?」


「減る可能性の方が高いと思う」


「おいぃ!縁起が悪いな!」


勇者が言うが、

否定としては弱い。


お色気お姉さんは、

特に気にした様子もなく頷いた。


「そっか〜」


納得が早い。

早すぎる。


スライムは、

その軽さに少しだけ引っかかった。


「じゃ、行こっか~」


お色気お姉さんが言った。

それだけで空気が決まる。


「おう出発だな!」


勇者は歩き出した。


「待って、

どこに向かってるの?」


「ダンジョンだよ。ダンジョン!」


「そして今は、町!」


「まずは外だな!」


「雑!」


三人は町の通りを進む。

石畳の音。

鎧の音。

布の擦れる音。


勇者は歩きながら何度も振り返る。


「ちゃんとついてきてるな!」


「当たり前でしょ!」


「よし、よし!」


「何がよしなの」


お色気お姉さんは、

歩幅をまったく変えない。

なのに距離だけは縮む。


スライムは横にずれる。

ずれても、なぜか近い。


「……距離」


「え?」


「いや、なんでもない」


家並みが減る。

畑が増える。

風の音が強くなる。


「冒険っぽくなってきたな!」


勇者が言う。


「景色が変わっただけ!」


「何言ってるんだよ。それが冒険ってもんだ!」


「便利すぎる!」


郊外の道は広い。

広いが、特に何もない。


人も減り、

音も減る。


三人の足音だけが残る。


お色気お姉さんが言った。


「前もね、

この辺から始まったんだ~」


スライムの動きが一瞬止まる。


「……前?」


「うん。前のパーティ」


「その話、

今する?」


「思い出したから~」


「軽いな!」


「すぐ全滅したけど~」


「言い方!!」


勇者は笑う。


「じゃあ今回は大丈夫だな!」


「どこからその結論出た!?」


三人はしばらく黙って歩いた。


風。

草。

雲の影。


誰も話さない。

話す必要がない沈黙。


沈黙が長くなるほど、

「もう進んでしまった感じ」だけが増えていく。


道の脇に、小さな水場があった。

人工なのか自然なのか分からない。

ただ「水場っぽい」。


勇者が言う。


「このあたりで休憩しよう!」


「まだ出発してないけど?」


「いやいや、もう始まってるだろ!」


「基準が緩い!」


三人は立ち止まる。

水の音が近い。


お色気お姉さんが先に手を伸ばす。


「冷たいね〜」


「飲む前に確認しようよ!」


「大丈夫だよ〜」


根拠はない。

だが、結果的に平気そうだった。


勇者も飲む。

問題なさそうだ。


スライムは少し遅れて口をつける。

冷たい。

うまい。


「……普通にうまい」


「だろ!」


「お前の手柄じゃない!」



移動は、

進行として数えられる。


休憩は、

出発後の行動として扱われる。


実際に目的地へ向かっているかどうかは、

重要ではない。


進んだ気分があるなら、

進んだことになる。



受付嬢が、

遠くから歩いてきた。


書類を抱えている。


「……まだ近くにいたんですね」


「もう出発しているぞ!」


勇者が言う。


「形式上、ですね」


「形式上!」


スライムが言う。


受付嬢は、淡々と確認する。


「持ち物は?」


「んーー、特にないかな。とりあえず気合さえあれば何とかなるからな!」


「地図は?」


「見ないというか、見る必要がない!俺の勘が、あっちだと言っている!」


「回復は?」


「休憩すれば、大丈夫だ!」


「非常食は?」


「……ない。そこらの魔物でも倒して食えばいいだろ!」


受付嬢は一瞬だけ沈黙した。


「……一応、無理はしないでください」


視線が、

お色気お姉さんに向く。


「はい」


返事は軽い。


受付嬢はそれ以上何も言わず、

引き返した。


三人は再び歩き出す。


「じゃ、本当に行こっか~」


お色気お姉さんが言う。


「おう!」


勇者はもう満足そうだ。


「もう俺たち、冒険してるな!」


「まだ入口も見えてない!」


「そのうち見えるさ!」


「雑だな!!」



出発は、

すでに行われた扱いになった。


位置は、

まだ郊外である。


だが、

気分は十分に進行している。


それで、

問題はないとされた。

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