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ちょっと待って、待って。
なんで? お兄様が罰を受けてるの?
あれは、どっからどう見ても私が悪かったのに。
「な、なんでそんなことになっているの?」
「宰相様がお決めになったのです」
「お父様とお母様は?」
「ミリアリア様が倒れる数刻前に遠方へご公務に行ってから、まだお戻りになっていませんから」
そうだった。お二人は公務で、片道3日はかかる場所へ行ったのだった。
宰相といえば、私のことを数少ない厳しい目で見てくる人だわ。
お父様も、お母様も、周りの人達もみんな私を甘やかすばかりだけど、宰相は私にダメなことはダメだと注意をしてくるので、前の私はとても苦手だったのよね……
今思えば、珍しく私にまともな事を言ってくれる人だったのに。
それなのに私ときたら、お父様やお母様に宰相をクビにするように言ったこともあったわ。まぁ、さすがに優秀な宰相をクビにすることはなくて、そのせいでしばらく私の癇癪が収まらなかったのも黒歴史の一つ。
そんな、私の周りにいる唯一まともな大人の宰相様が、なぜ悪くもないお兄様に罰を与えるのかしら。
「宰相のもとへ行くわ。お兄様の謹慎を解いてもらわないと! 早く支度をしてちょうだい」
畏まりました、とライザはびっくりするくらいのスピードで支度をしてくれた。
ライザを連れて、宰相の仕事部屋へと向かう最中、通りすがる城の人達の怯えた表情が目に映る。
みんな、私が通ると一瞬怯え、すぐに礼をとって下を向く。
前までの私は、全く気づかなかったけど、みんな私が怖いのね……
宰相の仕事部屋の前にたどり着く。部屋の前に立っていた騎士に、宰相と話がしたいから中に通して欲しいとお願いする。
最初は、仕事中なのでとか、お約束がないととか、暗に我儘姫を遠ざけようとしているのがわかる。
ええい、お兄様に罰を与えたままにするなんて。いいでしょう、我儘を発揮してやるわよ。
「いいから、宰相に会わせて! さもないと、あなたをクビにしてやるんだから」
嘘だよ。クビになんてしないからさ。でも、こうでも言わないと宰相に会わせてくれないかもと思って。
そうこうしていると、廊下が騒がしかったからか扉が開いて宰相が顔を出す。
「ミリアリア様、私に何か御用でしょうか」
来た。来た来た。この、私に媚びずに冷たい目で見てくる感じ。苦手意識はまだあるけど、お兄様の謹慎をどうにかしてもらわなければ。
宰相の名はソルト・ケネック侯爵。お父様とは学生の時からの親友と聞いたわ。そうそう、あの事件? の日に一緒にいた、黄色いドレスの女の子の父親なのよね。ちなみに、あの黄色いドレスを着た女の子はアリサ・ケネック侯爵令嬢で、緑色のドレスを着た子はカリナ・ボード伯爵令嬢というの。
あのお二人や、エドワルド様にももしかして罰が与えられたのかしら……申し訳ないわ。
でも、まずはお兄様よ。
「お兄様に会いたいの」
「アガルト様にですか? 謹慎中ですので、ご遠慮願います」
「そもそも、どうしてお兄様が謹慎されているのよ」
「……ミリアリア様がお怪我をされたということだったので」
「それよ、それがおかしいわ。あれは、私の自業自得だったのに、どうしてお兄様に罰を与えたのよ」
「……ミリアリア様はどこか体調が悪いのですか?」
「え? なぜ? どこも悪くないし、医師の先生からも大丈夫だと言われたわ」
なんで、私の体調のことなんて聞くの?
「そうですか……ミリアリア様が自業自得という言葉を知っていたとは。なぜ、アガルト様にお会いしたいのですか?」
ん、今ちょっとディスられてる?
