3.一件落着とはいかず。
人の噂も七十五日というが、人は七十五日も噂に耐えることはできない
街に帰った俺たちにギルドの受付嬢がかけた言葉は、お疲れ様でもお帰りなさいでもなく「死んだはずでは」だった。
他のメンバーの誰かが俺たち二人の死亡届を提出したらしい。
「ご覧の通りピンピンしてますよ。フィグさんはちょっとしおれてますが…」
「生きてまーす……」
受付嬢の表情が曇る。
その後はてんやわんやだった。
俺たちの死亡届を出したのは「ノブシコブシ」のメンバーたち。特に剣士のアバリア。
自分たちの都合のいいように事実を歪めて死亡届を提出し、俺たちの保険金まで受け取っていったらしい。自分勝手なものだ。
保険金詐欺か何かに当たるらしく、冒険者条項にも反するため俺たちの戸籍はただちに回復し……とはいかないらしく、諸般の手続きと、いくらかの取り調べに数日。魔石の換金にさらに数日。正直疲れた。ミノタウロスと戦った時のほうが、魔法少女の力があったとはいえいくらか楽だった。
諸々が終わったあと、俺とフィグはささやかな打ち上げとして、酒場に来た。
「ふたり飲みなんて、初めてだね」
「そうですね、飲みなんて誘われたこともなかったし」
「私も。呼ばれたとしても行ってなかったと思うし」
フィグは音を立てずにグラスを置く。
「クレオムくん。私たち、行く当てがないね」
「ええ、どうやらそのようで」
ダンジョンに取り残された一件が落着以降、俺達は様々なパーティの募集に応募したが、ことごとく断られていた。危険なダンジョンの奥地に取り残され、無傷で生還したことが、どうやら噂になってしまったらしいり
いい噂ならまだいいが、普通に悪い噂のほうだ。
あいつらはアンデッドだとか、モンスター側だとか、根も葉もない噂。ミノタウロスの魔核で多少の余裕はあるが、その余裕は当然いつまでも続くものではない。
「だからさ、私たちで組まない?」
「どうしてその結論になったんですか。」
少なくとも、俺をパーティに入れるメリットはないですよ。
「私は、そうは思わない。ミノタウロスに襲われて生き延びたのは、きっとクレオム君のお陰だし」
背筋を冷たいものが這う。
まさか、気づかれているのか?俺が魔法少女姿になったこと。
「どうしたの、急に固まって」
「いえ、なんでも」
「大丈夫、悪いようにはしないからさ。試しに一回だけ、ね?」
「俺と組んで、フィグさん──」
「そのさん付け、やめて。フィグって呼んで」
「ああ、はい……フィグになんのメリットが?」
「あるよ。私は、君と一緒にいたい。君に背中を預けたい。それに、何かあったらきっと、守ってくれるでしょ?」
フィグの頰が赤い。酔っているのか?
「わかりました。後悔しないでくださいね」
「そこは「後悔させません」のほうがかっこよかったよ。なんにせよよろしく、クレオム君」
「こちらこそ」
差し出された手は、柔らかく、温かかった。
正誤問題∶魅力的な誘いに乗る時は気をつけなければならない
答え ✕ 誘いに乗る際には常に気をつけなければならない




