23.誰なんだ
「こんなところでダンジョンの藻屑になるなんて、情けなーい」
カツ カツ、と小さな足音を響かせながら現れたのは、黒フリフリの、蝶を思わせるゴシックな衣を身にまとった少女──恐らく、魔法少女だった。
金色のさらさらとした長髪に、蝶の形をした黒の髪飾り。胸元のリボンがふわりと揺れ、ひざ丈のスカートにはこれでもと言うほどフリルが詰まっている。
有り体にいうと、とてつもなく可愛らしい。
「……誰?」
敵?だとしたら手詰まりな気がするが、物陰から攻撃してきていない時点で、その線は薄い、はず。
「あ、そっか。この姿じゃーね。わからないよね。それならそれでいいかー」
「この姿……?」
「気にしないで気にしないで。こっちの話だからさー。私はプリティ・エルマ。こんな予定じゃなかったけど、今回は、ね。助けてあげようかな」
オメガヘッドの足音が迫る。地響きが大きくなる。
そしてその先頭が、視界に入る。
「見てなよ、君も私も、もっと先に行けるはずだからさ」
プリティ・エルマは俺たちの前に立ち、蝶が象られた銀色の長杖を構える。
オメガヘッドが拳を振りかざす。
「エルマ・ザロンドッ!」
エルマが受け止めた杖の先から、紫の光線が伸び、剣を形取る。
「そこっ!」
エルマが杖──いや、剣?──を引き、よろめいたオメガヘッドを切り捨てる。
長い剣が、迷宮の壁を火花を散らせながら切り裂く。
「エルマ・ギガ・ザン!」
光剣がさらに巨大化し、通路ごと無数のオメガヘッドを物言わぬ骸にした。
進軍の勢いが少し弱まる。
「じゃ、私はこいつら全員倒してくるから。帰ってなよ。貸し一つにしといてあげる」
「あ、ああ……」
「じゃーね。また戦おうね」
エルマは光剣を構えたまま、迷宮の奥へと走り去っていった。
「助かった……のか?」
「どうやらそのようですね、しかし女神のような姿をした戦士がもう一人……?」
「何にせよ、もう帰ろう」
幸い、目の前に階段があった。
ここから先は自力で、何階層上がればいいかも不明だ。
だが、さっきの道より険しいということもないだろう。
オメガヘッドの魔核を可能な限り拾い集め、帰途につく。
数時間かけて地上に出た時には、とっぷりと日が暮れていた。
「生き延びたー……」
オメガヘッドの足音はもう聞こえない。
きっとあの魔法少女、プリティ・エルマが倒しきったのだろう。
「お礼、言いそびれちゃったな」
次会ったら、言わなきゃな。