「それは、謝りたいからよ。私のせいでお怪我をされてしまったというから……」
「謝罪がしたい……ということで、あっていますか?」
「そう言っているでしょ」
「ふむ……」
そう言ったっきり、宰相は何か考え込んでいる。
「謝罪だけしたいというのであれば、アガルト様の謹慎を解きましょう」
「ありがとう!」
お礼を言ったら、何か疑っているような顔をされたが、気にしない。早速お兄様のもとへと急ごうとしたら宰相から、声がかかる。
「もし、謝罪の他に何かされようとしているのなら無駄ですよ」
「他に何かって何かしら」
じっと見られている。
「あの魔法石は陛下からアガルト様の為にご用意されたものです。怪我のお詫びに魔法石を欲しいなどとは言ってはなりませんよ」
そう言われた私は、ポカーンである。どうして、怪我のお詫びに魔法石が欲しいなんて話になるの? 確かにあれを渡せって言った気がするけど……そこで、ようやく気づいた。
宰相は私からお兄様を守るために、お兄様を謹慎にしたのだ。
宰相はお兄様のことを常々優秀だと言っていた。外見は多少あれだったとしても、優秀な次期国王に対して目をかけていたのを知っている。
だから、お父様とお母様がいない間に私が目を覚まして、お兄様に怪我を理由にアレヤコレヤするのではないかと心配して、謹慎という名のもとに保護したのだ。
宰相、ごめんなさい。勘違いしてました。
お兄様を謹慎にするなんて! って、思ってたけど、諸悪の根源、私から守るためだったのね……
よっぽど、ヤバい子どもだと思われてたのね、私って。
お兄様が謹慎されている、西の塔の部屋の前に着いて、一呼吸。
私の後ろには、ライザと宰相がいる。宰相は、おそらく本当に私が謝るだけなのか確認するためだろう。
信用ないのは、今までの私からしたら仕方がない。これからは、怖がられないように、信用されるように努力しないと。
コンコン。扉をノックすると、どうぞ。と、お兄様の声が返ってきた。
失礼します、と声をかけて部屋の中へ入る。
お兄様は、私がここまで来たことにとても驚いたみたい。驚いた拍子に、大きな目がこれ異常ないほど見開かれている。
良かった、お顔に傷はないみたいだし、お元気そうだわ。
あー、やっぱりお兄様って、イケメン。眼福眼福。と、見惚れていると、お兄様は居心地が悪そうな表情を浮かべる。
「ミリアリア、目を覚ましたんだね。良かった。ここまで来るなんて、どうしたの? 僕は謹慎の身なのだけれど」
まずい、ここへ来た目的を果たさなければ。
ふと、お兄様の手の甲をみると包帯が巻かれていた。
これって、あの時の傷のせいよね……そう思うと、自然と涙が零れてきた。
お兄様は、私が泣き始めてしまいギョッとした顔をされた。
「ごめ、ごめんなさい、お兄様ーーー。わた、し、わたしのせいでお兄様がお怪我をされ、されて。ほんとに、ほんとうにごめんなさーーーーーい」
謝罪の言葉とともに、さっきの比ではないほどの涙がダバダバ流れ出す。
まさか私が謝り、泣くとは思っていなかったのだろう。お兄様はオロオロして、大丈夫だよ。大した傷じゃない。念の為、包帯を巻いているだけだから。と、包帯を外して傷を見せてくれた。
大した傷ではない、と言っているが、私からしてみれば、そこそこ大きな傷に見えた。
それなのに、大丈夫、大丈夫だよ。と、泣き止まない私の背中を優しくさすってくれる。
優しすぎます、お兄様。私のせいだし、今までお兄様のことを馬鹿にするような態度ばかりしていた私を、危険から庇っただけではなく、今もこうして慰めてくれるなんて。
「ミリアリア、本当に大したことないんだよ。剣の稽古でも、それなりに怪我はするから」
そう言って、笑ってみせるお兄様。
そこで私はまた、ブワッと涙が吹き出す。
「ど、どうしたの」
「お兄様は、もう私のことをミリーとは呼んでくれないのですか? 私から言ったことだけど……でも、またミリーって呼んでほしいです」
またも驚いた顔をするお兄様。
「いいのかい?」
「わた、わたしのこと、き、嫌いになりましたか?」
「嫌いになるわけ無いだろう。ミリーは僕のたった一人の妹なんだから」
遠慮がちに私のことを抱きしめてくれたお兄様に、私からひしっと抱きつくと、背中をポンポンと優しく叩いてくれた。
「お兄様、ここを出ましょう。宰相には、私の自業自得なのだから、お兄様の謹慎を解いてってお話をしたの」
「そうだったのか。宰相、色々と迷惑をかけた」
私の後ろにいた宰相に声をかけると、とんでもないです。と、頭を下げる宰相。
そこでふと周りをみると、ライザと宰相の他にも人がいることに気がつく。
そう、エドワルド様もお兄様とご一緒だったのだ。
え、待って、待って。あんなみっともなく泣いていた顔を、エドワルド様にも見られたってこと……?
ぎゃーーーーーーーーー




