ベッド大戦
部屋には男が一人に女が三人。
そしてダブルベッドが二つ。事件である。
「俺、床で寝ますから」
「主君を床で寝かせるくらいなら、拙者はこの場で腹を切るでござるよ」
精いっぱいの紳士的な行動は、忍者の解体ショーによって封じられた。
「クレオムくん、一緒に寝ようよ。どうせ起こしてくれるんだから一緒だよ」
「私は聖職者ですが、今は破門中の身。少しくらい肌を重ねたとて何の問題もありません」
「主君の布団を暖めるのも家臣の務めにござるよ」
全員、乗り気である。
「拙者が」「私が」「いいや私が」
こんな大人気になれるなんて、嬉しいものだなぁ。
「最初はグー!」
「じゃんけんぽい!」
「あいこで」
「あいこで」
「あいこで」
「あいこで」
調子の悪い時のジャンケンマンみたいになってしまった。あれは当分終わらない気がする。
「ちょっとその辺見てくるから」
返事はなかった。じゃんけんが白熱しすぎている。
宿を出て、通りを見渡すと、そこここに浮かれた顔の旅行者がいる。
さすがに祭りの時期、ということか。
夜店で売っている目元を隠す画面をつけた者や、聖職者の格好をして練り歩くもの、そして黒ずくめの髑髏の画面を被り、人目につかぬよう早歩きで歩いている者……は多分違うな。明らかに様子が違いすぎる。
何か良からぬことでも企んでいる集団がいるのかもしれない。
ま、いたとて俺たちの関与するところではあるまい。
たいてい悪は滅ぼされ、朝はあるべきように来るのだ。
「おや、こんなところでお会いするとは」
背後から声をかけられる。
「……誰でしたっけ」
振り返った先にいるのは、身なりのよい少年。
よく糊付けされた真っ白なシャツと、半ズボン。
紅顔の美少年という表現がしっくりくる。
「やれやれ、忘れましたか。まぁ仕方ありませんね。馬車で乗り合わせた、ケニス・メリステムです。」
馬車……馬車、ああ。
「盗賊をボコボコにしてた子か」
「そうです。ちょっと怪しい噂を耳にしましてね」
「祭りの裏で暗躍する組織がいるとか?」
「ご存じでしたか」
「いや、不審者がいたから」
髑髏の仮面の不審者に何も思わなかったらそのほうが異常である。普通に売ってる仮面とか買っとけよ。そのほうがバレにくいんだから。
「ここで会ったのも何かの縁。力添えを願えませんか?」
純真な目でケニスが俺に尋ねる。
「……悪いけど、遠慮しときます。俺はあんまり強くないし」
「……仕方ありませんね」
お、諦めたか。
「泣き落としといきましょうか」
諦めてなかった。
「……うわあああああああああああああああああーーーん!!!!お兄ちゃんが!!!お兄ちゃんがあああああああああああああ!!」
あまりの大きな声に、通行人が振り返る。
違う。俺じゃないんだ。そんな目で見ないでくれ。 あとこれは泣き落としとは言わない。暴力である。
「わかった、わかったから!ついてくだけだけ!ついてくだけですからね!」
「ありがとうございます!」
にこっ、と擬音がつきそうなはじける笑顔で、ケニスは笑う。
こいつ、ろくな大人にならない。




