2
「私じゃーーーーん」
ガバっと勢いよく布団から起き上がる。
「ミリアリア様! お目覚めになられたのですね」
「え、あ、え」
「只今、お医者様をお呼びいたしますのでお待ち下さい」
そう言って、侍女のライザが部屋を足早に出ていった。
待って待って待って。少し、落ち着こう。
さっきまで、私は日本人の柴田 美亜として男の子や女の子たちが、言い争ってる夢を見ていた気がする。
けど、今の私はミリアリア・フォン・シュツットとして、このミターメ王国の王女としての記憶がある。
もしかして、柴田 美亜は私の前世のようなものかしら。そして、この世界にミリアリアとして転生したってこと……?
これが噂に言う、異世界転生!
改めて、落ち着こうと目を閉じて深呼吸。
徐々に、柴田 美亜として生きていた記憶と、ミリアリアとして生きてきた記憶が鮮明になってくる。
そう、やっぱり私の前世は柴田 美亜だわ。日本で暮らしていた、38歳。独身。家族仲は悪くて、大学入学と同時に上京。奨学金とバイト代でなんとか生活費を賄っていたのよね。
大学卒業後に入った企業がまさかのブラックで朝も夜も必死に働かないと奨学金の返済もできず、ダブルワークもしていたせいで、過労のせいでぽっくり逝ってしまったことを思い出す。
そして、今の私はミターメ王国の第一王女ミリアリア・フォン・シュツット。
正真正銘のお姫様。やったね! 作らなくてもご飯は出てくるし、掃除や洗濯もしなくていいし、みんなにチヤホヤしてもらえる! 最高!
と、思ったのもつかの間。美亜としての記憶を思い出したせいで、今まで自分がいかに我儘でヤバい子どもだったかということに気づいてしまった。
しかも、前世の美的感覚で言うと自分はとても可愛いとは言えない。
いや、この世界では絶世の美少女として有名なんだけどね。でも、記憶を取り戻してしまった私には、今までしていた容姿マウントがとてつもなく恥ずかしいっっ。
このミターメ王国や近隣諸国では、美の基準は【存在感がなければないほど美しい】ということになっている。
慎ましい見た目こそ美しい、と。
だから、目が二重でパッチリ大きいと、主張し過ぎで何をそんなに見たいのかしらみたいな偏見があるし、鼻は高いと、そんなに匂いをかぎたいの? 変態! みたいな偏見がある。
他にも口が大きいとなぜか野蛮とみなされるし、身長が高くてゴツい体だと暴力的。耳がでかいと噂好きで、信用におけない人間という偏見がある。
などなど、とにかくそんな感じなものだから、この世界の絶世の美少女の私の外見はとにかく全てが小さい。
身長も、平均より小さいし、顔も小さい(これだけは嬉しい)。目は一重で、開いてるのか開いてないのかわからないぐらいだし、鼻はぺちゃんこ。口もめちゃくちゃ小さくて、御飯食べれるの?
髪の毛も肌も白くて、ぶっちゃけ私って、ほんとにこの世界に存在してるのかなって感じ。
あーあ、どうせ異世界転生するのなら、とびきり可愛い女の子になりたかった。……いや、一応この世界的には絶世の美少女なんだった。うーん、人生ってままならないなぁ。
はっ! そういえば、お兄様とエドワルド様ってどうなったんだろう。ケガは大丈夫だったのかしら。
前世を思い出した私には、あの二人は国宝級イケメンなんだから嫌われたくない。散々、容姿マウントとって嫌な子だったから、もう嫌われてるかもしれないけれど……
お兄様とエドワルド様のその後のことを知るにはどうしたものかしら。
とりあえず、ライザと医師の先生が戻ってくるまでは待っていよう。
お兄様のアガルト・フォン・シュツットは、この国の王家で唯一の直系男子。容姿は金髪碧眼で二重のお目々パッチリさん。鼻は高くて、優しいお顔つき。まさに王子様フェイスって感じで、身長も同年代の子達よりも10cmは高い。
エドワルド・エイガ様は、この国に3つある公爵家の一つ、エイガ家のご嫡男。
エドワルド様の容姿は、褐色肌で黒髪黒目。お兄様と一緒で二重だけれども、切れ長の目。全体的に彫りの深いお顔立ち。身長はお兄様と同じくらいか、それよりも少し高いぐらい。
前世的にいえば、とってもイケメンなお二人。
なんだけれども……みなさん、お気づきだろうか。
そう、お兄様とエドワルド様は、この世界においてとても見目が良くないとされているの。しかも、この国のなかでも1、2を争うほどに。
こんなに、イケメンなのに!!!(前世的には)
そんなもんだから、このお二人は今まで心無い言動をされてきたの。
王家と、公爵家の人間なのに!
