13.魔法少年はどんなときでも諦めない
「食らうがいい、わが獄炎を!」
骸の竜、ガイガスが叫び、その口から業火を吐き出す。
「ピピラ・パルマ──うわっ!」
掌の形の障壁を出すも、業火の凄まじい熱に砕け散る。
「ぐううう!」
熱い、痛い。肌が焼ける。 髪の焦げる匂いがする。
服もフリルの一部が燃え、煤けてしまった。
「どうしたどうした!ヴォル・ヴァルマ!」
暗黒のオーラを纏った槍が、無数に俺めがけて飛ぶ。
「ピピラ・パルマ!ぐっ」
障壁で受け止め損ねた1本が、肩口に刺さる。
刺さった傷口が、燃えるように熱い。
「どうした!防戦一方ではなぁ!」
「くっ!ペポラ・パルマ・プレシオン!」
天井から、巨大な掌の形をした光弾が、竜のその巨体を押しつぶさんと──
「ぬぅん!」
ガイガスの掌底が天を突き、ペポラ・パルマ・プレジオンすらも砕け散る。
「どうした、まさかこの程度ではあるまいな!」
強い。圧倒的に。
まだ、強い呪文はある。 体力も魔力もまだ、尽きていない。だが。
こいつには勝てない。そう、心の奥底で、思ってしまっている。
圧倒的な力、圧倒的な防御力。
その戦闘力に、象と蟻ほどの差があるような、そんな絶望感が腹の奥にずん、とのしかかっている。
「決めさせてもらうぞ!ヴォル・アヴラ・ヴァルマ!」
暗黒の槍が無数に空中に浮かぶ。先ほどのものより長く、太く──そして、多い。
「諦めるのかい?」
いつの間にか傍らに浮いていた、兎のような小動物が俺に問う。
「守りたいあの子たちを。そしてこの世界を、諦めるのかい?」と。
その言葉にフィグの顔を、ふと思い出した。
一緒に冒険をして、酒を飲んで──そうだ、あの楽しい時間を、またもう一度過ごすためにも。
腹の奥の重い絶望感が、熱に変わる。
そうだ、まだ諦める時じゃない。勝てる勝てないじゃない。何をおいても今は、こいつに勝つ。
「ピピラ・パルマ!」
ガラスの軋むような、耳障りな音が響く。
掌の形をした障壁に、暗黒の槍は深々と突き刺さり──しかし、障壁は砕けない。
「ふむ、これはなかなか」
「ペポラ・プレイザー!」
攻撃に転じた俺の放つ光線が、竜の纏う鎧に穴を穿つ。
「ぐっ……急に気迫を増したか!そうでなくてはな!」
穿たれた穴は一瞬で消える。だが、効いていないわけではあるまい。
「ペポラ・エレフ・プレイザー!!!!」
光の玉が、宙に舞う。
一つ、二つ、三つ──やがて、数え切れないほどの数になる。
「はぁっ!」
放たれた幾千の光弾が、全穿つ、穿つ、穿つ。
「ぐ、うっ……これは……まずい……!」
蜂の巣のように穴だらけになった骸の竜が、痙攣するように手を伸ばす。
「まだだ!ペポラ・スピカ・ププ・パピリマ・プレイザー!!」
杖の先端に光が集まり、巨大な光弾を形取る。
杖を振り抜くと、ダンジョンの通路を埋め尽くすほどの太さの光線が振り注いだ。
「ぐうううっ!ぐああああああ!!」
爆発音と土煙。
肩で息をし、咳き込みながらも通路の奥を睨めつける。
意外にも、骸の竜はその原型をとどめていた。
「はぁ……はぁ……ぐうううっ……まずいな……油断したか……今日のところは、勝負はお預けとしようか……」
満身創痍のガイガスの姿が元の骸骨騎士に戻ったかと思うと、影に包まれる。
「待てっ!」
とっさに放った光弾は、その影すら消え去ったダンジョンの床に弾かれただけだった。
「逃がした──けど、生き延びたぞ……!」
桃色の光が俺を包み、元の姿に戻す。
体力も、精神力もとうに限界を超えている。
出口は、きっとあっちの方だ。
一歩進み、二歩進み──三歩目を踏み出す前に、俺は意識を失い、倒れ伏した。




