19.ちょっと足を伸ばしてさ
ゼナックに勝利してから数日。
闘技場での大番狂わせが噂になったのか、声をかけられることがちょっとだけ増えた。
名が売れた、ということになるのだろか。
リスティマは俺の勝利によって小金を手にしたようだが、あいかわらず部屋に居座っている。いい加減に出ていってほしい。
ちょっと名が売れたところで、俺のやることは変わらない。
リスティマを連れて、フィグを起こし、予定を決める。
「今日こそ、ちょっと離れたダンジョンに行ってみようか」というフィグの提案により、街から少し離れたダンジョンに行くことになった。
「ゴブリンのねぐら」と呼ばれる、人型のモンスターが多い、中級者向けダンジョンだ。
前のパーティの時には行ったことが無かったな。
そもそも前のパーティでダンジョンに潜った回数だって数えるほどだが。
「結構、違うもんですね、雰囲気とか」
「腰抜けの迷宮」とは壁の質感や湿度、空気の重さが違う。
ちょっとからっとしていて、明るいと言うかなんというか。
「人型のモンスターが多いからね。彼らの住みやすいようになってるんだと思う」
「神の思し召し、というやつですね」
そんなもんなのだろうか。不思議である。
ダンジョンを進んでいくと、不気味な鳥頭の、人型モンスターがのっそりと姿を現す。
羽毛に覆われた全身、背丈は大人の男と同じくらいか。
手には木の枝そのままに見える、粗末なボロボロの棍棒。あまり知能は高くなさそうだ。
こちらをじろりとにらみつけると、口を開く。
「タスケテ!タスケテ!」
これは、あれか。
襲われた人間の断末魔を真似するタイプのモンスターか。趣味が悪い。
「オメガヘッドですね、知能は低いですが、パワーと瞬発力が高いので危険です。」
リスティマが解説してくれる。
オメガって、ΩΩってこと?
「タスケテ!」
いらん考え事をしていた俺の隙を見逃さず、オメガヘッドが棍棒を振り下ろす。
「うぉっ!」
すんでのところで避けると、眼前の石床にびしりとヒビが入る。
確かに、このパワーは脅威だ。
俺の実力じゃ、対処するのは難しいだろう。
俺一人なら。
「フィグ!お願いします!」
「アイスロック!」
フィグの放った魔法弾が、棍棒を振り下ろしたオメガヘッドの腕に直撃し、そのまま凍結させ、氷の枷で地面にその腕を縫い付ける。
「タスケテ?」
「ナイスです、フィグ!」
左に跳び、そのまま壁を蹴り──剣を横一線に振り抜く。
「やぁっ!」
命中した剣は切れ味も鋭く、そのままオメガヘッドの頸を切り落とす。
「タスケ……」
黒い靄となって消える筋肉質な身体。
魔核だけが残り、地面に落ちる。
「なかなかいい連係でしたわ、お二人とも。私の出る幕はもう少し先の階層かもしれませんわね」
リスティマが小さく拍手をする。
「順調ですね、この調子でいきましょう!」
「うん、いい感じだね、クレオムくん!」
いい感じである。順調である。
そして順調である時には必ずと言っていいほど、ろくでもないことが起きるのが俺の人生というものである。




