36.きな臭い話
クロウリーが倒された翌日。地下にあるシェルターに避難していた住民たちが帰ってきて、翌週には復興が始まった。
壊れた建物の修復、道の修復。
幸いにも人的被害はほぼなかったそうだ。
クロウリーは侵略を開始した際にも魔王軍四天王と名乗っていたらしく、さすがに「俺たちと行動を共にした忍者が倒しました」とも言えず、クロウリーは公式には行方をくらましたことになっている。ギルドにはクロウリーの手配書と、魔王復活の兆しが見られるため注意されたし、との通達がでかでかと貼られている。
で、その忍者、ハンゾウはというと。
「いやー、ここの飯は美味いでござるな」
普通に串焼きの肉を食っている。さすがに黒ずくめの忍装束ではなく、リスティマのお下がりの白いワンピースとつばの広い、同じく真っ白な帽子を身に着けている。長い黒髪が天女の羽衣のごとく優雅に垂れ、まるで深窓の令嬢のような出で立ちである。
「どうしたでござるか、殿。こっちをじっと見つめて」
「いや、なんでも。」
「お誘いとあらばいつでも馳せ参じるでござるよ」
切れ長の瞳で、にまりと微笑む。
「いえ、結構です」
ハンゾウはいつの間にやらギルドの登録も済ませ、当然のような顔をしてうちのパーティーに居座っている。めちゃくちゃ強いしめちゃくちゃ頼りになるからいいんだけど。
押し込んだ部屋にも当然住んでいる。というか翌朝扉を空けたら忍者屋敷に改造されていた。
全壁隠し扉である。バカなのか。
「拙者がここに呼ばれたのにも、何か意味があるはずでござるからな。それを見つけるまで、お世話になるでござるよ」
といっていたが、何かあてはあるのだろうか。まあなければないでうちの優秀な前衛として働いてもらえるからありがたいけれど。
食事を終え、帰途につく。
ハンゾウのおかげで迷宮の奥まで探索することができ、そうそう飢えることがないくらいには蓄えができている。
[魔王が復活した!終末の日が近い!]
そんな文言が書かれた札を持った一団がたたずんでいる。
終末が近かろうと、俺たちがやることは変わらない。
変わらない、はずだ。
「クレオムくん、どうかした?」
フィグが俺の顔を覗き込む。
「いえ、なんでも」
もし本当に魔王とやらが復活していたとしたら。
他の誰も、魔王を倒せないのだとしたら。
俺が魔法少女の力を手に入れたのは、もしかしたら。
「何かお悩みのようですね。司祭の資格を持った──あ、そうか。剥奪されてましたね。司祭の資格を持っていたことがある私が聞いてさしあげましょうか?」
「一夜をしっぽりと共に過ごせば、悩みなんて吹っ飛ぶでござるよ!」
パーティのみんなは優しい。三人のうち二人は優しさが明後日の方向に向いてはいるが。
「で、魔王って何でござる?」
「さあ……」
そういや知らないな。
「私も、そっちの歴史系はさっぱりで」
フィグも知らない。
「はぁ……皆さん、もうちょっとくらい聖典を読んでくれてもいいと思いますよ」
リスティマが呆れ顔で、ため息をついた。