もっとも、心無い言動をしてきた筆頭が、何を隠そう私なんだけどね!!! 王女で、絶世の美少女として有名な私が、徹底的にお兄様とエドワルド様をそんな扱いをしたものだから、周りの人達もそれに習って、段々とお二人を蔑ろに扱うようになってしまった。
私がそんなふうにする前までは、お二人の容姿について表立っては貶すようなことはなかったみたいだから、諸悪の根源は私。
あー、胃が痛い。
穴があったら入りたい。
私の黒歴史。
しかも、前世の記憶を取り戻す前までの私って性格がまじで悪かった。
侍女が少しでも気に食わなければ、適当な理由をつけてクビにしてたし、王女としての権力を振りかざして言いたい放題、やりたい放題していた。
だから、周りの人達は私のご機嫌取りに必死だった。そのことも、お兄様達を虐げることに輪をかけたのだと思う……
そんなこんなで、私は黒歴史を思い出しては羞恥のあまり、ベッドの上でジタバタしていたらライザが医師を連れて戻ってきた。
散々体調はどうかと聞かれ、何度も大丈夫だと答えているのに、頭は痛くないか、吐き気はしないか、腕は、足は、お腹は? と何度も何度もしつこく確認されて、ようやく開放された。
途中何度も、お兄様達のことを聞こうと思ったのに、そのたびにしつこく確認されて困った。
先生にお礼を言ったら、ライザと先生に驚いた顔をされたけれど「なんのなんの、お体に異常が無くて良かった」と部屋を出ていった。
先生が、帰ってくれたことでやっとライザにお兄様達のことを聞ける。
「ライザ、あのねお兄様達の怪我ってどうなったの?」
「アガルト様とエドワルド様ですか?」
ライザは一瞬怪訝な顔をして、どう答えようか悩んでいるみたい。
「まさか、私を庇ったせいで大怪我でもされたのっっ?」
夢のようなもので見た印象だと、細かな切り傷くらいかと思っていたけど、実はどこか大怪我されていたのかも。
あー、本当に申し訳なくて泣きそう。お二人は大丈夫かしら。
「いえ、多少切り傷はあったみたいですが、お二人ともお元気でいらっしゃいましたよ」
「そう、良かったわ」
ほっ。それなら良かった。いや、私のせいでケガをしたんだから良くはないんだけど、小さな切り傷だけなら、一安心だわ。
視線を感じてライザを見やる。
「どうしたの、ライザ」
「いえ、何でもございません」
ライザは不思議そうな、なんとも言えない顔をしている。
はっ、もしかして、今までお兄様の心配なんてしたことない私が心配するのが怪しいのかもしれない。
「こほん。ライザ、お兄様に会いに行きたいから支度をしてくれる?」
「会いに行かれるのですか? お呼びになられるのではなく?」
「ええ、用があるのは私だもの。私がお兄様のもとへ行くわ」
ライザはまた怪訝な表情を浮かべる。そうよね、だって今までの私なら自分からお兄様に用があるときでも、呼びつけていたんだもの。そりゃぁ、怪訝な表情もしちゃうわよね。ほんとに今までの私って、第一王子に対してどんな態度を取ってたのよ。
「そう、ですか。ですが、今はアガルト様にお会いにはなれません。アガルト様は謹慎中で、西の塔にいらっしゃいますから」
「謹慎中……?」
「はい、ミリアリア様にお怪我を負わせた罰で……」
な、な、なんですってーーーーーー!?




